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ピエリの過去

「どういう意味ですか?」


 テニー先輩は鋭い目でジェリアを眺めた。


 ゲームでテニー先輩はジェリアの心強い協力者だった。でもピエリの堕落にフィリスノヴァが関与したことを知った時は関係が破綻するところだった。ましてや、ゲームでよりもジェリアとの関係がドライな今ならなおさらだ。


 仕方が無い。テニー先輩はピエリをとても尊敬する生徒の一人だから。ゲームでも彼はピエリの熱烈な追従者であり、ピエリの変節事実が明らかになった時はかなり衝撃を受けた。


 そう考えるとジェリアがうまく話してくれることを願うけれど、これはそもそも私が関与できる問題じゃない。


「ボクも今回のことで調べて知ったのだが……ピエリにはもともと妻と娘がいたそうだ」


「何ですって? あの御方はきっと独身……いや、そういうこともあるのでしょう。英雄として名高かったので敵も多かった御方でしたから。家族の安全を考えるなら、秘密にした方が効果的だったでしょう」


「そうだろう。それはボクも同意する。ただ……今までもずっとその存在が秘密になっているのは彼が望んだことではないはずだ」


「どうしてですか?」


「彼の妻と娘は死んだからな。騎士団の間違った作戦のせいで」


 ジェリアの顔は無表情だった。感情的に興奮すると魔力が激しく動く癖のある彼女だけど、今は魔力や眼差しも落ち着いていた。落ち着きすぎて、むしろ何を考えているのか伺えなかった。


「ピエリが騎士として最後に参加した戦闘であるアルキン市防衛戦。当時、南部戦線の民間人被害が激しかったことは知っているんだな?」


「もちろんです。あの時のことで責任と不足を痛感したラダス卿が引退を決心されましたからね」


「その時犠牲になった人々の中に彼の妻と娘がいた。そしてそんなに被害が大きくなった理由は、当時の南部戦線の司令官が防衛線を間違って設定したからだった。……その近くにあったレアメタル鉱山を保護するのに過度な戦力を投入したそうだ」


 ……驚いた。


 ジェリアが言ったことはすべて事実だ。けれど、本来なら今のジェリアが知るはずがない情報でもあった。ゲームでもその事実が明らかになるのは最終章の近く、それもピエリ自身が直接明らかにしたからこそ初めて知られたことだったから。


 当時の戦況の一次的な責任者は南部戦線の司令官だけど、その失策を隠蔽したのは月光騎士団の団長であるフィリスノヴァ公爵、すなわちジェリアの父親だった。そして鉱山の利権に一緒に関わっていたバルメリア王家もその隠蔽に協力した。


 家族が犠牲になった後、ピエリは真相を明らかにし、失策を追及しようとした。しかし、大英雄である彼さえも一国の公爵と王家が力を合わせた隠蔽工作をどうすることができなかった。最後の希望としてフィリスノヴァ公爵に直接嘆願した彼は、その時になって自分の家族の犠牲を黙認したのがフィリスノヴァ公爵と王家だったことに気づいた。


 ラダス家は本来、代々フィリスノヴァ公爵家に仕える家だった。ロベルのディスガイア家のように。ピエリはそのラダス家の義務から独立して騎士になったけれど、その過程で助けてくれたフィリスノヴァを恩人と考えていた。


 そして王家とは直接的な縁はあまりなかったけれど、民のために献身し、自分を重用してくれた王家をピエリは高く評価していた。だからこそ、フィリスノヴァと王家への彼の裏切られた気持ちは深刻だったんだろう。その権力を崩すために、かつて自分があれほど敵対していたテロ組織の最高幹部にまで上り詰めるほどでは。


「……そのことで国を裏切ったということですか?」


 テニー先輩の顔に迷いができた。それだけで大英雄が変節したということを受け入れるのは難しいと言いそうな表情だった。実際、ピエリが変節したのも家族の死そのものより、それ以降の一連の流れのためだったから当然だろう。


 ジェリアは眉をひそめながら首を振った。


「ボクが知っているのはここまでだ。ただ……推測はできる。それ以来、クソ親父が事件を隠蔽したりしたのだろう。当時の戦線を直接指揮しなかったとしても、とにかくその鉱山は我が家にとって非常に重要な場所だ。だからこそ、政治的にもかなりあちこち呼ばれていた場所でもあった。不味いことは何とか隠そうとしたのだろう」


 自分の欲のためなら誰がどれだけ死んでも気にしないゴミだから、と。ジェリアはそのように言葉を結んだ。


 ……どうやら王家まで関わっていることはわかっていないようだね。それでも今まで確保した知識とそれに基づいた推測だけでもほぼ真相に近づいている。一体あんな情報をどこで得たの?


「……一応話はわかりました。ただ、本当にそんな流れだったのなら……そんな情報を確保するのは難しいでしょう。僕がフィリスノヴァ公爵だったら、自分の子どもでさえ見られない所に隠しておいたはずです。ところでジェリア様はどうやってそれを知ったのですか?」


 ナイス、テニー先輩! ちょうど私が聞きたかったことよ!


 ジェリアはすでに予想していたかのように平然と口を開いた。


「始まりは先のテロ事件直後だった。寮に帰ってみたら、部屋に書類の束があったぞ。そこにボクが言った内容が書かれていた。最初は信じられなくて、自分なりに検証してみようと思ったんだ。詳しく言うには長いが……結果だけ言えば、結局我が家の記録から関連資料を見つけることができた」


「……そうですか」


 テニー先輩はしばらく黙っていた。


 テニー先輩だけでなく、話を聞いたみんなが沈黙した。簡単には信じられない話だろう。けれど、その話をした人がフィリスノヴァの人であるジェリアだということと、彼女が執行部長として築いてきた信頼が物証よりも明確な説得力になってくれた。


 長くなろうとした沈黙を破ったのはテニー先輩だった。


「……一つ指摘したいのですが」


 彼の目はジェリアを睨んだ。

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