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大英雄

 入学式。


 ここで私はとても重要な事実に気づいた。


「今年も名望のある生徒たちを迎えることができて嬉しいです。このアカデミーはいつも……」


 ……世界が違って国が違っても、偉い方の訓話は退屈極まりないという事実だった。


「言葉だけで人を寝かせる能力とは、実に恐ろしい特性魔力です」


「ロベル、あれはただ退屈だけなのよ」


 ロベルとそんな冗談でも交わさなければ私も寝てしまいそうだった。生徒ではないので外で待っているトリアが羨ましい。


【人間はあんなのが好きなの? 本当に理解できないわ】


[人類の名誉のために言っておくけど、あんなのが好きな人は言う本人だけ。聞く私たちまで好きだと思わないでね]


【……それが人類の名誉まで出ることなの?】


 口を開かなくても漫才を交わす相手がいるということ、すごくありがたいことだね。


 一人でどうでもいい感動を感じていると、訓話が終わって次の手順に移った。各学科と主要分野の代表先生を紹介するようだった。


【うわぁ、大時代。見物する私がイライラしそうね。そういえば、貴方の前世にもあんなのがあったんだよね?】


[私も直接経験したことはないけど]


【よかったわね。やったことないこともう一つやってみたから】


[こういうのはしなくてもいいわよ]


 騎士科の主要分野の先生たちが見えた。護身術、基礎戦闘術、現場指揮、戦略戦術……。共通科目の他にも多様な分野と担当教師がいた。


 その一人、茶色の髪と目を持った美青年が紹介された瞬間、講堂に歓声が上がった。


「騎士科の総合戦闘術教官、ピエリ・ラダース卿です。皆さんご存知だと思いますが、長い間月光騎士団に在職して多くの人を救った大英雄ですよね。引退してこのアカデミーにいらっしゃった後も多くの人材を育て、国に貢献する立派な御方です」


 さわやかな雰囲気と穏やかで人が良さそうな笑顔が印象的な美青年だった。でも若く見える外見は実は魔力で維持するだけで、実際の年齢はすでに百を超えた老獪な戦士だ。


 それだけに穏やかな外見とは違って強い実力を備え、大英雄と呼ばれるほどの業績を残した偉大な騎士だ。彼の偉業を扱った歴史書や伝記も数え切れないほど多い。


 ……表面的にはね。


 思わず目に力を入れて彼を睨んだ。そんな私の気配を感じたのか、ロベルとイシリンが同時に話しかけた。


「お嬢様?」


【どうしたの?】


「何でもないわ」


 今は何もできないから、このまま見過ごすべきかしら。


 不機嫌な気持ちを感じながらも、私はピエリから目を離さなかった。


 


 ***


 


 入学式が終わった後、私は約束通りジェリアとティータイムをした。


 白い花が中央の憩いの場を囲む素敵な庭園だった。私たちの他にも所々にティータイムやピクニックを楽しみに来たような生徒たちが見えた。


「ラダス卿? ああ、いい御方だな。あの御方から学ぶことがとても多いぞ」


 ジェリアは私がピエリの話を持ち出すとすぐにそう言った。私の後ろに立っているロベルとトリアも、そしてジェリアの後ろに立っている黒髪の男子生徒……第三練習場の貸し切りをしたティロンも頷いた。


「現場で戦う人にとっては、彼こそ伝説そのものです。私も現役時代を直接見たことはありませんが、ほとんど戦闘術の標本のような御方ですので、何をしても結局はあの御方に帰結するんですよ」


 そういえば、トリアは我が家のメイドになる前に傭兵みたいなことをしてたよね。


 ところで、やっぱりピエリに対する評価はどこでも同じだった。


 実際、彼は大英雄という称号に相応しく数多くの功績を挙げ、王国の歴史を論じる時、絶対に欠かせないほど多大な影響を及ぼした人だった。


 ……過去には。


【そんな人が悪い奴になるの?】


[『なる』のじゃないわ。『もうできている』のよ。あの人が変節したのは二十年以上昔のことだから]


 大英雄の仮面で本性を隠した悪人、それがゲームでの彼だった。


 ……そうだ、彼は『バルセイ』の登場人物だ。それもただの端役や、あるいは私のような中ボス程度にすぎない人ではなかった。


 


 なぜなら、彼がまさに『バルセイ』にたった六人しかいないラスボス(・・・・)の一人だから。


 


 『バルセイ』は珍しくもルートによってラスボスが変わるゲームだった。


 隠しルートまで全部で六つのルートだからラスボスも六人。そして彼らは一つ一つが国を破滅させるのに十分な絶対強者だった。


 もちろん一人を除いて五人は本来の力に加え禁断の力まで手に入れたものであり、ピエリもその五人の一人だった。


 しかし、ラスボスの力を得られなかった今も、彼は最上位の強者だ。今私がかかっても一分どころか一撃で即死。名声の高い彼を告発するだけの証拠もない。


 すなわち、私は彼がすでに犯したことと、今後犯す悪行を知りながらもすぐにできることがなかった。


【でも今は大丈夫じゃない? どうせあの男が大きな被害を出すのは何年後でしょ?】


[それはそうだけど、その間証拠を探すのも難しいわ。この状態で予防できるかも分からないし]


