長い戦いの始まり
「ケイン! 状況はどうだ!?」
臨時司令部に飛び込んだジェリアは、私の顔を見るやいなやそう叫んだ。臨時司令部といっても、中央講堂の結界近くに椅子数個と机を置いただけだけど。
「まだ大丈夫だよ。始まったばかりだから」
「邪毒獣は?」
「テリアさんとアルカさんが防いでいる。結界で状況を監視しているけど……正直驚いた」
ジェリアは結界の方を見て舌打ちした。しかし、険悪になったのは表情だけだった。今にも飛び込みたいだろう。それでもあまり役に立たないということは自分でもよく知っているはずだ。
「たかが生徒二人で邪毒獣を相手にするとは、無謀すぎるぞ。その程度の人数で邪毒獣を討伐するためには万夫長ぐらいにならないと」
「私も知っているよ。だから私たちの目標はできるだけ他の所を早く整理した後、邪毒獣の方に力量を集中することだ。二人が死んでしまう前にね」
ジェリアは直ちに臨時司令部に展開された地図に目を向けた。
アカデミー敷地全体を表現した地図。その中に三色の表示が記録されていた。青色は修練騎士団と警備隊の配置。緑色はあらかじめ決めておいた避難所の位置。そして赤色は小さな時空亀裂が発生し、魔物が大量発生するポイント。すべてテリアさんが提供した情報をもとに記録され樹立されたものであった。
「団員たちと警備隊はすでに予定通り作戦を始めたぞ。まだ魔物が発生してはいないが、亀裂が開いているのは確認した。時間の問題だろ」
ジェリアの言う通りだった。
すでに敷地全域は邪毒獣の出現と中央講堂の時空亀裂の暴走により邪毒濃度が急激に上昇した状態だ。その影響で所々に時空亀裂が開いていた。
でもそれはすでに予想しておいたことであり、対応策も事前に議論していた。
「こちらの人たちも非戦闘員を避難させている。幸い避難作業は順調だけど、予想通りなら避難が終わる前に魔物が出現し始めるよ。その時が山場だろうね」
アカデミー警備隊と修練騎士団執行部など戦闘員たちはジェリアの指揮を。そして非戦闘員や、彼らを護衛する少数の人員は私の指揮を受ける。その中でも私の方は避難と連絡担当だ。
ジェリアは頷いた。そして、もう一度中央講堂の結界に視線を向けた。彼女の表情が再び険悪になった。
「ケイン。君はこの場で指揮を続けるつもりだな?」
「そう。そもそもここも魔物発生ポイントに近いし、襲撃予想地点の一つだから。こちらは私と騎士隊が守りながら結界を管理しないと」
「執行部と警備隊の指揮権も移譲してもいいのか?」
「関係ないけど、なぜ?」
「主な避難所である第二講堂の兵力の一部を他の所に支援させたいんだ。ボクが直接そこを防御すれば、それだけ人員を分散できる。戦いながら指揮を執ることもできるが、完全に集中したい」
ジェリアらしい選択だ。もちろん私にも断る理由はなかった。
「わかった。今から全体の指揮は私が受け持つようにしよう。ジェリア、君は一緒に戦う第二講堂の人員を統率してくれ」
「いい。すぐ行くぞ」
ジェリアはすぐに必要な人員を連れて第二講堂に向かった。すでに指揮官の変動を他の場所にも知らせたようで、各部隊が私に連絡を取った。
ちょうど四方の時空亀裂がついに魔物を吐き出したようで……そろそろ始めようか。
***
今回がいったい何回目なのか。
第二講堂に向かいながら、ボクは悔しさで歯を食いしばった。
テリアはまた危険を冒している。邪毒獣は騎士団長でさえ油断できない相手。そんな存在をせいぜい生徒のテリアが耐えられるはずがない。一人で戦うわけではないというが、それにしても仲間とはテリアより弱いアルカだけ。
五年前に決心して以来、いつもテリアの傍に並んで戦えることを願っていた。ピエリのテロの時はやっとそれが実現するかと思ったが、結局最後の最後にテリアにすべての負担が転嫁されてしまった。ところが、またテリアはとんでもない危険を冒している。
……だが気分だけでボクの役割を変えることはできない。ケインに全体的な指揮権を渡したが、ボクは修練騎士団長。そして今アカデミーの危険要素は邪毒獣だけではない。ボクには他の危険にも対処する義務がある。
テリアはこれまでも規格外の力を見せてきたし、そのピエリともある程度は相手が可能だった。そんな彼女なら、少なくとも邪毒獣を相手にもある程度耐えることはできるかもしれない。
今はテリアを信じる時だ。
「ジェリア様! 到着しました!」
「ああ。全員退け」
部隊員を後ろに退かした後、高く振り上げた重剣を地に刺した。
――『冬天』専用技〈冬結界〉
巨大な氷の木が育った。木を中心に強力な『冬天』の魔力が広まった。巨大な結界が第二講堂の周辺一帯を覆った。木も結界もアカデミーのどこでも見られるほど巨大だ。
息を深く吸い込んだ後、魔力を込めて叫んだ。アカデミー全域に轟くほど。
「氷の木がある所、第二講堂が主な避難所だ! 講堂の周りにいる者は木を目印にせよ! 修練騎士団と警備隊は避難する人々を迅速に案内せよ!!」
避難所は時空亀裂や魔物発生ポイントとは少し距離がある。
しかし、多くの人が来るだろうし、彼らの移動に反応した魔物がここに押し寄せるだろう。人がある程度集まってこそ、避難所を守るための防衛戦が始まる。
「備えろ。すぐ避難民に誘われて魔物が押し寄せてくるからな。たった一人も犠牲にしてはいけないぞ」
ボクと部隊員が避難所を守る関門になる。
〝猛烈な〟フィリスノヴァの名をかけて、たった一匹の魔物もここを通過させない。
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