ピエリの痕跡
「彼は表に出る行動はほとんどしませんでした」
ロベルは書類の内容を要約してみんなに言った。
時にはロベルが自分で。時には他人にやらせて得たピエリの行動。その結果は失望すべきものだった。
「移動経路、やること、人とのやり取り。ほとんどすべてを監視しましたが、忠実に教師としての行動しかしませんでした。それさえも怪しいのはディオス公子へのアプローチだけでした。しかし……そちらはテリアお嬢様がおっしゃった災いとは関係ないと推定されます。……ただし」
ロベルは書類を何枚かめくって、ある書類に目を向けた。彼が手招きすると『虚像満開』の幻影が空中に現れた。書類の文字を大きく見せる歓迎だった。
「唯一全く観測できない所がありました。彼の執務室です。強力な結界のため、内部を覗くことも盗聴することもできませんでした。ですが執務室周辺の魔力を検査してみたところ、少し気になる反応を観測しました」
ロベルは幻影を操作した。書類の文字が小さくなり、新しいグラフと図形が現れた。図形の方はまるで電波が家から外に飛んでいくのを描写する絵のようだった。
幻影をあんな風に活用するの、何か前世のSF映画で見たホログラムみたいだね。
「これはピエリの執務室でアカデミー外部と通信する魔力波を測定した資料です。通信の魔道具や思念通信などを使うときの通信魔力波です。ところが、この魔力波で怪しいことがいくつか見つかりました。詳しくは後で資料を別途ご確認ください。結論だけ申し上げますと……この国では規格が見当たらない方式だと言えます」
「無許可規格ってこと?」
「そうでしょう。そして通信波の中でもこのタイプだけが特に厳重に暗号化されていました。解析は失敗しましたが、送受信座標を追跡することは可能でした。座標を追跡しても不審なことは見つかりませんでした。ですが……該当タイプの通信が発生するたびに、必ず三日以内に特定の魔道具業者がアカデミーに出入りすることが確認されました。もちろん許可された正式な出入りでしたが」
「その業者は追跡してみた?」
「はい。所属する会社も、取り扱う物も公式に許可されたものばかりなんですが、魔道具の中に邪毒陣を設置できるものがありました。ごく小規模の実験の邪毒陣くらいですが、五年前の邪毒陣も一つ一つの規模はいたずらレベルでした」
「ピエリの執務室……はすでに彼が手配された時、騎士団が隅々まで捜索していたわね。ケイン殿下、その時の資料はご覧になりましたの?」
実は私も結果を知っているけど、非公式ルートで分かっただけだ。なるべく出さない方がいいだろう。
どうせケイン王子が資料を手に入れたということも知っているし。
「はい。ですが、そのタイプの魔道具は見つかりませんでした。ロベル、その業者がその魔道具をピエリに渡したか?」
「接見はピエリの執務室でしか行われていませんでしたので、取引自体を見ることはできませんでした。ただ遠距離から魔力で荷物の重量を測定した結果、魔道具を大量に渡した情況はあります。そして去年の事件が起きる直前に、その業者が大量の魔道具をピエリの執務室から持ち出したことを確認しました」
「……ああ、誰だかわかる。ピエリに不定期に会うことがアカデミー出入り記録で確認された業者がいたね。けど、その業者と会社を捜索しても怪しいものが見つからず無罪放免になった。そういえばピエリの執務室で通信の魔道具が見つかっていなかったけど。前もって処分したようだね」
やっぱりケイン王子だね。人格的には少し気に入らない部分もあるけど、能力的には信じて任せられる。
私はロベルに話を続けるよう合図した。
「その業者が安息領かどうかはわかりません。ただ疑わしい魔道具を持ち込んだ可能性がありますし……ピエリの行動についてですが」
ロベルは別の資料を幻影で見せてくれた。
「ピエリの執務室で異空間を形成して出入りしたような痕跡がありました」
「それは騎士団でも確認した。そういえば、その異空間で非常に微弱な邪毒の跡を発見したという報告があった。邪毒陣を設置して消したのかな?」
「そういう可能性があるでしょう」
そう言った後、ロベルは幻影を消して後ろに下がった。もう一度私に視線が集まった。
「正確なことはわかりませんけれど、疑わしい情況ではありますわよ。それに先ほども言いましたけれど、五年前の邪毒陣が災いの原因と確定したわけじゃありません」
「まだ警戒を緩めるわけにはいかないということですね。もちろん何も起こらず、警戒がただ無駄になるのが一番ですが……その災いというのは具体的にどのようなものなのか教えていただけますか?」
具体的に、か。
この前はその内容に対する具体的な話は避けたわね。あまり詳しい話をするとどうしてそんな情報を得たのか、本当に信じられる話なのか疑われたかもしれないから。
でももう時期も近いし、何よりもここまでみんなと共有していたら……もう少し詳しい話をするのは大丈夫かもしれない。
何より、今なら適当な言い訳がある。
「実は最近ちょっと疑わしい要素があるんですの。明確な証拠はありませんけれど、この程度なら可能だという推論と言いましょうか」
「君の意見なら、単なる推論でも可能性は十分あるだろ」
ジェリアの信頼が重い! 実際にはただのゲームの記憶なのに。
だけど負担になることとは別に、信頼があるだけに簡単に受け入れられるというのはとても楽だ。
「ケイン殿下。私が邪毒災害について話したのは覚えていますわね?」
「もちろん忘れていません」
邪毒災害は非常に危険だけど、実際には規模にばらつきが大きい。本当に小規模は騎士団百人隊の一部隊程度でも処理できるほど。
逆に……極端な大規模になると、考えたくないことが起こるかもしれない。
「邪毒獣が現れる。と言ってあげればわかりやすいのでしょうか」
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