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突然の議論

 いや、いやいやいや。こい子今何を言ってるの!?


「アルカ? 聞こえなかったの? 邪毒神を調査しに行くわよ?」


「はい! だからバカンスに行かないと!」


 その〝だから〟の思考の流れが全然理解できないんだけど!?


 どう見ても冗談の表情ではない。顔は明らかにニコニコしているけれど、妙に異論は許さないという気迫のようなものが感じられた。アルカにこんな感じを受けるのは初めてなんだけど。


「お姉様、病床から起き次第、邪毒獣事件の後始末と状況収拾に行くつもりでしたよね?」


 ビクッ。肩が上下した。それを見たアルカはため息をついた。


「やっぱり。お姉様なら見るまでもないと思いました。そういうことはお姉様が する必要はありませんでしょう」


「でも最後まで責任を持って解決するのが……」


「もうお姉様は十分に活躍しました。騎士団の本隊が来る前に邪毒獣を討伐しただけでもすごい偉業なんですからねっ。それに事件の後始末とアカデミーの状況収拾は誰がやっても構わないでしょう?」


「なら早速邪毒神を調べに行きたいのよ」


「ダメですよ。急いでるわけじゃないですよね? そしてお姉様、最近まともに休んだことがあまりないじゃないですか。だから今頃一度休暇がないといけないんですよ。皆さんそう思いますよね?」


 アルカは素早く他人にバトンを渡した。その中でも一番最初に彼女の視線を受けた人はジェリアと……イシリンだった。


「確かに。あえてテリアが出る必要はないぞ。むしろ今こそリフレッシュの機会だな」


「ありがとう。今までテリアの中で見守りながら本当にもどかしかったわよ。おかげで今回は心が楽になりそうだね」


 二人まで……!


 その瞬間、私は直感した。これ世論に押されて身動きも取れなく負けるよね、と。


 案の定、みんな口を開き始めた。


「考えてみれば、お嬢様はそもそも休暇というものをちゃんと過ごされたことがなかったんでしたね。余裕時間ができたら無条件修練三昧でしたから」


「そういえばそうですね。おかげで仕える僕たちも同じでした」


「使用人である貴方たちもテリアのせいで苦労が多かったよね。リディアも今度はアルカの言う通りにした方がいいと思うよ」


 やっぱりこうなっちゃった!


 何とか話の方向を変えようと思ったけれど、私の心を見抜いたアルカが先に口を開いた。


「お姉様。今まで頑張ってこられたじゃないですか。全部諦めろというわけでもなく、少し休むだけですよ。休息も重要なんですよ」


「……貴方はそう言いながら、ただ私と遊びに行きたいんじゃないの?」


「そんな気持ちもないとは言えません。でもお姉様が少しでも安心して休んでほしいというのは本気です」


 ふぅ、仕方ないわね。


 まぁ、アルカの言葉も間違ってはいない。邪毒神の調査はあえて急ぐ必要はなく、休息は重要だから。体の休息も重要だけど、心を新たにすることは時には新しい考えを誘発する。


 ……まぁ、だからといってただ遊ぶつもりはないけどね。


「分かったわ。今度は貴方の言う通りにしましょ」


「……! ありがとうございます!」


「ところで行きたい所あるの? バカンスなら、とりあえずどこかに行くべきじゃない?」


 ただ休むだけなら、部屋に横になっているだけでいいから。しかし、アルカが望むのはそうではないだろう。


「うーん……実際、面白そうな観光地がいくつかありますよ」


「どこなの?」


 アルカは国内外の主要観光地をスラスラと言った。


 ……あんなにたくさんの観光地がすら出てくるのを見ると、どうやら一日二日調査したわけではないようね。確かにこの子、アカデミーの休み時は短期間旅行などに行きたいとよく話していた。ほとんど私が一緒に行かなかったのであきらめたけれど、本当に大きな興味がある場合には私なしでも結局行った。


 そのうちの一ヶ所を選んで驚いたふりをして口を開いた。


「燃える海? 面白そうな名前だけど、どんな所なの?」


「不思議な力で海が燃え続ける所だそうですよ。中心部は熱くて海に入ることはできませんけど、外郭側は温泉のように使われるそうです。燃える海に生えている宝石のようなものがきれいで、海が燃えること自体が不思議で観光地として開放されたそうです」


「へえ、面白そうね」


「そうですよね!?」


 アルカは私が興味を持ったことを喜んだ。少し罪悪感があるわね。


 ……イシリンが私を呆れた顔で見ているじゃない。


【貴方ってば……】


 イシリンは私にだけ聞こえる思念で言った。苦笑いが出てしまった。でもイシリンは表で言わなかった。アルカは私の苦笑いを気にしなかった。


 実は燃える海についてはとっくに知っていた。もちろん不思議だからでも、観光地として関心があったからでもなかった。


 ……そこはまさに、私が調査しようとしていた邪毒神の一人が占拠した所だったから。


 海が燃えた原因からが邪毒神である。詳しい原因まではわからないけれど、恐らく邪毒神の力の一部が降臨した影響でそうなったのだろう。中心部は熱すぎて観光地として使われず情報が少ないけど、現地の管理者側でも邪毒を観測し接近禁止命令を下したそう。それにしては外郭には危険がないので観光地として使われているけれど。


 結局はアルカの心を利用したようになったわね。でもどうせこうなったのだから、本当にアルカの言う通りに楽しむ気もなくはない。実は私、前世と現世を合わせて海自体が初めてだから。前世の私は病室から外出することすらできない身だったし、現世の私は遊びに行く時間があればもう一秒でも修練をしようという主義だったから。


 そう、これはあれだよ。遊ぶついでにちょっと調査をすること。このくらいは大丈夫じゃない?


 イシリンにそっとウィンクをした。するとイシリンはため息をついたけど、結局肩をすくめるだけで私を責めることはなかった。


 フフ。アルカが初めて話を切り出した時はちょっと戸惑ったけど、いざこうなると楽しみだね。いろんな意味で面白そう。

読んでくださってありがとうございます!

面白かった! とか、これからも楽しみ! とお考えでしたら!

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