以外の行動
〝私が団長になったら〟
選挙ならよく登場するフレーズ。自分の選挙公約を広報することで、有権者にアピールする選挙活動の象徴だ。
当然、修練騎士団長選挙にも選挙活動は重要だ。修練騎士団長はアカデミー生活に大きな影響を及ぼす席であるため、生徒たちの関心も大きい。それだけ公約や人望の重要度も高い。
けれど、今回の選挙には一つのイレギュラーがあった。
「最近、人の安全を脅かすテロ組織が蠢動している」
アカデミーの真ん中で仁王立ちをして話している人に、周りの視線が集まった。
「奴らは王都を狙った。そしてこのアカデミーにまで侵入したことがある。騎士団と警備隊が守っているここだとしても、安全が確信できない状況になった」
演説と広報。前世でもよくあったものだし、この世界にも珍しくない。けれど一つ、前世の現代とは決定的な違いがあった。
「だからボクはボクたちを強くするつもりだ。ボクたちが自分自身を守る力を備え、ボクたちを守ってくれる人々とも協力して、より強固な防御を備える。執行部長のボク、ジェリア・フュリアス・フィリスノヴァの名をかけて」
生徒たちの当惑混じりの眼差し。その最大の理由は、今出して話している人がジェリア自身だからだった。
……私がこれを初めて提案した時はジェリアも難色を示したけどね。
***
「直接広報活動をしろって? ボクが?」
選挙戦略を議論していた当時。ジェリアは私の提案を聞いて当惑した。彼女だけでなく、他の子たちも。
「お姉様、それは慣例に合わないんじゃないですか?」
アルカがそう言うと、他の子たちもそれぞれ同意を示した。でも私は眉をひそめてその意見に立ち向かった。
「慣例を必ず守らなきゃならないの?」
「はい?」
「必ず守らなきゃならないルールなんてないじゃない。そうしなくてもいいなら……あるいは慣例を守るのがかえって損かもしれないなら、たまには逆らうのもいい方法よ。どうせ道徳性とは関係ないから」
慣例といっても大したことない。今まで団長候補たちは広報活動を自分が直接しなかったということだから。
歴代団長候補の大半は名高い貴族だった。そんな貴族たちが演説一回二回くらいならともかく、自分の足で走り回りながら広報するのが好きなはずがない。広報物を配布したり、支持者が選挙遊説を代行するのが一般的な形だった。それさえも、ごくたまに平民の候補たちが自ら乗り出す程度。
現団長のガイムス先輩も伯爵家の令息としてそのような一般的な選挙活動をしたし……今の反応を見ると、ジェリアや他の子たちも同じ形を考えたんだろう。
その慣例を破ることこそ、私が今回の選挙で最初にしようとしていたことだ。
「ふむ……イメージを変えるための行動の一環なのか」
やっぱりジェリア。すぐ要点をキャッチしたようだね。
ジェリアは腕を組んだまま考え込んでいた。多分方法の効用とか考えているんだろう。
そんな彼女の傍で、ジェフィスは慎重に手を上げた。
「姉君、急激すぎのイメージ変化は逆効果になるかもしれません。親近感を与えるという意味では直接出した方がいいかもしれませんけど、逆に警戒心を引き起こす可能性もあります」
「リディアはテリアの意見に賛成。支持層を拡張するためにはそういう変化も必要だと思うよ」
「僕も同じ意見です。お嬢様たちと親しい生徒は大丈夫ですが、そうでない生徒たちはまだジェリア様からフィリスノヴァ公爵家の影を濃く見ています。良く見ても〝フィリスノヴァとしてはいい人〟くらいのイメージですからね」
「私はもっと慎重に考えるべきだと思います。ジェリア様は貴族的すぎることを嫌がりますが、フィリスノヴァ公爵家の持つ貴族的なイメージのおかげで支持を投じる貴族の生徒もいますからね。過度なイメージ変化はそっちの弱さにつながる可能性があります」
リディア、ロベル、トリアまで。「私にはよくわかりません」と棄権したアルカ以外はほとんどどっちかを支持する状況だった。
やっぱり意見が分かれるわね。そもそも正解と言えるような手段じゃないはず。私もこの方法が本当に良い方法だと思って提案したのじゃないし。
「みんな正しいわよ。でも私は一度くらいはやってみる価値はあると思うの」
私が口を開くと、みんなの視線が再び私に集中した。私はそれを確認して話を続けた。
「最大の心配事は既存支持層の離脱なんでしょ。でも私はそっちは大きくないと思うの。そもそもジェリアの行動力と率先垂範する姿はジェリアと縁がある子たちなら誰でも知っているわよ。そしてただフィリスノヴァ公爵家のイメージだけに頼ろうとする生徒たちの支持も大きく離脱しないはずよ」
「なぜだ?」
「他に支持する候補がいないから。私たちのライバルは平民で純粋能力主義派のテニー先輩じゃない。フィリスノヴァ公爵家のイメージを見てジェリアを支持する生徒たちが、ジェリアに多少失望したからといってテニー先輩を支持する? 違うでしょ。そして私はジェリアが直接選挙遊説をすることがそこまで否定的な衝撃を与えるとは思わないわよ」
実はその他にも目的がもっとあるけど、そっちは今話してくれるつもりはない。今話したことだけでも説明は十分だと思うし。
そしてジェリアの既存支持層が選挙をボイコットする可能性はあまりない。票を投じること自体が一種のコネを作る行動である以上、フィリスノヴァ公爵家をボイコットするバカは珍しいはずだから。
私の話を最後まで聞いたジェリアは頷いた。
「いい。ボクもその方法が気に入ったぞ。下のものだけを前面に出して、ボク自身は後ろに隠れているのはもともと嫌いだな」
そうして、私たちの選挙遊説方式が決まった。
***
そうなって、私たちは直接選挙運動をしていた。ジェリアだけでなく私、アルカ、リディア、ジェフィスまで全部。公爵家の令嬢令息が五人も集まって広報をするだけでもかなり耳目が集中した。
それにしてもジェリアがとても騎士団らしく話しているようだ。こっちは私が支援してあげようか。
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