伝言と疑い
「……人間が推し量ることができない、ですか」
眉をひそめた。思わず出た反応だったけど、自覚した後も態度を直す気はしなかった。
「傲慢ですわね。この世界に属してもいない者が、この世界の人間の物差しを評価することはできません。そんな者を神聖視する人も同じですの」
「冷淡ですね。間違った言葉ではありませんが」
私が言ったのは半分は本気、半分は挑発だった。でもマルコは苦笑いしながら頷いただけだった。
挑発に乗らないのはともかく、まさか平然と肯定するとは思わなかったのに。
「……怒らないですね」
「邪毒神がそんな扱いだということは理解していますから。私もまた『主人』に恩を受け、あの御方の意志の片鱗を感じましたのであの御方に仕えるだけです。その経験がなかったら、私もあまり変わらない意見を持っていたでしょう」
気に入らない。
気に入らないけど……あれこれ言っても有益な話は出てこないようだね。
「まぁいいですわよ。別の話をしましょうか。その邪毒神の言葉はそれで終わりですの?」
「いいえ、実は〝オステノヴァの銀色の令嬢〟に直接伝えるようにとおっしゃったお言葉があります」
……これはジェフィスの時と同じだね。
考えてみれば、アルカの時はこのように直接的なメッセージを残さなかった。ところで、なんでジェフィスの時と今は変わったのかしら。あいつの事情が変わったのかしら、それとも……何かの制約が弱くなったのかしら。
物思いにふけりながらも、マルコの次の言葉はしっかりと耳にした。
「未来は過去の蓄積が表現される手段に過ぎない。何かの原因が見つからなかった場合は、より深い過去を探求しなさい。……そう伝えなさいとおっしゃいました」
もっと深い過去、か。
急にあんな話をしてもわけがわからない。でもなんか見当がつく気もした。
私はこれから起こる事件を防ごうとしている。でも原因が何なのか、あるいはすでに消えているのかさえ知らない。その〝未来〟の原因を、もっと遠い過去から探せという意味かもしれない。
……一度確認してみようか。
「『隠された島の主人』の正体はいったい何ですの? そしてそんな言葉を残した理由は?」
「それはわかりません。私だけでなく、あの御方に仕える私たち全員が知りません。あの御方は必要な者に必要な救援をくださるのですが、関係のない者に多くのことを説明してくれないんですよ」
そりゃ面倒くさい奴だね。それなら私に直接啓示夢をちょうだい……と言いたいけど、残念ながらそれは不可能だ。
啓示夢とは邪毒神が見せてくれるもの。そしてその跡で邪毒が残留するのを見れば分かるように、啓示夢は邪毒を媒介に伝達される。ところが私の『浄潔世界』は私の体に触れるすべての邪毒を問答無用で消してしまう。啓示夢を私に与えようとしても、邪毒を浄化しちゃう体が啓示夢を防ぐのだ。
……だからといってこんな面倒な方法を使うのはイライラするけど。
「意図が疑わしいですわよ。助けになろうとするなら、少なくとも理解できることを言ってあげないと」
「ハハハ、それは否定できませんね。……とにかく、あの御方は貴方を助けたいと思われています。ですから、助けが必要でしたらいつでもおっしゃってください」
「そんな日が来るかはわかりませんけれど、覚えておきますわ」
情報はこれだけかしら。
あまり収穫は大きくない。それでも得たものが全くないとは言えないだろう。特に、二つの事実を突き止めたのはそれなりに意味があった。
一つ目はあいつの伝言。それが邪毒獣出現事件を指すのなら、おそらくあいつは事件は起きるんだって言いたいのだ。だから原因を調べろということだろう。それが事実ならね。
そして二つ目は、あいつは私のことをかなり気にしているというアクションを取っていること。本気なのか、それとも他の何かのためのごまかしなのかは分からない。でも私の周りの人に介入したり、自分の信奉者たちを動かしてすることが全部私に役立つことだけだ。
……もし今回の伝言が罠で、今までの姿が私を罠に落ちさせるための工作だったとすれば話は変わるだろう。けれど、それは邪毒神というカテゴリーそのものへの不信に過ぎず、あいつに対する明確な証拠があるわけじゃないよ。
もちろん油断するつもりはないけど、いろいろな可能性を心掛けておかないとね。
「残した言葉はそれで全部ですの?」
単なる確認のための問いだった。マルコもそれは理解しているらしく、穏やかに笑いながら手を広げた。
「言葉自体はそれだけです。ですが、『主人』が特定の誰かを選んでメッセージを残したこと自体が史上初めてです。その事実の重要性はよくわかります。そしてあの御方の意志に接した同志たちは皆が感じています。貴方を助けようとする強力で雄大な意志を」
「かなり積極的な求愛ですわね」
「疑いはいいことですが、どうかチャンスを逃さないように。あの御方の恩はいつも開かれています。別に私たちの同志になってほしいということではありません。ただ貴方を助けようとするあの御方の意志を認めて受け入れてください」
助けようとする意志? あるかもしれない。でも、あまり信じたくはない。
相手が人だったら大丈夫だっただろう。けれど、邪毒神は人間とは違う。ゲームで好意的なふりをして接近する邪毒神はたまにいた。でも彼らを信じた代価はいつも残酷だった。命を落とす程度は普通の仕事だけで、生きても生きていない地獄はいくらでもあった。
偏執症的だとしても仕方がない。それに今は……邪毒神の助けまで要求するほどの状況じゃないから。
「好意的なふりをして決定的な時に裏切って重要なものを奪うことは邪毒神の常套の手段ですの。それを信じるつもりはありません。そうしなきゃならないほど切迫していませんし」
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