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テリアの姿

「……すげぇ模擬戦だった。いや、本当に模擬戦だったのかよ? あんなのが」


「あれはアレンお前でも瞬殺されそうだな」


 テリア様を追いかける道。友人達の言葉に俺は頷いた。


 俺もアカデミーの騎士科生徒としてそれなりに実力には自信があるが、それでも生徒並み。あんなバケモノのような戦闘力なんてない。


「いや、そもそもアレはおかしいだろ。人間があんなことが可能なんだって」


「まぁ……騎士団の千夫長くらいになると山も吹き飛ばされるというから……」


「……話はたくさん聞いたけど、まさか本当にそんなレベルだとは普通に思わないよ」


 テリア様とジェリア様の戦いは実にすごかった。いや、それはもう戦いじゃなくて災害だった。


 邸宅内の結界はどんな術法を使ったのか、巨大な野外地形だった。草一株もない大地の上に小さな岩山や渓谷が随所に敷かれたでこぼこした地形。しかし、二人の公女様の魔力と戦いの余波で、その大部分が破壊され平坦になってしまった。それこそ地形を変える戦いというのが何なのか目の前に繰り広げられたのだ。率直に、結界が壊れて俺らまで巻き込まれそうで怖かった。


 俺は先頭に立って走りながら口を開いた。


「俺も見たことはないけど、千夫長からは人間の域を外れた力を持つという話は聞いたことがある。さっき見たのも少なくとも百夫長級にはなるだろ」


「……あの人達、まだ十代なんだよね? 才能のある騎士も百夫長になるには十年以上かかると聞いたけど」


「……」


 まぁ、こんな話は俺らだけで言っても意味がない。


 そんな話をしている間に俺らは邸宅の外に出た。さっき見た庭が俺らを迎えた。しかし、その場にテリア様の姿はなかった。


 俺らは彼女を探そうと周りを見回して……しようとする必要もなかった。


「ははははははは! 久しぶりだわ! さっさとかかってこいよ!!」


 豪快というか、乱暴というか。


 女性らしさとは程遠い笑い声が聞こえてきた。振り返る必要もなかった。まるで周辺一帯を丸ごと覆うような巨大な紫色の雷電が爆発したのだ。結界の外を隙間なく覆っていた邪毒が一瞬にして殲滅され、侵食されて歪んだ地形さえも平坦になった。


 その雷電の中心地にテリア様がいた。


 ジェリア様と模擬戦をしていた時と少しも変わらない様子。……いや、変わらないというには語弊があるだろうか。模擬戦の時も楽しそうだったが、それでもその時は普段のテリア様のイメージから大きく外れていなかった。


 でも今は違う。ただ暴れること自体が良くてたまらない……強いて言えば貴族令嬢らしい姿など少しも見えない戦闘狂だった。


 その戦い方さえもあまりにも苛烈だった。


 ――天空流〈月光蔓延〉


 一帯を埋め尽くす斬撃の乱舞が魔物を一挙に掃除した。すぐに邪毒と魔物がその空き地を埋めようとしたが、それよりも先にテリア様が突進し、近い魔物一匹を足で蹴飛ばした。恐ろしい脚力と膨大な魔力に直撃された魔物はそのまま爆発するように飛散してしまい、テリア様の剣は直ちに次の獲物の首を切った。


「! 危な……」


 テリア様の死角を狙う魔物がいた。俺は反射的に声を上げて警告しようとしたが……敢えてそうする必要もなかった。テリア様はそっちに目を向けず片方の剣だけで魔物の爪を防ぎ、返礼の斬撃が奴の胴体を一刀両断した。そして細い足が地面を踏みしめると、そこから噴き出した紫色の雷電が一帯を一掃した。


 テリア様の特性は浄化系だと聞いたが。いざ今は浄化なんか全く見えず、壮絶な雷電がすべてを焼き払っていた。その一方で、魔物一匹一匹を攻撃する剣路は申し分なく正確だった。そしてその勢いは剣術の精密さとは関係なく、猛烈で荒かった。


 しかし、俺らを当惑させたのは剣や魔力の勢いではなかった。


 速く激しい動きの中でふと、テリア様の顔がこちらに向かった。美しい顔では想像もできなかった、荒々しく好戦的な笑顔。隠された真意などは少しもうかがえない、ただ目の前の戦いを楽しむだけの顔だった。


「……俺達、何の為にここに来たんだっけ?」


「知らねぇよ」


 あの顔を見ていると懐疑的になる。ピエリ様を告発したことに本当に違う意味があったのだろうか。実は表面に現われたそのままなのに無駄な疑いをしたのだろうか。まるで激しく暴れる魔力に俺らの疑いと不信をすべて粉砕されたような感じだった。


 ……いや、ただこうしている場合じゃない。


「しっかりしろ。こうしてる為に来たんじゃないだろ? そして普段の姿も考えてよ」


「それはそうだけど……」


 友人達は依然として混乱している様子だった。しかし俺がそれについて何と言うよりも、状況が動いた方が早かった。


 いつの間にか結界の外が静かになった。おかしくてそちらを見ると、戦いを止めたテリア様がこちらをじっと眺めていた。俺と目が合った彼女はそのままこちらに歩いてきた。


 友人達もそれを見て慌てた。


「え、こっちに来るんだけど?」


「ま、まさか俺達が話してるの聞いた?」


「大丈夫。大したこと言ってないじゃん」


「お前らバカかよ? 俺らは何もしていないよ。無駄に怖がる理由はない」


 ……そう言って友人達を落ち着かせたが、実は俺も不安ではある。


 だが俺らが交わした話を聞いたとしても、俺らが口の外に話したことはあまりなかった。聞こえたはずもないし。


 


 ***


 


 全部聞こえたんですわ。


 私はそう言いたいことをじっと我慢し、表情を必死に整えて足を運んだ。


 結界の中で何か怖いと言うような表情で私を見ている男子生徒達に向かって。

読んでくださってありがとうございます!


今回は、今まで見せることのなかったテリアの一面を他人の目で描写してみました。

実は元々こんな面もあるという設定だったのですが、こんな姿を見せる機会があまりなかったのですね。


面白かった! とか、これからも楽しみ! とお考えでしたら!

一個だけでもいいから、☆とブックマークをくだされば嬉しいです! 力になります!

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