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見守る視線と考え

「……」


 あれ? なんで返事がないんだろう?


 おかしいなと思ってシドを見ると、彼は顔が少し赤くなって私を見ていた。私と目が合うやいなや視線を料理の方に下げたけど。


 ……いや、あの反応はまさか……。


 一瞬疑いが頭をもたげた。でもシドはゲームでも攻略するのが容易じゃなかった人だった。たったこの程度だけで変な疑いをするのは自意識過剰だろう。


 シドはすぐに表情を収拾した。


「これは一発食らった。こんな話をしようとデートを申し込んだわけではなかったのに」


「あら、じゃあどういうわけで?」


「男が女にデートを申し込むのに厳密な理由なんてあえて必要なのかよ?」


「男と女の関係にはそんなものは必要ありませんけれど、公爵令息と公爵令嬢の関係には必要ですわね」


 特にフィリスノヴァの味方であるハセインノヴァの直系が、オステノヴァとアルケンノヴァの血を引く私と関係を築こうとするなら。


 それを言葉では表現しなかったけれど、シドは十分理解したかのように苦笑いした。


「まぁ、本当に特別な理由はなかったんだ。ただお前という人がどんな人なのかを調べたかっただけだよ。いろんな意味でね」


「なるほど。欲しかった情報は手に入れましたの?」


「満足するほどでは」


 シドはそう言ってから料理に手を出し始めた。


 ……これ以上は話さないという雰囲気だね。あえていちいち問い詰めるつもりまではなかったので大丈夫だけど。


 私もニッコリ笑って食器に手を伸ばした。


「これからも良い関係を築けることを願っていますわ」


「何かプレッシャーが隠れた言葉みたい。……まぁ、よろしくよ」




 ***




「ロベル、聞こえる?」


「いいえ、どうやら防音結界を展開したようです」


 リディア様の質問に僕は首を振ることしかできなかった。


 テリアお嬢様とシド公子が食堂に入ってから、お二人のやり取りはほとんど聞こえなかった。食堂の中に入るとバレるのが明らかだから入らなかったが……魔力でやり取りを盗聴するのは簡単なことなのに。先ほどかすかに感じられた魔力のノイズは、おそらく防音結界を展開する気配だったのだろう。


 もちろん盗聴が不可能なだけで、様子を観測することはできる。今も魔力を利用した透視でお二人の姿は確認し続けている。そのため、表情と態度から空気をある程度読み取ることができた。


「何か……真剣な話をしているようだね」


「リディアの目にもそう見える」


 ジェフィス様とリディア様がそう言って、それを聞いたアルカ様も頷いた。


「デートみたいじゃありません! 何の話をしているのでしょうか?」


「アルカはテリアにシド公子と付き合ってほしいの?」


「え? えっと……わかりませんけど? お姉様が男と付き合うってイメージがよく浮かばないんですけど……」


 テリアお嬢様。妹君にあんなことを言われていますが、よろしいですか。


 ……おっと。思わず余計なツッコミをかけてしまった。


 でもアルカお嬢様の反応は僕も気になる。アルカお嬢様はシド公子について特に考えていないようだったけれど。


「アルカお嬢様はシド公子のことが気に入りましたか?」


「えっ!? い、いきなに何!?」


「テリアお嬢様とシド公子がもっと積極的な関係に進むことがご所望のようでしたので」


 そう言ったが、アルカお嬢様があのお二人の関係をそんなに真剣に見ていたとは思えない。おそらく恋愛的な意味の異性関係がほとんど全滅してしまったテリアお嬢様の恋愛に興味があるだけだろう。


「そんなことはないんだけど……お姉様は()()()()()()()()()()()()()、たまにはそういう関係でもいいんじゃないかなぁって。あっ、でも相手がいい人じゃないと!」


 ……アルカお嬢様の悪意のない言葉が僕を容赦なく突き刺したな。


 それはともかく、確かにテリアお嬢様は珍しいほど恋愛的な異性関係が薄い。


 この国では親が決める婚約という概念は珍しい。そもそも魔力を円熟に使える者は若さと寿命を大きく延ばすことができるので、早くから決まった結婚を嫌う傾向が強いから。ピエリ・ラダスもすでに百歳を超えており、ご主人様と奥様も若く見えるのは表向きにだけで、テリアお嬢様を産んだのが結婚して四十年ほど経った後だと聞いた。


 それだけ貴族でも自由恋愛の比重が高い。アカデミーで一度は恋愛をしてみるのが普通だ。ご主人様と奥様もアカデミーで会ったケースだし。


 食堂に入る前まではお嬢様もシド公子も楽しく楽しんでいたけど、食堂に入るやいなやあの姿。やはりテリアお嬢様は何か他の考えを持ってシド公子の提案を受け入れたのだろう。


 ……テリアお嬢様におかしな奴を近づけさせるつもりはないが、お嬢様の人間的な幸福は僕も望むもの。だが相変わらずお嬢様はそのような方向には関心がないようだ。


「ロベル、口の形で何を言っているのかわからない?」


「……僕の読唇術はそれほど正確ではありません。ただ、例の災いの話と関連があることはわかりました」


「またそれ? 本当にお姉様は……」


 僕も同感です。本当に。


 一人でため息をついていると、少し前から口元に手を当てて物思いにふけったジェフィス様と目が合った。


「どうされましたか?」


「何か……ちょっと気にかかって。何なのかは僕も分からないけど、何か気になるというか」


「去年、テリアお嬢様がジェフィス様と災いの話をしました。それと関係がありますか?」


「わからない。でも関連がありそうな気がする」


 ……根拠はなさそうだ。でも直感というのもなかなか無視できない。ジェリア様も勘がいい方で、フィリスノヴァ公爵家の血統は勘が優秀だと聞いたことはあった。ジェフィス様にもそういう面があるかもしれない。


 一度確認してみようか。

読んでくださってありがとうございます!

面白かった! とか、これからも楽しみ! とお考えでしたら!

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