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事件の推察

 重い沈黙が訪れた。


 邪毒獣。その名の持つ重さは相当である。普通の人は生きていて一度も見られない存在だけど、もし見ることになれば生き残ることをあきらめなければならない存在。


 この世界の動植物が邪毒に侵食されて変異しただけの魔物とは格が違う。邪毒獣は邪毒神の眷属であり、邪毒神と同様にこの世の外から訪れた招かざる客。邪毒神よりは弱いけれど、強すぎて本体降臨がほとんど不可能な邪毒神とは異なり、邪毒獣はややこしいものの本体が降臨していたケースがたまにあった。


 その力は騎士団さえも百人隊程度の規模では相手にすることさえ不可能であり、千人の騎士からなる千人隊の数隊が一緒になってようやく阻止できる。邪毒獣を単独で相手にすることは、騎士団長と副団長のすぐ下の騎士であり万人隊の隊長である万夫長さえも大きな負傷を覚悟するほどだ。


 実際、ピエリの引退前最後の戦闘だったアルキン市防衛戦は地獄だった。当時はなんと二匹の邪毒獣が一度に出現したから。この国の六つの騎士団の一つである月光騎士団でも総戦力の半分以上を投入し、それでも騎士団には大きな被害が出た。当時ピエリは万夫長だったが、そのピエリさえも部下たちを連れてもかなり苦戦した。


 そんな邪毒獣が、他でもなく王都タラス・メリアの真ん中に位置するアカデミーに現れる。決して座視できないことだ。


 重くなった空気の中、ケイン王子は険しい顔で口を開いた。


「〝疑わしい要素〟とおっしゃいましたね。ということは、まだ確信の領域ではないという意味ですか?」


「ええ。でも計算上の確率はかなり高いですわ」


 他の人々はまだよく理解できないような表情だったけど、ケイン王子は何か見当がつくように眉をひそめた。


「計算……ということは、すでに必要な要素があるという意味かもしれませんね。アカデミーの時空亀裂が関係していますか?」


「そうだと思いますわよ。特に今年は封印装置の補修作業をする年ですから」


 その時になってようやく、ジェリアとジェフィスも理解したかのように頷いた。


「なるほど。アカデミーには時空亀裂がある。その亀裂を封印するための魔道具が設置されているが、その装置は三十年ごとに部品を交換する作業がある。その作業中に問題が生じる可能性もあるということか?」


「確かじゃないわ。けれど、一番狙いやすい弱点だということは否定できないわよ」


 アカデミーの時空亀裂を封印するための魔道具は非常に強力だ。一度発動すれば故障するまでは絶対に亀裂に干渉できないほど。


 しかし、その装置自体は永久じゃない。そのためメンテナンスと部品交換作業が必要である。そしてその作業は三十年の周期で行われる。


 そして次の作業予定が今年だ。


 時空亀裂とは、世界にひびが入って外部のエネルギーである邪毒が流れ込む穴。大量の邪毒が流入するため、邪毒災害の最も代表的な原因でもあるけど……その大きさが非常に大きくなれば、邪毒獣までもこの世界に渡ることができるようになる。


 今の時空亀裂はたとえ封印装置が破壊されても、邪毒獣が通過するほどの大きさではない。だけど時空亀裂は周りの邪毒濃度が高ければ急激に巨大になる。五年前の邪毒陣が問題なのも、その邪毒濃度を人為的に高める用途だったからだ。そのため、最も有力な原因として指摘されているのだ。


 さらに、邪毒濃度を極端に高めれば、封印装置さえも無視できる。もちろんその程度の濃度だと時空亀裂がなくても邪毒災害が起こるけれど。


「五年前の邪毒陣のようなものを取り付け直して発動できれば、あえて封印装置を補修する現場を襲撃しなくても時空亀裂の暴走を起こすことができるだろうな」


「最悪、補修作業をする現場を襲撃する方法もあるでしょう」


 ジェリアとジェフィスの言葉に続き、リディアも手を上げた。


「可能性はその二つで終わり?」


「少なくとも今考えられるのはこれくらいだろ。後で他の可能性が生じるかもしれないが。ケイン、王家の調査員はどれくらい動員できるか?」


「アカデミー全域を早く調べられるような人数は呼び出しにくい。私の権限にも限界があるから。でも王家の名前で警備隊に秘密任務を下達すれば、事情を詳しく説明しなくても警備隊を動員することができる」


「良い。ロベル、ピエリの執務室で異空間の痕跡があったと言ってたな?」


「はい。五年前にも邪毒陣を起動させる魔道具は中央講堂の異空間にありました。異空間と関連した要素も調べる必要がありますね」


 議論がどんどん進んでいくのを見て、私は一歩離れて周りに視線を向けた。


 ここまでネタを投げてあげたら、今後の対策会議は私なしでも充実するだろう。もちろん私も任せてばかりいるつもりはないけど……それ以前に一つ、気になることがあった。


 半分くらいはなんだかこの辺にいそうな直感。そして残りの半分は……ゲームでの設定を考えたとき、きっとありそうだという確信。


 その確信のまま、魔力の気配を捜索する魔力波をひそかに周囲に散らした。反応はすぐ来た。見つけた……というより、相手側があえて隠す気がないことに近かった。気配を隠しているけれど、探索しようとする試みがあるならわざと自分をさらけ出す感じというか。


[盗み聞きはよくない趣味ですわよ]


 魔力で思念波を送ると、くすくす笑う声が答えとして返ってきた。そして会議室に異変が起きた。


「――!? 誰だ!」


 ジェリアは鋭く怒鳴った。それだけでなく、あっという間に強力な氷の重剣を作って会議室の隅を狙った。直後、そっちの床が膨らんで人の形に変わった。


 その人の顔を見たジェリアは眉をひそめた。


「……シド?」

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