強さ ☆
【あの時は可哀そうだったわ。終わってから不安になるの、全然良くなかったからね】
[ごめんね]
【責めるのじゃなく残念だったということよ。それが当然の反応だから悪いことじゃないわ。むしろ私が精神保護のようなものしてあげられたらよかったと思ったのよ】
最初の戦いの後、私はその場に座り込んで震えた。周りは実戦の緊張と恐怖のせいだと思ったけれど……実は魔物と対峙した時も、殺した後も私は魔物や戦いに対する恐れは全く感じなかった。
私が怖がっていたのは……私自身だった。
前世を含めても実戦とは何の縁もなかった私。そんな私が人でもない怪物と戦って殺すことに平気だった。それに魔物の首を打つ時のあのぞっとするような感触も平気で受け入れた。
その事実がとても怖かった。もし私は精神異常者だったのか、それとも『バルセイ』の邪悪だった私がどこかにいるのか……そういうこともたくさん考えた。
今は結局、そんな私にも慣れたことを越えて、何の考えもなく魔物と戦うことができるけれど、まだなぜ平然とできたのかは明らかにできなかった。そもそも分かることができるかどうかも分からないけど。
むろん、このような話をありのままにするつもりはない。
「私も最初は気持ちが良くなかったわよ。それでもここで夢中で戦っていたら慣れてきたんじゃないかしら?」
完全に嘘ではない。実際、ここは結界の外に出てから敵が無限に押し寄せてくるので、そんなことを考える暇もないから。
ジェリアは私の言うことを信じたのか、それとも深く掘り下げる気がないのか、それで適当に見過ごしてくれた。
「まぁ、そういうこともあるだろう。ボクが昔の君を直接見たわけでもないからな。……それより修練の秘訣がこれだけなのか?」
「うん? うーん、まぁ、いい師匠がいるということ以外はこれで全部なんだけど」
「ふむ。確かにここでたくさん戦えばすごく鍛えられそうだが……それでもその年でそれほど強くなるレベルではなさそうだな。そもそも普通なら今君の年に入ってもあっという間に圧殺されて死ぬはずだが、実際はもっと幼い頃から始めたんだろう?」
「まぁ……それはそうだね」
実際にはイシリンと『浄潔世界』で無限の魔力を持ったおかげだけど。無限の魔力があれば身体強化率も優れており、手に余る状況でもなかなか死なずにカバーできるから。
……実は私自身もいくら無限の魔力があっても成長速度が尋常ではないという自覚はあるけど、それもやっぱり原因が分からず結局考えを諦めた。攻略対象者も主人公もみんな才能あふれる人たちだから、中ボスの私にもそんな才能があるのかもしれない。
「それより貴方はどう? 見物だけしてやらないの?」
「は、バカなこと言うな。……おお、これはすごいな」
ジェリアは魔道具を起動して嘆声を漏らした。
この呪われた森で三時間耐えることを前提にしたものだから結構高性能なのよ、あれ。
ジェリアが結界の外に出ようとすると、魔物死体を処理していたトリアがこちらをちらりと見た。
「今度はジェリアだけ出るわ」
「はい、いってらっしゃい」
「楽しみだな。じゃあ、一度暴れてみようか!」
ジェリアは重剣を抜いて結界から飛び出した。私は万が一のことに備える心半分、そしてジェリアの戦いを見たいという気持ち半分でその後ろ姿を見守った。
***
騎士に必要なものはいろいろあるけれど、最も重要なのはやっぱり戦闘力だ。それは騎士科の授業の面でも同じだ。
入学前は純粋に戦闘術の授業を期待していたけれど……入学式であの男を見た後は別の意味で待っていた。
「お会いできて嬉しいです、皆さん。総合戦闘術教官のピエリ・ラダスです。このアカデミーで皆さんが素晴らしい騎士に生まれ変わるまで最善を尽くして指導します」
例の男、ピエリが第二練習場の壇上に立って私たちを見回した。
生徒はだいた五百人ぐらいなのかしら。この授業自体は騎士科しか受けられないわけではないけど、多分ほとんどは騎士科だろう。
当然だけどピエリの声は魔道具で増幅していた。五百人を相手に肉声だけで授業をするのは不可能だから。
「今日は初日で、それぞれのレベルが違うので全体的に確認する作業をしましょう。各自の魔力運用測定と簡単な試験を行います。助教たちの指示に従ってください」
ピエリの後ろにはかなり高学年に見える生徒が十人ほど並んでいた。ピエリが話し終えると同時に彼らは前に出て新入生をいくつかのグループに分け始めた。
「今日も元気そうだな」
私の方へ来た助教が声をかけた。ジェリアだった。
「何よ。助教もするの?」
「意外と面白いぞ。才が見える子がいると育ててあげるのもいいし、やっているうちにいろいろ強い奴と手合わせする機会ができる」
それから彼女は私とロベルを含めてグループを適当に選んで練習場の片隅に向かった。
他の生徒たちは四大公爵家の令嬢が二人もいるからか、少し緊張していたけれど、ジェリアが豪快に笑いながら説明すると少しだけど安心した様子だった。
「じゃあ……まず、入学前に練習した武器とかあるのか?」
