人に対する考え
「次の手順を進めます」
司会者の声が私を想念から引き出した。
「各自の公約に対する質疑応答の番です。質問の順番は決まっておらず、まず手を挙げた方に質問権が与えられます。回答者は質問者の質問を途中で切ってはならず、これは回答者が答える時も同じです」
その他にも簡単な規則があったけど、全体的に前世のテレビ討論会よりはラフだった。生徒たちの討論会だからかしら?
一方、最初の質問権は先に手を挙げたテニー先輩が持って行った。
「ジェリア様がアカデミーの安全保障に心血を傾けていることはよくわかりました。今のような世相では重要な要素です。しかし、修練騎士団の仕事は保護だけではありません。ジェリア様の公約はアカデミー内部への政策が多少足りない気がしますが、考えておいた補完点はありますか?」
「修練騎士団業務の大多数は不便や必要に対する生徒たちの要請から始まる。したがって、生徒たちが何を必要とするのかを迅速に収集し、それを正確に分類して業務を分配することが重要だ。そのような体系を備えることで、全体的な業務速度と効率を向上させることが目標だ」
質疑応答の時間は全体的にこんな感じで進められた。
うーん……無難だね。
候補だけでなく、私を含む同席者たちも質問と回答を繰り返した。でも特筆すべきことはなかった。良く言えば定石的で、悪く言えば食傷する。公約に対する質問限定とはいえ、もう少し攻撃的なことを期待していた私としては残念だ。ジェリアが大人しくしているのに私が乗り出して攻勢をかけることもできないし。
数回の質問と回答を繰り返した末、質疑応答の時間も終わった。
「最後は自由討論です。その名の通り自由な討論の時間であり、公約に関すること以外にも質問が許されます。ただし、悪口や不当な非難は制裁を受けることになりますのでご注意ください」
来た。
今回の討論会のメインといえる段階。さっきは単なる質疑応答にとどまっていただけに、ここで本格的な攻勢が出るだろう。
その予想は出だしから見事に的中した。
「フィリスノヴァ公爵令嬢のジェリア様に尋ねます。団長になってからの人選について、フィリスノヴァの伝統に従うのではないかと心配する人が多いです。これについてどう思いますか?」
ラウルの質問だった。
うーん……あんな話を持ち出すと思ったけど、まさか最初の質問があれだとは。
ジェリアは平気で口を開いた。
「クソ親父のやり方をそのまま従うバカになるか聞いてたのか? 愚問だな。能力があれば誰でもその能力に相応しい地位を得ることになるだろう」
「無能な者を嫌悪するのは現公爵閣下も同じです。そもそも保守能力主義とは、身分と能力の両方を備えた者を重用する思想です。能力を無視して身分だけを重視するものではありません。ジェリア様のその発言だけでは違うと断言できません。実際、ジェリア様の周りには身分が極めて高い公爵家の方々が多いですよね」
「マックス・リドル。ハーディス・エイラム。ルドナ・サイン・リベリ男爵令嬢。ケール・エトナム・ムーンブラウ男爵令息。執行部でボクの指示を受けることが多く、自分たちだけで〝ジェリア四天王〟という恥ずかしくて幼稚なニックネームまで公言するほどボクに従う子たちだ。平民二人に男爵家の子が二人。まさか彼らのことを知らないとは言わないんだな? ボクはあの子たちに〝親切で思慮深いラウル様〟について飽きるほど聞いたぞ?」
「……」
ラウルは唇をかんだ。
ジェリア四天王。執行部から私と友達の次にジェリアに近い部員たちだ。そして彼らは純粋能力主義派に属している子たちであり、派閥内でもそれなりに声を出す方でもある。
つまり彼らはラウルともかなり交流が多い子たちだ。
「五年。ボクが執行部長を歴任した年月だ。そして今執行部で大きく活躍している子たちの三割が平民、三割が男爵家一族だぞ。ボクが本当にクソ親父と同じ思想を持っていたら、五年間もそのざまに目をつぶったと思うのか?」
ジェリアは突然上半身を前に出した。肘を机に乗せ、指を組んだ手を口の前に当てたまま、面白そうにそっと曲線を描く目つきがラウルを眺めた。
「もともと思想のようなくだらないことで騒ぐつもりはなかったが、そちらが話を切り出したのだからボクも一度指摘してみよう。〝誰もが能力だけで平等に扱われる世界〟、それが君が追求するものだったか?」
「そうです。だから俺たちがジェリア様より……」
「では、君はなぜリリウッド伯爵家の令息を排除した?」
突然割り込んだ言葉に、ラウルは何も答えられなかった。
リリウッド伯爵令息。彼に関する話をジェリアにしてあげたことはあったけど……急にその名前が出るとは私も思わなかった。
ジェリアだけが堂々と話し続けた。
「ハイマン・ブリック・リリウッド。ハセインノヴァ公爵領に属するリリウッド伯爵家の次男だな。財務関連業務にとても熱心で、思想においても開かれた視界を備えた才人だ。この前、君たちの派閥と共にしたいという意思を明らかにしたと聞いている。それに対する君の答えは何だった?」
「……」
「断ったな。なぜだ? 彼も能力のない人ではなかった。その時からすでに修練騎士団総務部で実績を積んでいた。しかも人柄も立派な奴だ。他の誰でもない、今君の傍に座っているテニーが直接重用して今も親しく関係する奴だから。自分が職位上テニーの下にいることさえ気にしない奴だ」
ジェリアの顔から笑いが消えた。
その代わり、眼差しに満ちているのは鋭く冷徹な威厳。まるで突き刺すような視線に向き合ったラウルが唾を呑んだ。
続いて出た声も冷たくなっていた。
「疑問に思った。君が彼を断ったのは彼がハセインノヴァ傘下の貴族だからではないか、と。ハセインノヴァはフィリスノヴァに近い公爵家だから、その下も保守能力主義派が主流だな。……もう一度聞く。君はハイマンになんか欠格事由があると思ったか? それとも……ハイマン個人を無視して、ただ保守能力主義派のリリウッド伯爵家を牽制したかったのか?」
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