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バカンスの始まり

「うわぁ、海水が温かいです!」


「ちょうどいい温度だと思うよ」


 アルカとリディアがウキウキして騒ぐのを見て苦笑いをする。


 燃える海に到着した私たちはまず初日は宿舎で休み、翌日すぐ燃える海に来た。メンバーは私とアルカと私たち姉妹の使用人たち、そしてリディアと彼女のメイドであるネスティ。それに加えてジェフィスまで。


 私を含む女性陣はみんな動きやすいワンピース姿だったけれど、アルカとリディアは今すぐにでも水着に着替えて海に飛び込むかのように浮かれていた。まぁしょうがないだろう。バルメリア王国は観光地としての海がないから。しかも燃える海はただの海ではない。


 広々とした海の向こう、水平線の近くが燃えていた。まるでタンカーが沈没して漏れた油に火がついたように、海の上で絶えず火が燃え上がる姿はかなり印象的だった。


「ここがこれくらいの温度なのに、中心部は海水が蒸発しないのかしら?」


 思わず考えが口に出た。アルカは呆れた顔で私を見上げた。


「お姉様。最初の感想がそれですか?」


「これは叱られても仕方ないね」


「感傷が乾いた人間でごめんね、まったく。そう言う貴方たちはこれからどうするの?」


 周辺は観光に来た人でごった返していた。中には普通の海水浴場のように楽しんでいる人もいれば、遠くから魔道具で写真を撮る人もいた。船に乗る観光コースもあった。アルカとリディアはそのすべてに興味を示していた。


「まずはみんなで水着に着替えましょう!」


「私はちょっと用事を済ませて……」


「えいっ!」


 しばらく体を引こうとしたけれど、話を終える前にアルカは私の腕をぎゅっと抱きしめた。意気揚々とした眼差しが私を見上げた。


「ここまで来て逃げてはいけませんよ!」


「いや、逃げるのじゃないわ。ただちょっと用事があって……」


「……お姉様、どうせあれ調査しに来られたでしょ?」


 アルカは燃える海の中心部を指して耳打ちした。しらを切るか悩んだけれど、アルカはすでにそれさえ予想していたかのようにため息をついた。


「お姉様のお考えはバレバレですよ、まぁ」


「ごめんね」


「大丈夫ですっ。悪いことをしようとしているわけでもないから。許してあげます。ただ……今はダメです!」


 アルカは突然紙袋を差し出した。水着入りの紙袋だった。強烈な意志が感じられる行動に苦笑いしてしまった。


「水着……はちょっと……」


「今ならこれで許します。これさえも先延ばしにすれば次はアレですからね?」


 アルカはネスティが持っている紙袋を指差した。彼女の紙袋……の一つにまた私の水着が入っているのかしら。


 実は二着とも私が選んだのじゃない。アルカとリディアがすごく浮かれて買ってきたのに……あんな風に言うのを見ると、あっちの水着って何か尋常じゃないデザインなのかしら。


 ネスティを振り返った。ところが、なぜか彼女は渋い顔で視線を逸らした。次にリディアを見たけれど彼女も同じだった。不安が襲ってきた。


「……あれ、一体何の水着?」


「うーん……今すぐ着替えるなら、あれは見なくてもいいですよ」


「一体何よ!?」


 三人は視線を逸らすだけで、最後まで返事をしなかった。それでトリアを振り返った。彼女も水着の購入に同行していたから。


 トリアはため息をつき,口を開いた.


「……お嬢様の人生最大の露出度を更新すると言えますね」


「なっ……!?」


「……それはちょっと……」


 ロベルの顔が爆発するように赤くなり、ジェフィスは苦笑いした。ところでそこの男たち、私の体をちらっと見る理由は何? こっそり見ると思っているだろうけど、全部見えるわよ!?


 思わず両腕で自分の体を覆うように肩を抱いてしまった。私の顔さえも熱くなるわね、もう。


「……ねぇ、何を考えてそんなものを選んだの?」


「あの……お姉様に似合うのをあれこれ想像していたら、つい」


「貴方は私にそんなものを着せたかったの!?」


 仕方がない。あっちの方はアルカの言う通りに見ないことにしよう。


「分かったわ。今は諦めるわよ」


「やった! 作戦が通じました!」


「フッ」


 アルカとリディアの意気揚々とした顔がこんなにイライラするのは初めてだね。


 仕方ないわね。負けてあげるつもりで、今は大人しく従うようにしよう。まぁ、二人も結局私を休ませてあげたいだけだから。




 ***




「わぁ、きれいです!」


 着替えが終わって再び集まるやいなや、アルカは私を見て嘆声を上げた。


「貴方こそすごく可愛いわ」


「えへへ、ありがとうございますっ! でもお姉様もとてもきれいです!」


「うんうん。リディアから見てもアルカのセンスは本当にいいと思うよ」


 正直、私から見ても今回の水着は私にかなり似合う。


 真っ白な地に過度ではなく、適当なレベルでフリルが施されたビキニだった。私の白い銀髪と肌に加われば白すぎじゃないかしらと思って少し心配したけれど、薄紫色のフリルがちょうどよくポイントを取ってくれた。下半身にも似た色配合のパレオをまとい、頭にはつばの広い麦わら帽子。ある意味典型的なコーディネートだったけれど、その〝典型的〟が古臭いものではなく検証された美しさを加えてくれた。


「お姉様はセクシー系のドレスが多いですからね。水着は逆に清楚な感じで選んでみました」


「本当にありがとう。……二つ目の水着は誰が選んだの?」


「リディアだよ。熱いものにしてみた」


 リディアはどういうわけか意気揚々と胸を張った。さっきは視線を逸らしたくせに。


 よし。リディアにコーディネートを任せるのはやめよう。絶対に。


 私だけでなく、みんなすでに着替えが終わった状態だった。アルカは金色の地にフリルが多い可愛い系、リディアとネスティとハンナは素朴なワンピース型。男性陣は実に単純極まりないトランクスだったし……なぜかトリアが黒のセクシー系のモノキニだった。


「トリアが水着を着るなんて意外だね。私は護衛ですって言いながら着ないと思ってたんだけど」


「海水浴場でメイド服を着て歩き回るのもおかしいですから。雰囲気とは大事なものです」


「あっそう」


 ……本人が堂々としているから、私が何か言う必要はないだろう。

読んでくださってありがとうございます!

面白かった! とか、これからも楽しみ! とお考えでしたら!

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