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思いがけない出会い

「あ、あの……大丈夫ですか?」


 店員さん……エリネさんが心配そうな顔で話しかけてきた。


 しまった、ぼーっとしている時じゃないわよ。


「あ、大丈夫ですわ。ごめんなさい。……話を続けます。もし悪い貴族のせいで問題が生じそうなら私の名前を使ってください」


「え!? わ、私なんかが勝手に貴族様の名前を使うことは……」


「ご心配なく。実はエリネさん以外にも王都には私の息がかかっているお店が結構あるんですわよ。そして……当然ですけど、私の名前を無駄に活用することは許しません。あくまで悪い奴らのせいで被害を受ける状況でのみ活用してください。分かりました?」


「う、あ。……はい、かしこまりました」


 納得できないことが顔に明らかになったけど、それでもエリネさんは勢いに押されて頷いた。


 今はそれくらいでいいだろう。


「あ、私はテリア・マイティ・オステノヴァと申します。これからも縁があることを願いますわよ」


「や、やっぱりテリア様……だったんですね」


「私のことを知っていますの?」


「店長から聞きました。王都でとても有名な公爵令嬢さんだと……」


 今までいろんなことをしてきた甲斐があるわね。私の名前がこんな風に広がっているなんて。このままだと本格的にゲームのストーリーが始まった時もいろいろ活用できそう。


「恥ずかしいですわね。それでも嬉しいです。これからもよろしくお願いします」


「よろしくお願いします……と言えるでしょうか? 二度とお会いすることはなさそうですが……」


「フフ、それはどうでしょうか? 将来がどうなるかは誰も知りませんわよ」


 というか、そもそもこのままエリネさんとの縁を切るつもりはないんだけどね。


 こんな所でエリネさんに会うとは。本当に想像もできなかった偶然だ。私は彼女の姿をもう一度じっくりと見つめた。


 一つにまとめた濃い灰色の髪と、深く輝く青い目。化粧はほとんどしなかったけど、自然で健康美のある美人だ。今は公爵令嬢である私を前にしているから萎縮しただけだろう。ゲームより少し若いということを除けば同じだ。


 ……そう、エリネさんは『バルセイ』に登場した人だ。


 とはいえ、ガイムス先輩やテニー先輩のような重要助っ人じゃなかった。露骨に言えば、彼女は消耗品を売るお店NPCだった。メインストーリーに関与もしなかったし。


 ただ……彼女が関連したサブクエストと、彼女の持つ能力そのものがかなり印象的だった。


 前世の私が『バルセイ』をプレーしていた頃、エリネさんが仲間だったらいいのにと何度も思っていた。それで今の人生でもエリネさんを抱き込むつもりがあった。ただゲームでも比重が少なかった人なので、初めての出会いはゲームでの初登場に依存するつもりだった。


 エリネさんに会うことができるようになっただけでも、シドには感謝を表したくなるわね。エリネさんの今後の動向などは後でロベルに調べさせないと。


「とにかく、毀損された道具は賠償します。後で私の方に請求してください」


 私は賠償を約束する書類に印を押してエリネさんに渡した。そしてシドを連れてお店から出た。


「俺も一緒に浮かれていたのに、賠償をお前に全部任せちゃったね。ごめん」


「短剣を傷つけたのは全面的に私のせいですわ。シド公子は関与しなかったでしょう?」


「考えてみれば俺が勝負を刺激したんじゃないかよ」


「フフ、気持ちだけでもありがとう。それより次はどこですの?」


 一通り予想はできる。そろそろ夕食の時間になろうとしているから。


 シドの答えは予想通りだった。


「そろそろ夕食の時間になったから、食堂に行ってみようかと思ってさ。いい?」


「いいですわね。ちょうど私もそういう時が来たと思っていましたわ」


 長時間歩かなかった。シドが連れて行ってくれた食堂が、そもそもそれほど遠くはなかったのだ。シドの名前で予約されていたから、最初から時間と場所を適切に計画していたんだろう。悪くないわね。


 食堂は落ち着いた空気が印象的な所だった。特に高価で華やかな装飾などはなかったけれど、よく整えられた木で構成された室内はそれだけでも高級感を漂わせた。


「雰囲気がいいですわね」


「そうだろう? 知り合いの紹介で知った所だけど、ここ結構いいんだよ。ここは初めて?」


「ええ。アカデミーに入学して五年が経ったんですけど、まだ行ったことのない場所も結構多いんですわよ。」


 余裕時間のほとんどは鍛えるのに使ったからね。それなりに時間を作ってあちこち歩き回ったけれど、広い王都をそれだけで全部把握することはできない。


 料理を注文して待っている間、シドはテーブルに肘を置いた。そして頬杖を突いて口を開いた。


「聞きたいことがある。大丈夫かな?」


「ええ、何かしら?」


 シドはすぐに答える代わりに、しばらくあたりを見回した。そして指から魔力を少し流した。とても小さくてかすかな魔力だったけど、それが私たちを包み込むだけでも小さな効果が発生した。


「……極小ターゲットの防音結界ですわね。秘密の話でもしようとしているのかしら?」


「俺は構わないけど、お前ならこの話が広がらないことを願うと思うから」


 大体予想はつくわね。何の話をしようとしているのか。


 そんな話をするとは予想していたけど、まさかこんな食堂のど真ん中で持ち出すとは思わなかった。さらに今シドが展開したのは、やり取り中に防音のスイッチングが可能なタイプ。自然に好きなやり取りだけを隠すときに使う結界だ。これを使ったということは、決心して話をするということなんだけど。


「お前が話した災いだということについてだけど」


 ほら、やっぱり。


 もっと詳しい話を聞きたいとか、どうやって情報を得たのかという質問なのかしら。率直に全部話すことはできないけど、シドを納得させるような情報を出すつもりはある。


 そんな思いをしていた私だったけれど……シドの質問は私の予想とはまったく違ったものだった。


「それ、なんであえて一人だけ抱きしめてる?」

読んでくださってありがとうございます!

面白かった! とか、これからも楽しみ! とお考えでしたら!

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