そのように簡単な調査を行った後、本格的に測定が始まった。やっぱりほとんどが騎士科だからか、経験のない生徒はいなかった。その中でも目立つ生徒が何人かいた。
「すごい! 一年生なのに魔弾を素手で使ってる!」
「五メートルも離れた的を斬撃で正確に破壊できるなんて! すごいじゃん!」
「あいつ、本当に怖い特性なんだけど? できれば喧嘩したくない」
確かに年の割にはすごいということはできた。本来なら一年生の新入生として入学するほどなら、魔弾を撃ったり遠距離斬撃を放つことが全くできない人も多いから。勉強で言えば一年生が四、五年生の試験で合格点を取るレベルというか。
八の時にすでに魔弾でディオスの口を黙らせた私としては、正直大げさすぎると思うけどね。
そんな感じでのんびりと生徒たちの結果を見ていたら、いつの間にか私の番になった。
「じゃあ行ってみようか」
「応援しております、お嬢様」
ロベルの見送りを受けながら前に出ると、それぞれ感嘆したり自慢したりしていた周辺生徒たちの視線が一斉に私に集まった。
「あの人は……」
「入学式の日にジェリア先輩を倒したらしいけど」
「まさか。デマだろうね。それとも先輩が手加減をしてくれたとか」
「あの御方はオステノヴァの令嬢でしょう。フィリスノヴァのジェリア様に勝てるはずがないわよ」
だいたいそんな感じでひそひそ話す言葉が聞こえた。
うーん、ジェリアに勝ってそれなりにインパクトを残したと思ったけど、疑う声が多いね。いや、むしろやりすぎて誇張だと誤解されたのかしら。
一方、当事者のジェリアは苦笑いしていた。
「過大評価は嫌いだが、過小評価もみっともないぞ。口を黙らせてよ」
「言わなくてもそうするつもりよ」
ジェリアにそう言い、魔力で剣を作った。
この〈魔装作成〉は魔弾よりも上位の技である。それに私の魔力は紫光技を象徴する紫色。魔弾だけでも驚く新入生にはかなり刺激的な光景だろう。
実際、ざわめく声がさらに大きくなった。
「前に見える的を一分間攻撃せよ。自力でできる手段なら何でもいいぞ」
前方には的がそれぞれ異なる位置と間隔で並んでいた。一番遠いのは三十メートルぐらいかしら。個数は全部で二十四だった。
他の生徒たちは平均的に三、四つ程度を壊したから、ここで十個程度だけでも注目を集めるだろう。
もちろん私はそんなに生ぬるいことなんてするつもりはない。
ただじっと立ったまま剣に魔力だけを纏う。そして十分な魔力が集まったと判断されるやいなや、剣を精一杯振り回した。
――天空流〈紅炎〉
魔力の斬撃暴風がまるでミキサーのように一帯を容赦なくすりおろした。しかし魔力を絶妙に調整して衝撃波や破片が外に飛ばされないようにし、暴風が長く留まることもなかった。
魔力が衰えると、まるで隕石でも落ちたかのように大きなクレーターが現れた。的なんて二十四個全部跡形さえなくなった。
……これもしかして私が賠償しなきゃならないのかしら?
そんなことを悩んでいると、周りの生徒たちが一斉に声を高めた。
「す……すげぇ! 二十四個を一撃で吹き飛ばしちゃった!」
「まさかジェリア先輩を本当に……」
「あ、いや、でもジェリア先輩も入学してすぐ的をすべて破壊したと聞いたよ。まだ分からない」
「でもあれくらいなら……」
うーん、まだ半信半疑か。
まぁ関係ないわ。一応私が平凡な新入生レベルではないということは伝わっただろうし、あえてジェリアに勝ったかどうかを厳密に問い詰める必要はないからね。
ゲームの内容を考えればアカデミーで自分の名声を高めるべきだけど、あえて新入生の時から力み返る必要はない。
魔力剣を消滅させてジェリアに近づくと、彼女は私が作ったクレーターを見て微笑んだ。
「わざとあの時最後に使った技を使ったんだな?」
「あら、やっぱりバレたのかしら?」
「当然だ。あの時、魔力を使うのが下手だと言って似たような技で圧倒されたな。今回も同じものを見せたら理由は明らかだぞ」
「よく知ってるね。この機会にもっと習ってみて」
「とても余裕が溢れてるな。覚えてろよ、すぐ飛び越えてあげるからな」
そうだね、早く追いかけてきて。
ジェリアをゲームより強く育ててしまえば悲劇を防ぐことも容易になるだろうから、私としては断る理由など少しもない。
その時、突然背後からドカーンと轟音が鳴った。それも二十回連続で。
「あいつは何だ!? 見習い執事って言わなかった!?」
「見習い執事があれくらいだなんて、オステノヴァ公爵家はいったい何よ?!」
振り返ってみると、ロベルは魔力の残留した手を振っていた。
どうやら反対側にあった的を二十四個全部破壊したようだった。私のように一発で吹き飛ばしたのではなく、一つ一つを魔弾を撃って撃破したようだ。
私とは違って速度と正確性を誇示する方式だね。
「これぐらいできなくてはお嬢様を護衛する資格がありません」
そう呟くと、なぜか歓声が上がった。主に女生徒の間で。それほどじゃないと思うんだけど。
その時、ドライな拍手が響いた。
「素晴らしいです。今年の新入生たちはみんな才能が溢れていますね」




