信奉者の集会
「お似合いです、お嬢様。とてもきれいです」
「フフッ、ありがとう。貴方も本当に素敵よ」
ロベルの褒め言葉に心地よく答え、私は自分の頭から垂れた黒髪を手で流した。そしてロベルの茶色い髪を一度撫でた。するとロベルの顔が少し赤くなった。
何よ。完全に面白くなくなったと思ったのに、まだ可愛い反応が少し残っているわね。
思わず笑ってしまうと、ロベルは咳払いをして視線を前方に向けた。
「そろそろ始まるようです」
私も彼と一緒に前を向いた。
地味な装い、そして魔力で染まっていつもと違う色の髪。かなり本格的な変装だった。けれど地味だというのも公爵家の感覚で見た時の話で、前世の庶民少女の感覚では今の服も十分素敵だ。おかげさまでロベルの素敵な姿も見たし。
いずれにせよ、平民にしてはさっぱりした程度の服装だったので、特に目立った服装じゃなかった。周りに集まった人々も私たちにあまり注目する感じはなかった。
……いや、それは注目が他のところに集まっていたからだろうか。
「お会いできて嬉しいです、同志の皆さん」
巨大な室内ホールの中、無数の人波の向こう。高い壇上に一人の男が現れた。
金髪を短く切った中年男性だった。なかなかスマートでハンサムな中年というか。顔は穏やかに笑っていたけれど、全身から妙なオーラとカリスマが溢れ出ていた。
「今日も我々の至高な神、『隠された島の主人』の意を代行したいと思います」
『隠された島の主人』の信奉者たち。
私が異空間を調査したり、完全隔離空間について調べている間、ロベルは信奉者たちと接触した。彼らは自分たちの活動を隠さなかったので、接触自体は容易だった。でもそれも末端に過ぎない。そして末端が知ることなど限られている。幹部たちは末端と違って接触するのが容易じゃないし。
そこでロベルは幹部に会える機会を探し出し、信奉者の大幹部が参加する集会の情報を突き止めた。それが今私たちが参加した集会だ。
そして壇上に立った中年がまさに今日のターゲット。信奉者の大幹部の一人、マルコ・アレクシスだ。
……でも。
「『主人』は救いを与えてくださるのです。望むことを成し遂げる機会さえない者、不当な暴圧に強奪された者、どうしようもない現実に絶望した者……それぞれの悲しみは違っても、そのすべてを撫でるあの御方の手は平等だということを……」
……うわぁ、退屈だ。
やっぱり信奉者たちの集まり。演説のほとんどは『隠された島の主人』に対する称賛だった。中には実際に救われた者たちの事例を紹介するものもあったけれど……言葉では何でも言えるわよ。
「ある人はあの御方が邪毒神だという理由で信じられないと言います。邪毒神の多くが悪神であることは正しいです。しかし、すべての邪毒神が悪神であるというのは一般化に過ぎません。少なくとも我々の『主人』は善良な救援者ですから」
……危ない論理だね。
邪毒神はどんな意図を持っていようが、この世界に介入するとそれ自体が害悪になっちゃう。五百年前のイシリンのように、自分の意志とは関係なく。つまり、邪毒神の介入を容認すること自体が危険だということだ。
その上、この世界に関与した邪毒神は大多数が悪神だった。イシリンの場合はもともと関与しなかったけれど事故で降臨しちゃったことに近く、残りのすべての邪毒神は常に災いを起こした。
……もちろん『隠された島の主人』がいろいろ例外的だということは認める。けれども、まだ完全に信じることはできないし……何よりもあいつが善良な存在だとしても、あいつの存在が他の邪毒神まで肯定する理由になってはならない。私が警戒するのはそれなのよ。
幸い、マルコはそのような論理を展開しなかった。
「ですが、これまでの邪毒神たちが皆悪神だったのは事実です。我々の『主人』こそ例外に過ぎません。そして悪神たちに仕え『主人』を否定する安息領はただのテロ集団であるだけです。彼らは偉大な『主人』の救いを妨害し、あの御方の光輝さえ否定する敵。我々が力を合わせて彼らを排除しなければならないのでしょう」
私は思わず眉を上げた。横をちらっと見ると、ロベルも似たような表情だった。
安息領が『主人』を否定する、って? そんなことは初めて聞いた。おそらく安息領と信奉者たちが衝突する過程でそのような交換があったんだろう。
邪毒神ならむやみに仕える安息領が『隠された島の主人』は受け入れないなんて。もちろんマルコの言葉が事実でない可能性もあるけど……信奉者たちが安息領に被害を与えたのは事実だから、安息領の方からも敵対するのは不思議じゃないわね。
……それにしても、今のそれ以外は結局情報がなかった。マルコの演説が終わった後も他の幹部が演説をしたり、あるいは『隠された島の主人』の恩恵を受けたと主張する者たちの話が続くだけ。率直に言って仕える神に心酔しているということ以外は無害な集まりだった。せめて安息領との戦いに対する謀議すらないし。
「ロベル、抜け出そう。マルコに直接会ってみたいわ」
声を低くしてそう伝えると、ロベルは頷いた。彼の『虚像満開』が私たちを隠す隠蔽場を形成した。
私たちはすぐに集会場を出て、壇上の裏側に通じる廊下に向かった。
大幹部のマルコは集会が終わる前に先に立ち去ったけれど、遠くからでも彼の魔力の気配は確認できた。それを土台に廊下にかすかに残った魔力の残響を見ながら追いかけた。
けれど、やっぱり幹部のもとへの道。廊下の要所や部屋のドアには警備があった。なかにはロベルの『虚像満開』の隠蔽に違和感を感じたように、怪しがる目で私たちの方をちらっと見る者もいた。
――紫光技〈一人だけの秘密基地〉
魔力の残響を完全に封じ込め、気配をなくす魔力場を展開した。『虚像満開』とこれの合作なら、よほどの人を騙してもお釣りが来るだろう。
誰にもバレず進んだ私たちは、護衛に囲まれて歩いているマルコを見つけた。
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