転落した大英雄の動機
先に話した方法も難しいけど、それ以前に完全隔離空間そのものも扱いにくい。そして探し出す魔道具は存在するけど、いざそれがアカデミーにはない。魔道具なしに探し出す能力を持った人も今はいないし。
ジェリアの表情もそれほど良くはなかった。
「ガイムス先輩がいたら簡単だったのにな。よりによって必要な時に外部実習に出ているとは、本当に運もないぞ」
「そうね。ガイムス先輩なら特性だけで完全隔離空間を見つけることができるはずなのに」
例外的に完全隔離空間を簡単に見つけることができる人は、空間系の特性を持つ者。アカデミーにはガイムス先輩だけだ。でも彼はよりによって今アカデミーにいない。
まぁ、いないことを残念がっても仕方ない。
真剣に悩むのはケイン王子も同じだった。
「関連人材と道具は王家と騎士団でも厳重に扱われるもの。王子である私も、よほどの理由がなければ助力を求めることはできません」
「そして不完全な未来視や啓示夢は、その〝よほどの理由〟になれなくでしょう」
「……そうです」
確率で言えば低い。けれど、可能性がないわけじゃないし、ピエリなら実際にその方法を行う能力がある。それでも探知する方法がないというのが不安極まりない。
「一応父上にお願いしてみます。私としてはその方法しかないですわね」
「鬼のように強いテリアさんでも完全隔離空間は仕方ないようですね」
「あるということさえ分かれば切って開けるのはできますけれど、空間系探知能力は弱いので」
「……普通の人は完全隔離空間を切って開けることもできませんが」
そんなに苦笑いしても、私はただ事実を言っただけだもの。
「それでもオステノヴァ公爵閣下の助けがあれば心強いです。ただ……本当にもらえるか心配です」
「それだけは私も断言できません。一応お願いするつもりなんですけれども、父上はとても忙しい御方ですから」
父上は私を愛して大事にしてくれる良い父だけど、娘の頼みだけで公務を投げ捨てて走ってくるには仕事が多すぎる。事件まで時間的にあまり残っていない今は、率直に言って父上の助けを期待し難い。
今のところはいろいろな可能性を念頭に置いて対処するしかないだろう。完全隔離空間以外にも可能性はあるかもしれない。そして五年前の邪毒陣が本当に原因だったとしたら、その時対処したことで時期が変わるかもしれない。そんな趣旨で言うと、みんな問題なく頷いてくれた。
その時、シドがふと首をかしげた。
「ところでその邪毒災害は結局ピエリの仕業だということだよね? どうしてピエリがそんなことをするのかよ?」
そういえばシドは詳しい事情を知らないんだね。
ピエリが安息領との内通で手配されたことは全国民が知っている事実だけど、具体的な内幕を知っているのはまだ騎士団と王家だけだ。アカデミーの修練騎士団でさえ、直接関わっていた当事者である私とジェリアなど一部の人々以外はよく知らない。
そう思ったけれど、当事者の一人であるジェリアと報告を受けて知っているはずのケイン王子も私を振り返った。
「そういえば、一つ確認したいことがあったぞ」
言ったのはジェリアだったけれど、ケイン王子も彼女に同意する様子だった。何なのかしら?
「気になることがあった。ピエリが変節したのはクソ親父のせいだというが、だからといってなぜよりによって安息領に加担してテロ行為をするのか分からないんだ」
……あれ? 考えてみたら一理あるわね。
私はゲームの記憶としてすでに知っている事実なのであまり気にしなかったけど、一般的な人の立場から見れば疑問に思うに値する。
ピエリが裏切られた気持ちと幻滅を感じる対象は月光騎士団の首脳部と王家のような上層部。ところが、ピエリの去年の王都テロや今回起こるかもしれないアカデミーの邪毒獣事件は、一般人たちが莫大な被害を受けるテロにすぎない。しかも、直接的な敵といえる上層部にはほとんど被害を与えることもできないし。
彼の本音や気持ちを具体的に話すことはできないけど……今までそうだったように〝推測〟の形なら大丈夫だろう。
「私も正確な理由はわかりません。そもそもピエリが理由などを話したことはないですからね」
そう言いながらも、私はどんなことを話すか心の中で整理した。
「あくまで私の心当たりなんですけど、彼の目的は名誉を失墜させることじゃないかって思いますわよ」
「名誉……王家や騎士団に民を守れなかったという不名誉を与えようとしているのですか?」
「多分です」
「そんな目的で罪のない人たちが大量に死んでいくことを企てるんだと? 家族が死んだ衝撃で気が狂ったのか?」
ジェリアは飽きたかのように眉をひそめた。
もちろん、ピエリはそのような理由だけであんなことをしているわけではない。彼の究極的な目的は国家体制を変える革命に近く、王家と四大公爵家に対する名誉攻撃はそのための中間過程に過ぎないから。
けれど、直接的な恨みで人を殺すだけでも悪行だ。なのに何の関係もない人々の命をただ自分の目的のために犠牲にすることは単純な殺人以上に悪質だ。ましてかつて一時人を守る騎士だった者だからこそ。
彼がそのような極端な手段に至った過程はゲームからも出てこなかった。でもどんな理由があってもそんなことを狙うということだけでも非難されるには十分だ。
「私が言ったのは推測に過ぎないわ。でもどんな理由があっても、そんなことをしてはいけないのよ」
「その通りだ。眩しい業績を残した大英雄がそのようなザマに転落したのは残念だが、だからといって今の罪をなくすことはできない」
ケイン王子とシドも納得した感じだった。私の説明自体は不十分だっただろうけど、どうせ私にもっと詳しい説明を要求しても意味がないということは知っているだろうし。
その時、ケイン王子がふと思い出したかのように口を開いた。
「ピエリの話を聞いて思い出しましたが……一つ、共有したい情報があります」
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