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開戦

 数日後、私は中央講堂に向かううちにジェリアと話をした。


「状況はどう?」


「邪毒陣はほとんど除去したぞ。残ったものはわざと残して状況を見守っているところだ。そして……」


 やっぱり修練騎士団。生徒だけど処理が早い。まだ数日しか経っていないのに、すでに敷地全域の邪毒陣をほぼ整理したとは。残ったものも除去するつもりだったら、もう全部なくなったんじゃないかしら?


 それに私にとってはもっと驚くべきことがあった。


「え? 敷地全体を警戒してるの?」


「人員は普段通りパトロールしているが、戦闘準備はしっかりさせておいた。警備隊も臨戦態勢だぞ。犯人が内部者なのか外部者なのかはまだ分からないが、もし安息領と関連があるなら……もともと、あいつらがテロの試みがもみ消されるのを放置する奴らじゃないだろ?」


 おお、警戒態勢をどう誘導しようか悩みがあったけど、勝手に全部やってしまった。さすが有能だね。


 ただし、このままではやっぱりピエリに疑いの目を向けることはできない。


 ジェリアの言う通り、安息領は自分たちの按配が妨害されれば積極的に対応に乗り出す。しかしそれはいつものことだから逆にそれをピエリと結びつける証拠がない。


 まぁそれは最初から考えていたことだから、今は残念でも仕方ないだろう。 それでもここではもう少しエサを投げておいた方がいいかもしれない。


「犯人候補や設置方法は見当がつくの?」


「さぁな、正確には分からん。ボクもそうだし、首脳部の皆もそうだし、安息領の仕業である確率が高いという意見でほぼ統一されたが……そもそも安息領は構成員自体が秘密でもあるし、手がかりもあまりないからな」


 やっぱり予想と大差はないね。


 少なくともアカデミー内部に少しでも疑いの目を向けさせたいんだけど。もちろん今回すぐ結果を出すのはできないけれど、少なくとも警戒心を植え付けておけば今後役に立つだろう。


「そうね。私もすぐに主導者を突き止めることはできないと思うわよ。でも警戒は強くしておいた方がいいと思う」


「どういう意味だ?」


「もし外部から安息領が潜入して邪毒陣を設置したのなら、アカデミーの結界を無視できる実力者か、あるいは内部に内通者がいる可能性があるじゃない。それとも内部者かもしれないし。しかも今回のことでもし安息領が反応を見せるなら……」


「アカデミー内部の状況を監視する方法があるということだな。……そうだな。主導者がどこにいようが、少なくともアカデミー内部に関係者がいると見られる」


「そうよ」


 よし。すでに自ら警戒態勢に入ったから、本当に安息領が反応を見せるなら内部にも疑いの目を向けることができるようになるだろう。


 ……まぁ、ピエリが本当に尻尾を出す可能性はほとんどないけど。それに人々の安全を考えるなら何も起こらないのが最善だ。


「それで? 今日は何をするのか?」


「探してみたいところがあってね。ガイムス先輩が言ったでしょ? 邪毒陣の中心になる魔道具があるって。ちょうど疑わしい場所を見つけたわよ」


「ほう」


 うん? ジェリアの気配が何かおかしいんだけど。


 振り返ってみると、ジェリアは何か不機嫌にニヤニヤしていた。


「何よ」


「いや、何かあれこれよく見つけ出してる気がしたな。まさか君が犯人なんじゃないだろ?」


 こいつが今何を言ってるの!?


「違うの。私がやったらこんなに全部教えてくれるはずがないでしょ」


「信頼を得て潜入しようとしているのかもしれないぞ」


「あれだけ邪毒陣を撒いてやりたいのがせいぜい潜入だなんて、コストが合わないじゃない。それよりはむしろテロを成功させてから救護支援をするのがましでしょ」


「はははは、知ってるぞ。冗談だぞ、冗談」


 いや、全く疑わなかったわけではないだろう。


 もともと『バルセイ』でジェリアは確率が高いか低いかはともかく、そのような可能性一つ一つを逃さず検討するキャラだったから。それに私から見ても今の私は人から見たらかなり怪しいと思うし。


 それでも笑って私の背中を叩く姿を見れば、あまり真剣に疑ったわけではないようだ。私を信じてくれるのかしら?


 ジェリアは私の気配に気づいたのか微笑んだ。


「ボクは論理的なことも重視するが、勘も結構信じる方だな。ボクの勘では、君はあまり悪い人ではないようだからな。それに君の使用人たちも良い人たちのようで、悪い子に騙されるほど愚かな使用人のようでもなかったんだ」


〝ボクの勘では、君はここにいてはいけない人だ〟


 瞬間『バルセイ』のセリフがジェリアの言葉と重なって聞こえた気がした。


 ……そうか。ジェリアは私のことをそう思ってくれるよね。そう思った瞬間、顔が少し熱くなった。


「それはありがたいわね。行こう、話しすぎて足が遅いわよ」


 慌てて足を急いだ。でもすぐ追いかけてきたジェリアが私の顔を見た。私は思わず顔を背けてしまった。うぅ、顔が熱い。


 それにジェリアは気持ち悪くニヤニヤしているし!


