表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

192/891

シドの印象

「……そんな無礼なことを考えるわけがありませんでしょう」


 ロベルはしばらくためらったけど、すぐ答えを出した。顔が少し赤くなったけどそれだけだった。見た目はあまり当惑したようじゃなかった。


 成長したわね。昔はあんなこと聞いたら真っ赤になって慌てたのに。でも今も反応を見ると、私のことをどう思っているのかはちらっと見えた。


 ……対象が私じゃなかったら微笑ましいだろうけど。いっそ自意識過剰だったらよかったんだけど……『バルセイ』の中での彼は、私が悪女一辺倒の道を歩く時でさえ、私への心を諦められなかった。今だからといって変わることはないだろう。


 正直、その気持ちは嬉しい。ロベルは前世の私の最推しだった攻略対象者であり、今も純粋に彼のことが人間として好きだ。


 ……ただ、女として好きかと聞かれたら、ちょっと微妙。私は前世でも愛とは縁がなかった。そのため、そのような感情はよく分からない。少なくとも話で描写されるような感情は感じたことがない。でも彼が他の女性に行ってしまうことを考えると少し不快な気持ちになったりもする。


 でもそれが女としての気持ちなのか、それとも有能な執事を逃したくない独占欲なのかよく分からないわよね……。


「ちょっと待ってよ」


 しまった、今はシドがあったわね。他のことを考えている場合じゃない。


 シドは眉をひそめ、ロベルに近づいた。ロベルは彼を警戒して体を少し後ろに引いた。けれど、シドはそれよりも早く接近した。


「真面目なのはいいけどさ……」


 シドは警戒するロベルを気にせず、突然身を差し出し、ロベルの耳に顔を近づけた。


 周りに聞こえない程度の音量で、低いささやきが流れ出た。


「お前、気に入らない」


「……申し訳ございません。僕が無礼を犯したんですか」


 シドは小さく鼻を鳴らした。


「そうじゃない。人が人のことを好きだということを無礼だと言ったのが気に入らないんだよ」


「はい?」


「人が人のことを好きになるのは崇高なことだ。身分差や立場を気にするのは理解できるけどさ、無礼だと言うことは絶対にないんだよ」


 シドはその言葉を最後に身を引いた。ロベルは少し当惑した表情で私を見た。そんなに私を見ても苦笑いしか返せないのに。


 ニヤリと笑うだけでも、シドには本当に悪意がなかったことが分かった。そういえばこんな子だったわね、シドは。


 一方、シドは私を振り返り、小さく謝罪した。


「ごめん。いつの間にか執事にもっと注目しちゃった」


「大丈夫ですわ。ロベルは私の大切なパートナーですから。彼を無視しないだけでも私にはむしろありがたいことですわよ」


 私はニッコリ笑って首を振った。好意を示すつもりだったけれど、なぜかシドは目を丸くした。直後、小さなため息が出た。


「……お前、意外と無自覚で残忍な子だね」


「え? それはどういう意味ですの?」


 急に何を言ってるの? そんなことを言われる理由はないのに。


 けれどシドは黙ってロベルを見て苦笑いするだけだった。それを見たロベルも小さくため息をつきながら頷いただけだった。何よ、なんで貴方たちだけで男の共感をするの?


 もちろんシドが私の心の疑問に答えるはずはなかった。


「とにかく、これからよろしくね。お互いに顔を見ることも多そうだし」


「こっちこそよろしくお願いします」


 シドは手を差し出した。握手だと思って手を差し出したけど、シドは私の手を優しく握って手の甲にキスした。


 ……そういえば貴族の令嬢にはこっちの方が一般的だった。私は豪快に握手をすることが多くて半分ぐらい忘れていた。


 そう挨拶を交わした後、シドは再び人波の中に戻った……というよりも、彼の移動先に人波がついてきた。私とやり取りする時は相手が公爵令嬢だから自制しただけでしょ。


「思ったより……自由な方ですね」


 ロベルの言葉に私は苦笑いした。


「そうね。ハセインノヴァ公爵家のイメージとはいろいろ違うわ」


 明るくて積極的で優しい人。今のシドはそんな少年だ。それに思いやりもあるし。ロベルにあえて耳打ちをしたのも、公爵令息の「気に入らない」という言葉の波及力を知っているからわざとしたはずだ。


 ゲームの彼は今とは違った。過去回想の時は今のシドと同じだったけれど、ゲームの〝現在〟時点ではいろいろ変わっていたから。


 彼が変わってしまった原因は、ゲームで私が一六歳の時……つまり今年起きる予定の事件。ジェフィスが亡くなるその事件であり……具体的にはジェフィスの死そのものだった。


 今世ではその事件が同じように起こるかは分からない。ゲームでその事件の最も有力な原因とされていた邪毒陣は、すでに一年生の時に撤去したから。


 それ以来、ピエリが他の何かをする気配はなかった。おまけに言えばそのような邪毒陣や、あるいは似たようなことができるものが他にあるのかも定期的に点検している。けれど、ピエリがアカデミーを去る時までもそのような気配は全くなかった。ディオスに接近はしたけどそれは今年の事件とは関係ないことだと思うし。


 それでもシドが編入することで主人公と攻略対象者、すべてのピースが集まった。それにジェフィスも今年の事件で死ななければ有能で、中ボスだった私は味方ポジション。ゲームと比べるとかなり都合がいい。ケイン王子はまだ完全な味方になったのかどうかは確信がないけど、関係はかなり良好に構築しているし。


 シドは……実は少し不安な気持ちもある。本来の性格は知っているけど、彼が変わっちゃう事件を考えるとただ安心するわけにはいかない。


 今年の事件は攻略対象者が私を憎むようになる出発点。けれど、今の私はゲームで犯した悪事をするつもりは全然ないので、たとえ間違っても関係がそんなにこじれることはないはずだ。


 でもジェフィスの死を防げなければ、シドがねじれてしまう可能性がある。それに他の人たちも大きな傷を負うだろうし。事件が全く発生しなければ一番いいのだけど、もし起こったら……最善の形で解決するのしかない。


 そのためにすべきことを考えることが、今の私にとって最も重要なことだ。

読んでくださってありがとうございます!

面白かった! とか、これからも楽しみ! とお考えでしたら!

一個だけでもいいから、☆とブックマークをくだされば嬉しいです! 力になります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