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行き詰まった道と確信

「ロベル。みんなを呼んでね。今すぐ」


「仰せのままに」


 一応ロベルを行かせた後、先ほど予定していたシドの夢のことを先に聞いた。


 ……こっちは予想通り。


『バルセイ』の過去の回想シーンで出てきた場面……シドの犯した過ち。ジェフィスの死に間接的に寄与してしまった過ちと、それによる結果。それに関する内容だった。


 シドとしてはもっと頑張ろうとした行動だった。けれど、それは結局過ちだった。そしてそれによってジェフィスの負担がさらに大きくなった。シドが過ちをしなくても、ジェフィスが生き残れたかは分からない。でも生存確率には明らかな差があったんだろう。


 ジェフィスのためにも……そしてシドのためにも、シドのミスは必ず防がなきゃ。


 少し自信過剰で、あまり気兼ねなく人に近づく一面がある。でも根本は優しい少年。そのような姿は回想シーンでしか見られなかった。自分の過ちがジェフィスを殺したと思っていたせいで、シドの性格が変わってしまったから。


 シドがゲームのように悲しい姿になることも、自責に苦しむことも防いであげたい。


「ちょっと失礼しますわ」


 シドに手を伸ばした。そのまま魔力を投射して、彼の体内の邪毒の痕跡を抽出した。微弱な残滓だったけれど、波長や特性をギリギリで調べるほどにはなった。


 分析結果は予想通り、アルカの痕跡と同じだった。おまけに言えば、先日啓示夢を見たジェフィスの方とも。つまり、三人の啓示夢は全部同じ邪毒神からのものだという意味だ。やっぱり『隠された島の主人』が何かメッセージを伝えたがっているようだね。


 あいつの真意が何なのかは分からない。けれど啓示夢の内容自体は結局私も知っている『バルセイ』の内容だけ。アルカの啓示夢では分からない内容も含まれてはいたけど、計画を変えるほどのイレギュラーではなかった。だから一連の啓示夢は助けに使ってもいいだろう。


「ところでね。どうして急に完全隔離空間について調査をするのかい?」


 ガイムス先輩がふとそんなことを言った。


 そういえば、ガイムス先輩は事態の顛末を知らないね。災いについても具体的に説明したことはなかったし。


 でもここまで彼が巻き込まれた以上、隠し続ける意味はない。そしてガイムス先輩は信頼できる人で、確実に役に立つ先輩だから。そろそろ情報を共有しておこうか。


「実は……」


 ガイムス先輩に災いについて説明している間、友達が一人二人と到着した。ちょうど説明が終わる頃に最後の人まで全員集まった。


「みんなさん、集まってくださってありがとうございます」


「形式的な挨拶はいいぞ。そんな固い間柄ではないだろ」


 ……ジェリア。貴方には公爵令嬢としての最低限の処世術なんてないの?


 いや、今は余計なことを言う場合じゃないわね。


 今回は集まったみんなにガイムス先輩の調査結果とアルカ、シドの啓示夢のことを話した。ただシドの夢については少しごまかした部分があった。ややもするとシドを非難するような形になるかもしれないし、あえて詳細に共有すべきほどの情報じゃないから。


 話が終わるやいなやリディアは手を上げた。


「ねえ、アルカの夢通りなら補修作業中に亀裂が暴走したんだよね?」


「啓示夢が本当に未来のことならね。……今は一応事実だと仮定して進めよう」


「そしたら結局方法は限られるんじゃないの? 完全隔離空間のようなものでもなきゃ」


 ……それはそうだ。


 完全隔離空間以外の方法で外部からの干渉をしようとしたなら、その前に必ず予兆が観測されただろう。邪毒濃度のためというには浄化結界もあったし、何よりも邪毒濃度による暴走だったとすれば、それほど急激に進まない。


「……事件が起きない可能性もあるのでしょうか?」


 ケイン王子がそのような意見を出した。


「そもそもそれらがすべて啓示夢だとしても、確定した未来を示すものかどうかはわかりません。ジェフィスの夢も今の現実とは違うことがあったじゃないですか?」


「間違った言葉ではないが、だからといって事件の可能性を最初から否定したくはないぞ」


 今回はジェリアが反対意見を出した。


「邪毒獣が出現するのは大事件だ。数多くの人命被害が出ることになる。それにボクの弟の命もかかっている。油断して被害規模がさらに大きくなるかもしれないぞ」


「妥当な意見だよ。私も王子として被害が出る状況を放置するつもりはない。ただ……啓示夢やテリアさんの予想とは全く違う形で事件が発生する可能性もあるかもしれないよ?」


 ケイン王子の言葉にしばらく沈黙が訪れた。


 別の事件の可能性、か。もっともらしい話ではある。そもそもゲームとは異なり、邪毒濃度が異常に高められるような手段はもうない。亀裂が急激に暴走したことに邪毒濃度が直接的な影響は及ぼさなかったとしても、ひょっとしたら他のことの媒介として作用した可能性もあるだろう。


 その時、アルカは決然とした顔で頭を上げた。


「事件は起こると思います」


「どうしてですか?」


 アルカはすぐに答える代わりに、しばらく固い顔でじっとしていた。何か考えている……というより、どこか不安に思うことがあるようだった。


「ごめんなさい。明確な根拠はありません」


 曖昧な言葉とは裏腹に、声はあまりにもしっかりしていて強かった。ケイン王子もそれを見て眉間にしわを少し寄せるだけで、アルカの言葉を指摘しなかった。


 アルカは確信に満ちた表情で話し続けた。


「でも、その夢を見たとき……そして目覚めた時、単純な恐怖とは違う確信がしました。これこそ必ず防がなきゃならないことだって。いや、()()()必ず止めたいって。理由はわかりませんけれど……そんな衝動が私の背中を押すような感じがしました」

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