彼らの弱点
「普通のことではないというなら、貴族の奴らが君の護衛でもするように横に並んでいるのも普通のことではないんだな」
「それは本当に心から同感です」
テニー先輩の苦笑いが深まった。
この国の辺境伯は中央政界にちゃんと進出できていないけど、とにかく爵位そのものは伯爵より上位。そんな貴族の息子たちが護衛のように並んでいるのは、平民としては気楽なことじゃないだろう。少なくともテニー先輩はそんなことで威張るよりは負担に思う性格だ。
でもテニー先輩は修練騎士団長候補であり、辺境伯勢力は純粋能力主義派から今代の修練騎士団長を輩出するのが目標。しかもテニー先輩を修練騎士団長にすることで、その後テニー先輩が純粋能力主義派拡張の橋頭堡の役割を果たしてくれることを期待しているんだろう。テニー先輩も積極的にその役を引き受けようとしているようなので、単に利用されるわけじゃないだろうけど……。
しかし、そこには一つの問題点がある。
「テニー先輩に協力する理由は大体予想できます。けれど……貴方たちが選んだ手段がどれだけ効果的なのか、ちゃんと考えてみたのかしら?」
「どういう意味ですか? まさかオステノヴァ公爵家が……」
「そんなに何でも疑う習慣はいいですけど、今はちょっとイライラしますね。本当に心から妨害工作に入る前にちょっと黙ってくれませんか?」
「お、おいテリア」
思わずかんしゃくを吐いてしまった。こんなことはダメよ。
ラウルの顔から見える警戒心が一層強くなった。正直、貴方が先に話しかけたくせに今何してるのって問い詰めたい気分だけど……自制しよう。
どうせそうする必要もないから。
「しきりに公爵家とか何とか言う前に、冷静に考えてみてください。今の貴方たちの望み通りになったとしても、それはどれほど役立つでしょうか?」
私の言葉にラウルは唇をそっとかんだ。あえて私の口で説明しなくても、やっぱり自分で知っているんだろう。
彼らの根本的な問題点。それはテニー先輩が出世してもどうせ平民ということだ。
もちろん、この国の政府には平民官僚もかなりいるし、中にはよほどの貴族より高い高位職もいる。政治の派閥がどうなっていても、この国の人材登用システムは能力さえあれば平民も出世が可能だから。一例として、今この国の六騎士団の一つは団長が平民だ。
けれど、中央政界の主力は保守能力主義派。当然、平民を見る視線は良くないし、平民官僚たちは牽制を多く受けている。その上、思想そのものの特性上、平民は絶対多数が純粋能力主義派だ。なので派閥の牽制のためにも平民に向けた視線はかなり荒い。
つまり、テニー先輩が団長になって、以後政界に進出するとしても……政治的な意味から見て、大きな影響は及ばない。
けれど、最も大きな力を持っているオステノヴァとアルケンノヴァという両公爵家は中立に近い立場だ。そして派閥内の勢力はほとんどが平民や男爵級貴族であるため力がなく、辺境伯は法的な爵位は伯爵以上だけど実質的には中央に足も踏み入れるのが難しい立場。一言で言えば、他の方法も特にないということだ。
「もちろん僕一人の頭角では大きな意味がありません」
言葉が詰まったラウルの代わりに、テニー先輩が言葉を切り出した。彼の表情はあくまで平穏で、私を見つめる眼差しにもあまり大きな感情は込められていなかった。
「しかし純粋能力主義派の最大の欠点は主流になれない状況そのもの。そして主流を占めることができないのは、権力の絶対的な総量が不足しているためだ。……というのが現在派閥内部の見解であり、僕も同感です。だからこそ、僕が政界に進出するための〝経歴〟が必要なのです」
「テニー先輩一人の力は取るに足らないけど、中央で声を出す人数を増やし続けていく。それを通じて保守能力主義派と対抗する人数を確保する。……ということですの?」
「その通りです」
「いい方法ですわね。現状に埋没しているということを除けば」
テニー先輩が眉をひそめた。でもそれは私の言うことに不満があるというよりは、純粋に底意を読むことができず怪しく思う感じに近かった。
テニー先輩だけじゃなかった。ラウルも、テニー先輩の支持者たちも……私たちの他の子たちでさえ、私に気になっていると言うような視線を投げかけていた。
たった一人、ジェリア以外。
「なるほど。やっと君が描いている絵が見えそうだぞ」
「フフ、理解したわね?」
やっぱりジェリア。ジェリアもフィリスノヴァのイメージに隠されただけで頭は良く、何よりもこの件でジェリアは当事者だ。彼女なら十分に私の意図を理解しただろう。
けれど、他の人たちはそうじゃなかったので、私はまた口を開いた。
「その方法が悪い方法だというわけではありません。今の貴方たちには最善と言っても過言じゃないでしょう。でも私なら……情報をもう少し持っている人なら、他の選択肢があることを知っているんでしょう。保守能力主義派の首長は誰なんでしょうか?」
「俺たちを無視するんですか? フィリスノヴァ公爵でしょう」
ラウルはジェリアをちらりと見ながら言った。私は満足そうに笑いながら頷いた。
「そうですわ。そして保守能力主義派が主流である理由もフィリスノヴァ公爵が積極的に派閥を率いているからですの。オステノヴァとアルケンノヴァは内部貴族を仲裁するためにまだ中立に近いし、ハセインノヴァ公爵家は政治とは距離を置いていますけどフィリスノヴァの味方です。バルメリア王家は純粋能力主義に近い人材登用の原則を掲げていますけど、派閥争いには関与しません」
「それは僕たちも知っています。……それを知らずにおっしゃったのではないでしょうが」
テニー先輩の目が鋭くなった。まるで私の心を見抜こうとしているかのように。私が急にこんな話をする理由が気になるでしょ。もちろん私は隠すつもりは全然ない。
……いや、むしろその反対。
この場で、この面々の前でこの話を持ち出すことこそ……私の本当の目的だから。
「保守能力主義派の根幹を揺るがすもの。……そっちの方がはるかに大きな波紋を呼びかねないと思いますけれども。どう思いますの?」
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