北方の人
私とロベルもすぐに意識を転換した。
具体的なことを聞く必要もなかった。大陸の沿岸に集結した魔力の反応が堂々と感じられたから。視力が強化された目で見ると、武器を持って険しい顔をしたまま集まっている人たちが見えた。
ロベルが口を開いた。
「北方の大陸は本来一つの国が支配する小さな大陸でしたね。しかし、その国は『凍りついた深淵の暴君』の降臨によって滅亡したはずです」
「だからなおさら警戒が厳重なのでは? 国を失って辛くも生きていく人たちだから」
分身なのか、それとも他の何なのかは確認されていない。とにかく『凍りついた深淵の暴君』の力の一部が北方の大陸の唯一の国に降臨した。その余波で王城は破壊。奇跡的に死者はいなかったというが、王都のインフラが完全に破壊され、国の機能が停止してしまった。
しかも、邪毒神の力が大陸の気候まで歪めてしまった。もともと北方の大陸は寒い場所だけど、邪毒神の力のせいで生きていくことすら難しいほど殺人的な寒さに変わってしまった。
そういえば『凍りついた深淵の暴君』の修飾語は猛暴な冬天の主だった。ジェリアの『冬天』に似た力なら、この寒さを作ったのも納得できる。
騎士団も沿岸の人々を確認し、警戒態勢に入った。そもそも私たちは彼らと戦いに来たのではないので、まだ臨戦態勢ではなかった。でもあっちからこっちを攻めるなら、こっちもじっとしていられないだろうね。
「ロベル。トリアは?」
ロベルは騎士科の生徒資格で現場実習に来たのだけど、トリアは私の随行員資格で同行したので若干立場が違う。彼女は恐らく船内で待機中だろう。
「ちょうど連絡が来ました。姉貴もすでに魔力の気配で状況を確認したようです。上陸する時に出るそうです」
船が沿岸に上陸するまでは何も起きなかった。しかし、大陸の人々の警戒心は依然として残っていた。いや、船が近づくにつれてひどくなっていた。
ついに船が沿岸に着いた。彼らは私たちが下船する前に槍をこっちに向けた。魔道具でも何でもないただの槍だった。
彼らの先頭に立った毛むくじゃらのおじさんが口を開いた。
「お前らは誰だ? 何の目的でここに来たのか?」
警戒心旺盛な表情でも隠すことができない恐れがあった。私たちが誰であるかを知って恐れるよりは、ただ突然現れた誰かに漠然とした恐怖を抱いているのだろう。
こっちの指揮官が先に降りて自己紹介をした。
「私はバルメリア王国月光騎士団のベノン・アスティッド百夫長です。私たちは月光騎士団の百人隊です。過去、この大陸の国と我が国は友好関係を結び、私たち月光騎士団が貴方方との交流を担当していました。私も何度かここを訪れたことがあるのですが、入国担当官だった御方はいますか?」
「……国の旦那たちは忙しくてこんな所にはいない。お前らの身分を証明してくれる人はここにいないんだ」
「そうですか。私たちは大陸を占拠した邪毒神について調査に来ました。できれば解放をお手伝いすることもできます」
ベノンさんはなかなかきれいでハンサムな男だ。そんな彼が人のよさそうな微笑を浮かべると、なかなかいい印象になった。
しかし、北方のおじさんは相変わらずぶっきらぼうだった。
「あれが我が国を台無しにしたのがもう十年以上前だ。その歳月の間放置しながら、今さらそんなことを信じろということか?」
無理を言っているわね。そもそも他国の仕事に直ちに乗り出すのは難しいことだ。その上、実際に我が国は北方の大陸に邪毒神の力が降臨するやいなや直ちに騎士団を派遣した。けれども、邪毒神の影響で海の魔物の数と凶暴性が急増し、航海可能な海域を確保するのに十年以上の時間がかかった。助けてあげないのではなく、やっと助けられる状況になっただけ。
しかし、ベノンさんは頭を深く下げた。
「申し訳ありません。私たちもなるべく早く貴方方を助けたかったのです。ですが、邪毒神の影響で海の危険性が大きく増加してしまいました。 それを整理して航海可能な海域を確保するのにこんなに時間がかかってしまいました。本当に申し訳ありません」
「……ふん。」
北方のおじさんは鼻で笑った。しばらく何も言わずにベノンさんを睨んでばかりいたけれど、何を考えているのかよくわからない。しかし、ベノンさんは北方のおじさんが口を開くまでじっと待っていた。
「……港から追い出すつもりはない。どうせ俺たちにはそんな力もないから。しかし、俺たちの協力を求めるのは難しいと思えよ」
「私たちは本当に貴方方を助けに来たのです。上層部の方々を紹介していただけませんか?」
「頼む対象を間違えた。俺たちのような人々は明日生き残るための悩みだけでも手に余るところだ。お前が望む方々がいつどこにいるかは俺たちもわからない」
ベノンさんは困っていた。もともと地元の人の助けを借りて進めることを前提としていたのだから、相手が非協力的なのは困るだろう。まさかこんな事態を想定しなかったわけではないだろうけど、なるべく協力を得た方がいいから。
しかし、困っている様子も少しだけ。ベノンさんはすぐに穏やかに笑いながら再び口を開いた。
「それではお待ちしております。私たちは貴方方を助けるために来たのです。貴方方の心を得ることができず、私たちだけで動くのは意味がありません」
「……勝手にしろ」
北方のおじさんはそのまま後ろ向きになってしまった。ベノンさんはまた船に乗り込んだ。来るやいなや照れくさそうに笑いながら頭を下げた。
「すみません、皆さん。数日待たなければならないようです」
「……お人よしですわね」
あの騎士団長のいる月光騎士団にこんな人がいるなんて。正直ちょっと驚いた。
しかし、ベノンさんの選択は悪くない。北方のおじさんも単純に駄々をこねるのではない。何かある。それを把握するための時間を確保するためにも、ここで待つ必要がある。ベノンさんもそれを考えて決めたのかもしれない。
とにかく、数日はここに縛られているしかないわね。
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