ボール遊……び?
それより着替えたところまではいいけど、これから何をすればいいのかよく分からないね。こんなに遊びに来たことがないから。
そんな私の悩みをすでに察したように、アルカがニッコリ笑ってどこかでボールを取り出した。
「まずはボール遊びからやってみましょう! その次はこの国が運営するレジャーサービスを楽しみましょう!」
「……まったく」
本当に決心して来たのね、この子。
「まぁいいわよ。せっかく遊んできたんだからね。チーム戦にしようか?」
「いいですよ!」
とアルカが喜んだのもつかの間、喜べない展開が続いた。
「お姉様と同じチームは私です!」
「ダメ。リディアが先だよ」
……アルカとリディアが、誰が私と同じチームになるかについて喧嘩を始めたのだ。
「ねぇ、私は誰でもいいわ……」
「私がよくないです!」
「リディアが先だよ!」
お互いに睨み合う二人の視線の間で火花が飛び散る幻覚が見えた。……いや、幻覚じゃないみたいだけど? しかもだんだん二人の周りにパチパチと魔力のスパークが……。
「ストップストップ! それなんかで何をしているのよ!」
「なんか、じゃないんですよ! 私たちには大事なんですよ!」
「そう! 譲れない!」
リディアの周りで〈爆炎石〉が芽生えた。アルカも『結火』や『冬天』とかの特性を複製し始めた。尋常でない様子で周辺の観光客までこちらに注目し始めた。
ええいっ、このバカたちがもう!
「貴方たち、ずっとそうすると私は抜けるわよ」
私が抜けてしまえば論争をする理由もなくなるだろう!
効果はすごかった。二人が非常に当惑したのだ。特にアルカは泣きべそになった。その表情を見ると心が弱くなったけれど、ここでは引き下がれない。
「大したことないじゃない。二人とも私と同じチームになりたいなら、交互にやってあげるわよ」
その程度なら満足するだろう。……と思ったのが間違いだった。今回は誰が先かってまた口論が始まったのだ。えいっ、このバカたちがもう……!
その時、ジェフィスがふと口を開いた。
「……ただ三人でチームになればいいんじゃない?」
「「「あ」」」
三人のバカの声が見事に重なった。
***
「ちょうど気持ちいい温度ですね」
「そうだね、ただのんびりと水に浮かんでいるだけでいいと思う」
トリアとジェフィスは海水の温度を感じて微笑んだ。
二人に加え、ロベルまで計三人が私の向かいに立っていた。そして私の方にはアルカとリディア。このように三対三で簡単なボール遊びをすることにした。水に入ったのでパレオは脱いだ。
ちなみに遊びを決めること自体も順調ではなかった。
「ボール遊びって何?」
「……そこから?」
肉体派とはいえ、やっぱり貴族は貴族。ジェフィスはボール遊びであること自体を知らなかった。理由は少し違うけれど、リディアも同じ。ボールを持ってきたアルカさえも庶民の遊び方の一つという程度の知識しかない始末だった。こう言う私も前世と現世をひっくるめて直接ボールで遊んだことはあまりないし。
それでも私は転生者。前世の知識を動員して、なんとか規則を確立した。といってもネットも何もないし、ただボールをレシーブできなければ失点という単純なルールだけだったけど。膝の上まで浸かる程度の水中でプレーするというのが特異事項だった。
「五点マッチくらいなら大丈夫かしら?」
とりあえずボールは私の手にある。ここで最初のサーブをどうするかによって、今回の遊びの雰囲気が決まるだろう。どうしようかと思っていたらふと微笑んだ。私の顔を見たジェフィスとロベルの肩はビクッと上下した。
「優しくしてほしいんだけど」
「何言ってるのよジェフィス。このメンバーでそれは面白くないじゃない」
ちょうど膝の上まで水に浸かった状態で動く環境だ。どうせならもっと面白いゲームになったらいいんじゃない?
自分でやってみるのは初めてだけど、前世で見た漫画や動画を真似する感じで。ボールを空の上に投げた後、落ちてくるボールにタイミングを合わせて手のひらで叩きつける。サーブというよりはスマッシュの感じで。
手のひらに魔力をこぉっそり凝縮してね。
――極拳流〈一点極進〉
爆弾のような爆音が鳴り、ボールは閃光になった。砲弾のように飛んだボールがジェフィスの頭の傍を通過した。ボールが水面に激突し、巨大な水しぶきを上げた。
一瞬の静寂。その後、ジェフィスがおびえた声を上げた。
「危ないだろ! これがボール遊びか!?」
「まぁ、ちょっとアレンジしたというか?」
「ボールも耐えられないよ!!」
「大丈夫よ。魔力でボールを保護したからね。あ、ミスでボールを壊したらすぐに敗北するルールも追加するわ」
ジェフィスは深いため息をついた。私と同じチームのアルカとリディアも今度は呆れた顔だった。ロベルは少しため息をついた後、再び平穏を取り戻した。
そしてトリアは……戦意を高めていた。
「ほう、ほほう。今回はこうやって行くのですか? いいです。その勝負、受け入れることにしましょう」
あれ、どうしてこうなったんだろう?
まぁ理由はともかく、やる気を出してくれれば私もいい。テンションをそのまま維持できるからね。
「今は練習ゲームだったことにしてあげる?」
「不要な配慮です。すぐに敗北をお届けいたします」
トリアは『天風』の風でボールを回収した。そしてさっきの私と同じ要領でボールを強打した。軌道は私の正面。しかし、私がレシーブ姿勢をとった瞬間、突然『天風』の風がボールの軌道を横に曲がらせてしまった。アルカの前だった。
「アルカ!」
「え、えいっ!」
アルカは身を躍らせてボールを受け取った。セーフ! でも跳ね返ったボールが空高く飛んだ。トリアは風を操ってボールを回収しようとした。その瞬間、私の後ろから爆音と水しぶきが上がった。リディアが恐ろしい跳躍力でボールに向かって跳躍する音だった。
「リディアの番!」
リディアは拳でボールをぶん殴った。炸裂の瞬間、爆発が起こってボールを〝発射〟した。トリアの風を吹き飛ばすほどの勢いだった。
「くっ……もう知らない!」
ジェフィスが自暴自棄になったように叫びながら『加速』を発動した。
私たちの遊びはそのようにめちゃくちゃだった。
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