「何だ、照れくさいのか? 意外と可愛いところもあるんだな」


「そんなことないわよ」


「本当なのか? 本当?」


「ないってば」


 ああまったく、なんでこんなにしつこいのよ! 貴方こんなキャラだったの!?


 内心イライラしたけど辛うじて我慢した。悪意があるわけではないから大丈夫、大丈夫……。……本当に悪意ないの?


 そのような平和な考えは突然打ち砕かれた。突然ガチャンとガラスが割れるような音が力強く響いたのだ。


「「!?」」


 私とジェリアは同時に顔を向けた。目には見えないけど、あれはきっと……。


「アカデミー結界が壊れたの?」


「完全に壊れたのではなく、穴が開いた。穴にしてはすごく大きいが」


 位置は北……北門の近くかしら。ちょうどロベルが今頃いる所だ。すでに中央講堂の前庭に入ってきた私たちとは少し遠い。今すぐ全速力で飛んでもいいけど……。


[お嬢様! 北門からの侵入者です!]


 ちょうどロベルが思念を送ってきた。


[状況はどう?]


[怪しい奴が北門の結界を壊しました! 今結界の穴から仲間のような奴らが入ってきています!]


[あいつらの人相着衣は?]


[全部黒頭巾がついたマントを巻いています。頭巾を目深にかぶったので顔は見えません。安息領が主にしている服装です]


 ちょうどジェリアも似たような報告を受けたのか、思念で指示を出しているようだった。


 ロベルが言った服装は安息領のトレードマークだ。マント自体が認識阻害効果を持つ魔道具なので、ただ静かに通り過ぎる程度なら人の目につかない。何か大きなことをしたらあまり効果はないけど。


 それより早い……!


 来ると予想はしたけれど、こんなに早く来るとは思わなかった。もう少しこっちが備えた後に来たらいいのに。


 どうしよう? もちろん警備隊も備えているけれど、ジェリアに追加で言質を与えたのがわずか数分前だ。どうせならそれで方針をきちんと決めてからだったらよかったのに! 間に合うかしら? もし備えが足りなくて犠牲になったりしたら……。


「テリア!!」


「きゃあ!」


 突然ジェリアは私の肩をつかみ、大声で叫んだ。


 びっくりした! 何よ急に!


「しっかりしろ。ただ始まっただけだぞ。警備隊も執行部も備えてはいたから問題はない」


 ……私としては珍しく少しパニックに陥ったようだ。心配かけてしまった。


「うん……ありがとう」


「何を。急に人が危なくなったらそういうこともあるぞ。今ならまだ可愛いところがある程度で終わる」


 わぁ、ジェリアが頼もしいお姉さんに見える。……いや、そういえば私より三歳年上だよね。


 おかげで落ち着いてきた私は急いでロベルに返信した。


[ロベル、安息領のマントは魔道具なのよ。逃してしまえば見つけにくくなることもあるの]


[はい、ちょうど今ジェリア部長も同じ話をしました。どうしましょうか]


[今は執行部員としてジェリアの指示に従えばいいわよ。私は私なりに動くから]


[はい。ご武運を]


 ロベルとの思念通信が終わるやいなや、上から人影が一つ降りてきた。トリアだ。


「お嬢様、ジェリア様。状況はお伝えいただきました。どうしますか?」


「私は……」


 思わず講堂の中に走ろうとしたけど止まった。


 考えてみたら、今私一人で急に講堂に突進するのもおかしい。それに外には安息領が暴れ……。


 そこまで考えた瞬間、茂みから黒いマントをまとった怪漢が飛び出した。私たち三人が同時に反応し、最初に伸びたトリアの拳が彼を打ちのめした。


 その姿を見たジェリアは私を振り返った。


「行こう」


「うん?」


「魔道具がありそうな所があると言っただろ? 結界が開いて間もないのにあいつらがここに来たのを見ると、確かに何かある可能性が高いぞ。すでに建物の中に潜入しているかもしれない。早く行こう」


「でもジェリア様、お二人だけで行かれるのは……」


 トリアは難色を示した。


 そりゃそうだろう。トリアは一応私の護衛だから。今まではすぐ傍にいなかっただけで、私が見える所でこっそり護衛してきた。しかし、私とジェリアだけが講堂に入れば分断されてしまう。護衛としては止めるのが当然の判断だ。


 でも私としてはジェリアの提案に便乗したい。


「大丈夫よ。どうせここを空けて一緒に行っても建物の中に奴らが押し寄せるだけなの。むしろトリア、貴方はここから警備隊が来るまで外を預かってちょうだい。私やジェリアがこんな奴らにやられる人じゃないじゃない」


 普通なら受け入れるはずがない話だ。でも私の実力に対する信頼があるトリアなら。


 トリアは襲い掛かる安息領の怪漢を殴りながら答えた。


「仕方ないですね。できるだけ早くついて行きます」


「ありがとう! 行こう、ジェリア!」


 トリアが安息領と戦う音を後ろにして、私とジェリアは講堂へ駆け込んだ。

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