【困るわね。全然できることないの?】


[重要なことが一つあるの。とりあえずそこから何とかしないと]


 それさえもイシリンとの対話のおかげで考えがある程度整理された。うん、やっぱり事情を知って相談する人がいればずっといいね。


 考えを終えて口を開いた。


「それにしてもジェリア、私を修練騎士団に入れてくれる?」


「どうせ騎士科は自動的に修練騎士団に名前を連ねることになっているぞ。だがそれをあえてボクに話したということは……やっはり執行部に入りたいってことだな?」


「やっぱりよく知ってるわね」


 そんな話をしていると、ロベルは横から首を傾げた。


「修練騎士団って何ですか?」


「生徒たちを代弁して色々なことを運営したり規則を守る集団だよ。騎士科はみんな自動的に加入するけれど、必ずしも活動が強制されるわけではないの」


 簡単に言えば前世の生徒会だ。執行部はだいたい風紀委員ぐらいになるだろうか。もちろん細部的には違うことも多いけど、校内での役割だけを見れば生徒会と変わらない。


「君、執行部の推薦のためにボクに近づいたのだな?」


「それも含まれてはいたわ」


「あっはは! 素直でいいぞ!」


 すると、ジェリアは意味深長に笑いながら体を前に出した。


「いいぞ。執行部としても君みたいな人材を逃したくないからな。ただ条件がある」


「何?」


「君が修練する時に使った方法、ボクにも教えてよ。いくら才能があっても、その歳でそれだけ強くなるのは平凡な修練だけでは無理だからな。何か秘法があるよな?」


 ジェリアがそう言った瞬間、ロベルとトリアが同時に息をのむ音が聞こえた。ちらっと振り返ってみると、二人とも何とも言えない表情でジェリアと私を交互に見ていた。


「お嬢様」


 ロベルの声はいつもより異様に低かった。


「まさかまた犠牲者を増やすつもりですか?」


「なんで私が悪いようになったの!?」


 全力で抗議したけれど、ロベルはびくともしなかった。トリアまで横でうんうんと頷いた。この……。


 私が一人でブルブル震えていると、会話を見守っていたジェリアが爆笑した。


「あはははは! 面白そうだな! それで答えは? まさかケチに断るんじゃないよな? 名前も似たような友達同士で一緒に切磋琢磨すればいいぞ?」


 それは何の暴論よ!?


 いやまぁ、別に断るつもりはないけれど。でもとんでもない説得に笑ってしまった。


 でも私が何も言い出す前にトリアが割り込んできた。


「看過できない発言ですね」


「ほう?」


 トリアはまるでジェリアに立ち向かうかのように前に進み、堂々と彼女を見つめた。


「お嬢様に出会って一日も経っていない方が、早くもお嬢様のお名前にむやみにアプローチするなんて、無礼極まりないですね」


「メイドのくせに大胆だな。そういうの好きだぞ。だがな、ボクと名前が文字一つ違いっていう事実は変わらないぞ」


「それは私も同じです。美しく偉大なお嬢様のお名前にもっと近いのは私の名前です。私は三年前から誇りを持ってきたんです」


「時間より大事なのは密度だぞ」


「密度も私の方が高いです」


「いったい何の無駄な戦いなのよこのバカたち!!」


 思わず大声を出してしまった。するとジェリアはまた笑い出した反面、トリアはまだ不機嫌そうに見えた。気分的に見るとジェリアが勝ったね、これ。


 ……それよりトリアはゲームでは始まりの洞窟事件以後名前が似ているということを非常に嫌っていたけれど。改めてゲームとは変わったという実感が湧く。


「やあ、君のらメイド面白いぞ」


「普通はメイドのくせに無礼だと大騒ぎになったのにね」


「それが普通だということは分かるが、まぁボクがその普通に従う必要はないぞ。ボクは硬いものが大嫌いだ。……クソ親父がそんなことに夢中になる人間だからな」


 ジェリアはしばらく舌打ちをしたけれど、すぐに気分を変えようとするかのようにまた笑いながら身を乗り出した。


「それにしても答えは?」


「いいわ。どうせ私も一緒にやる人がいたらいいかなって思っていたところだから」


 条件を受け入れるやいなや、ロベルがため息をつく声が聞こえた。


「結局犠牲者が……」


「そんなこと言うまでもないもん!」


 かっとなって叫ぶと、ジェリアは興味を示した。


「いったい何でだろう?」


「ただロベルとトリアが過敏反応するだけよ」


 そう答えると、ロベルはより大きなため息をついた。本当に私にどうしたの。


 それにそれで終わらせるつもりでもないようだ。

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