今後の計画
大事な話? 何の話をしようとしているの?
イシリンは私の方を向いた。とても真剣な眼差しだった。それを見れば、少なくともいたずらやでたらめではないだろう。そもそもくだらないことを言う奴でもないし。それだけはほっとした。
「テリア。『バルセイ』では黒幕みたいな奴がいたんだよね?」
「ええそうよ。どんな奴かは最後までバレなかったけどね」
『バルセイ』には一応黒幕のような奴がいた。本編のすべての悲劇の根本的な黒幕であり、DLCでも存在感を示した奴。だけど、その黒幕が邪毒神ということだけが公開されただけで、具体的な正体や目的などは最後まで明らかにされなかった。すなわち『バルセイ』では悲劇を克服したものの、その悲劇を起こした張本人を追跡し報復できなかった。
DLCがさらに発売される予定だったので、もしかしたらその後黒幕の正体を現すストーリーがあったのかもしれないけれど。そう考えると、やっぱりDLCを全部プレイできず死んでしまった前世の体が嘆かわしい。
ところがその時、イシリンが爆弾発言を切り出した。
「あの黒幕という奴、私の知り合いかもしれないわよ」
「……へ? 前は見当もつかないって言ってなかったの?」
イシリンを確保してから、『バルセイ』のあれこれについては当然議論していた。もちろん『バルセイ』の黒幕についても。イシリンも邪毒神だから何か知っているかと思って聞いてみたけれど、当時イシリンは全く知らないと言っていた。
確かに、そもそも知っていたら『バルセイ』のストーリーで明らかになっただろう。イシリンは隠しルートでのみ登場したけれど、厳然と『バルセイ』本編ストーリーの登場存在だった。もし黒幕について思い当たることがあったら、『バルセイ』ですでに言及しているはずだから。
ところで急に知り合いかもしれないって?
「前はそうだったわね」
「ところで今は心当たりがあるなんて……いや、ちょっと待って。まさか……?」
「気づいたみたいだね。そうよ。私の民をここに送ったあいつよ。アグロキフ……邪毒獣と共鳴した時、あいつの魔力の気配を感じたわよ。『バルセイ』の黒幕が奴かどうかはまだ定かではないけど、今回のことに奴が関与したのなら……可能性はかなりあると思うの」
可能性は……かなりあるかしら。
ただ、それが事実だとしても……どの程度役に立つかはよく分からない。邪毒神という存在自体をこちらから攻撃する方法がないこともあるけど……全盛期のイシリンよりも強大な存在を今の私たちが相手にできるのかしら。今でなくても、『バルセイ』終盤の主人公と攻略対象者の力でも……あるいは現世の私たちが『バルセイ』の彼らより強くなったとしても、邪毒神を直接相手にするのは恐らく無理だろう。
まぁ、そんなことぐらいは最初から覚悟していたことだ。今さら心配するのも今更のことだよ。
「ありがとう。かなり役に立ったわよ」
「また飽きることもなく何かやらかそうと思ってるでしょ?」
「ううん、そんなこと全然考えてなかったけど?」
しらを切った。でもイシリンはもちろん、部屋の中の皆が疑わしいという眼差しで私を見ていた。みんなこういう時だけ私にああするのよね、まったくもう。……やらかそうとするのは本当だけど。
「本当よ。せめて危険なことをするつもりはないわ」
「呪われた森のもっと深いところに突撃するという程度は危険だとも思わない奴でしょ、貴方」
「悔しいからはっきり言うわよ。戦いに関する考えでは全くないの。そもそも『バルセイ』でも邪毒獣出現以降はしばらくはっきりとした事件がないわよ。私が十八才になった時に始まるプロローグからが本格的な始まりに過ぎないし」
その上、『バルセイ』の前半部は戦闘より攻略対象者ルートの比重が高く、大きな事件と言えるものはほとんどない。もちろん『バルセイ』になかった出来事……例えばケイン王子の視察やピエリの王都テロのようなものがあったけれど、それは少なくとも私が主導したものではないから今想定する意味がない。
そして今思うのは私が主導してきたことの中では一番平和なことよ。あえて隠す必要もないし、隠しても疑いだけが大きくなるだろう。なので今回はすぐ言うことにした。
「邪毒神たちについてちょっと調べてみようと思うわよ」
「邪毒神? あの『バルセイ』の黒幕という者について?」
「それはイシリンの情報以外に信じることがほとんどないから保留するつもりよ。イシリンが知っていることとこの世界の情報を照らし合わせることはできるけど、時間が長くかかるからね」
「なら『隠された島の主人』についてですか?」
「それも含めて、六人くらい調べるわよ」
私の使用人たちとジェリアは私の意図に気づいた。ジェリアが代表として口を開いた。
「君が一年生の時に図書館で探したあの邪毒神たちのことか?」
「そうよ」
『バルセイ』に名前が出ていたけど、修飾語が変わった『隠された島の主人』。そして『バルセイ』に最初から名前さえ登場しなかった五人の新しい邪毒神たち。
『隠された島の主人』はすでに積極的に介入し、私の予想を外れることを多く起こした。残りの五人はまだ静かだけれど、いつ事件を起こすか分からない。『バルセイ』の事件がなくて余裕ができる今の時期こそ、その邪毒神たちについて調べる絶好の機会だ。
そんなことを要約して話すと、みんな頷いた。
「確かに。しかも『隠された島の主人』と『孤独な無数の軍団長』以外は外国の領域を掌握したな。それを調べに行くには時間の余裕は必ず必要だ」
「公爵令嬢が直接動くなら、国際的な話題にも対応しなければなりませんね」
「お嬢様はご自分で行かれることは明らかですので、こちらでもご用意しておきます」
ジェリア、ケイン王子、トリアの言葉だった。反対をしてくれなくてありがたいけれど、それとなく私が直接行くことを既定事実と見なすのはちょっと……まぁ直接行くつもりではあるけど。もちろん、調査のための言い訳はすでに考えている。
今からそれを口にしようとしたけれど、突然アルカがニッコリして手をたたいた。
「じゃあ、お姉様が治り次第みんなでバカンスに行きましょう!」
……は?
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