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新しい決心

「一つだけ聞いてもよろしいですか?」


 ケイン王子だった。


 あまりにも静かな無表情だったので、何を考えているのかは分からなかった。しかし少なくとも、私を見つめる瞳に否定的な感じはなかった。先ほどまで〈天の契約書〉を几帳面に調べていた時も、契約書の内容を詳細に調べるという以上の何かは感じられなかった。


 けれど……質問か。いってい何を考えているのかしら。


「質問は大丈夫です。ですけど、ガイムス先輩にも話したように、私がこれから話すことについては〝契約〟を結ばないと言えませんわよ」


「そんなに敏感な質問ではないです」


 ケイン王子はもう一度契約書に目を向けた。


「今日の情報は、今まで言っていた災いと関係があるのですか?」


「もちろんですの。補修作業が明日じゃないですか。その他の話を今するのは時間の無駄ですわよ」


「いいです」


 ケイン王子は返事を聞くやいなや〈天の契約書〉に署名した。予想外の断固たる行動だったので、私は少し戸惑った。


 いざケイン王子はそんな私が面白いように笑った。


「信じます。この〈天の契約書〉も分析結果問題はないようですし、これからの話を口にする程度なら大きな問題はないでしょうから」


 やっぱり分析はしたわね。油断できない王子なのよ、まったく。


 最後にシドは……ニコニコと署名した。


「俺はまだお前のことをよく知らないけど、こんなに信頼されるなんて羨ましいね。()()ケイン王子殿下もお前のことを信じているようだから、俺も一度信じてみる。面白そうにも見えるしね」


 きっと最後が本音なのよ、あいつ。


 とにかくみんなが〝契約〟に同意してくれたのは嬉しい。そう思うと、思わず笑みがこぼれた。


 ……今からの話は愉快じゃないはずだけど。


「それでは始めます。……とはいえ、口で話すのじゃありませんけれども」


「どういう意味?」


 私は返事の代わりに手を上げた。慎重に魔力を調律しながら。


 ――紫光技特性模写『回想』


 指先に集中した魔力がかすかに輝いた。それが広がり、ゆっくりと空中に映像を描き出した。


 この魔力……『回想』は魔力で映像を作り出す特性。頭の中に考えたことはもちろん、物や空間に込められた魔力の残滓をもとに過去を具現することもできる。調査や尋問、資料保存などに非常に有用な魔力である。ちなみに前世のテレビに対応するこの世界の映像媒体もほとんど『回想』をベースに動作する。


 今、私がこの魔力を使っている理由はただ一つ。


 ――『回想』専用技〈記憶再生〉


 私の記憶の中の情報を、ほんのわずかな加工をしてみんなに見せる。


 加工とはいえ、情報そのものを操作することはできない。ただ見せる形式を少し変えるだけだ。どうせ記憶をそのまま見せることで信憑性を得るのが目的だから、情報を操作するつもりはない。


「これは……!?」


 真っ先に驚愕した人はアルカ。その直後に息を呑んだのはジェフィスとシドだった。


 ……やっぱり啓示夢を見た三人は、すぐにこの映像の意味が分かったわね。もちろん、三人の他にもすぐ気づいた。


 映像の内容はこうだった。邪毒濃度が異常に高くなったアカデミーで、突然中央講堂の建物を壊して邪毒獣が現れた。続いてアカデミー敷地の随所にいろいろの時空亀裂が発生し無数の魔物があふれ出てきて、生徒と騎士団などを問わず数多くの死傷者が出た。


 中でも一番目立つのは、ジェフィスの死。


 でもそれだけで事件が終わるわけもなく、悲劇は続いた。ついに騎士団の奮戦で邪毒獣は討伐されたけれど……勝利の喜びなんてなかった。ただ廃墟となってしまったアカデミーで、死んでしまった人々に捧げる哀悼がいっぱいなだけ。




 それが、『バルセイ』の最も悲劇的な回想シーン――邪毒獣出現事件の顛末だった。




 ……今までただ一度も、『バルセイ』の記憶を他人と共有しようとは思っていなかった。


 けれど『隠された島の主人』の啓示夢が、私が少しずつ流していた未来情報とかみ合った。その結果、〝具体的な未来〟に対する考えがみんなの頭の中に次第に浮び上がるようになり……何より決定的に、啓示夢のおかげで()()()()()()()()()()()()()()()という印象が、少しずつ形成されていた。


 それなら私もそれを利用して『バルセイ』の記憶の一部を共有してみよう――それが私が今回下した決断だった。


「……やっと理解できたな」


 真っ先に口を開いたのはジェリアだった。


「未来とは近づけないこと。どんな魔力も、未来を完全に覗くことは不可能だった。もし未来を知る能力があれば、その能力を渇望する者が果てしなく押し寄せてくるだろう。〈天の契約書〉を使った機密保持を求めるに値する。いや、その程度でも足りないかもしれないぞ」


「でもあれが本当に未来のことかよ?」


 不信感に満ちた意見を述べたのはシドだった。


「未来のことだと確信する方法はないじゃない? 今まで言ったことと合致するけど、そもそも今までの言葉も明確な証拠はなかったと思うけど」


 ジェリアは静かに眉をひそめた。シドの言葉が間違っているわけじゃないからだろう。


 私を全面的に信じてくれる子たちの信頼に頼るのも一つの方法だけど……それじゃ不完全だよ。


「リディア、ちょっと失礼するわ」


 リディアに了解を得て手を伸ばした。リディアの額に私の指が触れた瞬間、『回想』の魔力で彼女の頭の中に映像を流し込んだ。


 ゲームの場面――リディアが長い間抑えられ、後になってディオスを克服して立ち上がる姿を。


 その過程のあれこれにリディアの顔が真っ青になった。


「これは……最初から知っていたの? リディアに会う前から?」


「……ええ」


「じゃあ、テリアがリディアにしてくれたことも全部……」


 リディアはしばらく頭を下げたまま黙っていた。けれど、私が何か話しかける前に、再び頭を上げた。


 その顔に現れたのは強い決然さだけだった。


「信じる。貴方がリディアに見せてくれたすべてのものを」

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