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波紋を起こす

 私が微笑んで断言した直後、沈黙がその場を支配した。


 一旦は野外、それも人通りの所であるにもかかわらず、私たちだけは静かだった。集まっている私たちを遠くから見物する生徒たちの声がちらほら聞こえたけれど、私が今言ったことは彼らにまで聞こえる音量じゃなかった。


 残念ながら、ジェリア以外は依然として私の意図を十分に理解していないようだった。この話はジェリアの口で直接するのはちょっとアレだから……やっぱり波紋を起こすのは私の役割だね。


「貴方たちはジェリアとフィリスノヴァ公爵閣下の関係をどれだけ知っていますの?」


「仲が悪いということは知っていますが、詳しくはわかりません」


「かなりの軋轢があるのは知っています。正直、そちらを掘り下げてみようという意見も派閥内から出ているくらいでは」


 やっぱりテニー先輩は平民なので、詳しいことは知らない様子だった。こっちは貴族のラウルの方が少しマシね。


 ……それより派閥内の話をそんなに堂々と言ってもいいのかしら? 本人はあまり気にしていないようで、私が指摘する問題じゃないだろうけど。


「よく知っていますね。ジェリアはフィリスノヴァ公爵閣下のことが大嫌いなんですの」


「それがどうしたということですか? その事実はすでに有名です。それに公爵閣下と仲が良くなければ、後継者紛争でも不利なのではないですか?」


「常識的にはそうだろうな。だがこちらのクソ親父はそんな人間ではないぞ」


 私より先にジェリアが答えた。フィリスノヴァ公爵のことを思い出したのかしら、しかめっ面からイライラの気が流れ出た。


「戦え。一番強い奴がわしの座を継ぐ。……そんなことを自分の子どもたちに真剣にやるクズだぞ。それでうちの兄弟姉妹はひどくも戦ってきた」


「では、ジェリア様が最も有力な後継者と呼ばれるのは……」


「全部ぶっ倒した。兄上たちも、姉上たちも……才能も努力も足りないくせに欲だけが多いクズだからな」


「それが可能だったんですか? フィリスノヴァ公爵はピエリ卿以上に年上だと聞きました。たとえ子どもを遅く産んだとはいえ、後継者候補の中には年齢がジェリア様の二倍ぐらいになる人もいると思いますが」


 そんな質問があったけれど、ジェリアは可笑しいと言うように鼻を鳴らした。


「は。能力がなくて暗殺者などを雇うクズなど、ボクじゃなくてもいくらでもぶっ倒せる。……まぁ、暗殺者の手足を切り取って剥製したものを何度か送ってあげたら大人しくなったが」


 聞いていた子たちの表情が青ざめた。……ジェフィスだけはため息をついて首を横に振るのを見ると、ジェリアが経験したのを実際に見たことがあるんだろうね。


 ジェリアはあくまで淡々と言い続けた。


「とにかく、クソ親父は後継者が自分の思想を継ぐかどうかは気にしない。ただ強い者の血筋を残すことだけを重要視する。自分自身は保守能力主義派を率いているが、後継者がどんな思想を支持するかは関心すらない」


「そしてフィリスノヴァ公爵領に属した貴族たちは最近内紛の兆しを見せていますの」


 私はジェリアの言葉に続いてそう言った。


「現団長のガイムス先輩のドロミネ家がフィリスノヴァに属した伯爵家だということはご存知でしょう。ガイムス先輩が保守能力主義者のようでしたの?」


「……いいえ。むしろ人数だけで言うと、あの御方が主に傍にいる生徒は平民の方が多いです。僕のように」


「そうですわよ、テニー先輩。そのドロミネ伯爵家を主軸に、フィリスノヴァ内部でも基調を変えようとする勢力がありますの。保守能力主義内部の穏健派から純粋能力主義への転向に至るまで、彼らの意見は統一されていませんけれど……重要なことは、彼らがフィリスノヴァ公爵の派閥とは離反していることです」


 その時、テニー先輩の表情が変わった。


 最初は驚いたように目を丸くするだけ、直後唇をそっと噛んだ。今になって私が何を狙っているのか気づいたのかしら。


 ラウルもテニー先輩の表情から尋常でないことを感じたようだ。


「テニー? どうした?」


「……何でもありません。テリア様のお話を続けて聞いてみましょう」


 私はニッコリ笑った。勝利感や優越感のようなものじゃなく、純粋に同志を迎えたい気持ちで。


「当然ながら、フィリスノヴァ内部の勢力は次の公爵が誰なのかに神経を尖らせています。誰が次の公爵になるかによって、公爵領内部の権力構図自体が影響を受ける可能性がありますから。そしてドロミネ伯爵家の派閥が選んだ後継者が……」


「ジェリア様ということですね」


 さすがテニー先輩。ちゃんと理解してる。


 そして、その言葉を聞いたラウルもようやく気づいたようで、顔から驚愕の光が見えた。


 よし、今が追撃を加える時だね。


「テニー先輩。今まで修練騎士団員として活動しながら、ジェリアがどんな人だと思いましたの?」


 今この場にいる辺境伯家の令息は修練騎士団員でもなく、ジェリアや私との交流もなかった。彼らはジェリアの性向や性格について、ただ生徒の間での噂だけ聞いていたんだろう。だから、ジェリアの人柄や性向が分かるテニー先輩の口で聞く必要がある。


 テニー先輩は私の意図を理解したらしく、小さくため息をつきながら口を開いた。自分の口で言いたくないかもしれないけど……もう流れがここまで来た以上、逆らえないことはわかっているだろう。


「……公正な方ですね。特に人を使うときは人柄や能力を考えるだけで、身分や見栄えの良い条件などには目を向けない方です」


「その通りですわよ。そんなジェリアが現公爵閣下とは仲が悪いんですの。そしてそのジェリアが次期公爵になったら、フィリスノヴァはどうなるのでしょうか?」


 私は微笑んだ。


 ……ああ。


 別に悪い陰謀を企てたわけでもないのに、策略で人を騙す謀略家の気分が少しすると思う。


 その気持ちを秘めたまま、私は仕上げをした。


「保守能力主義派の筆頭であるフィリスノヴァ公爵家が()()()()()()()()()()()()()。……少しずつ人を増やすより、はるかに強力な手になりそうじゃないですか?」

読んでくださってありがとうございます!

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