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神懸かり

 ここはどこだろう。


 何も見えなかった。私の目がつぶれてしまった……のではなかった。私の手や体はちゃんと見えるから。ただ周辺が何もなく真っ黒な空間だっただけだった。


「私はきっと……お姉様と模擬戦をしていて……」


 私の剣に紫色の魔力が一切れ混ざったのを見て驚き、お姉様が私を攻撃し、それを防いで……。


 うーん。経緯は覚えてるけど、今の状況は理解できない。意識を失ったようだけど……じゃ、これは夢なのかな? いや、夢というには意識がはっきりしているのに。


 幸いなことに、その状態は続かなかった。いつの間にか暗い空間の中に小さな光が現れたのだ。そこに行こうと足を動かすと、私の体は簡単に動いた。


 近づいてみると、その光は思ったより大きかった。いや、思ったより大きいほどではなく、私の体よりずっと大きい塊だった。光の塊……いや、魔力の塊と言えるべきかな。好奇心で触れるやいなやその塊の正体に気づいた。


 これは、私の力だ。


『万魔掌握』を使う時の感触と同じだった。しかし、それ以上に不思議な確信ができた。これは私の力だって。本当に私の力だからかも。


 私は好奇心がわいて、その魔力の塊をあちこち調べた。その結果、これがただ白い光だけを抱いたわけではないことが分かった。塊のあちこちに色違いの魔力が混ざっていた。集中して見ないと見逃すほど小さな彫刻ではあったけれど、その数は思ったより多かった。


 色は……紫色が一番多いね。その次は赤だろうかな。その他にも色違いがいくつかあった。


 まずは最も多くの紫色に手を当てた。でも白い塊が私の力だということに気づいた時とは違って、今回は特に何も感じられなかった。せいぜい感触が違うし、自分の力ではないことを知ったくらい。


 でもこれが何なのか見当はつく。問題はそれをどのように証明するかだけど。


 そんな考えをしていた私に、後ろから話しかける存在があった。


【鈍感だね。もうここに来たのを見て少し期待したけど】


「!?」


 驚いて振り返った私はその存在を見てなおさら驚いた。


 黒い。闇だけの空間を背景に立っているくせに、不思議なことに区別がついた。強いて例えるなら闇よりも黒い、というか。人間型の存在ということは分かったけれど、黒い霧のようなものに覆われていて詳しい形は見えなかった。


 その存在の声に不機嫌さがにじんでいた。


【自分の努力でここに至ったのじゃないからかな? がっかり極まりないね。期待できない奴だということは知っていたけれど】


「……貴方は誰で突然現れて私の悪口を言うんですか?」


 いくら私でもそんなにいきなりディスられたらかっとなるんだよ。


 でもその存在は鼻で笑うだけだった。


【さぁね、説明してくれる義理はないよ。いや、意味がないというかな。説明してくれるのは構わないけど、やってみても理解できないはずだから】


「とりあえずやってみてください。聞いてみるから」


【嫌だけど?】


「……じゃあなぜ現れたのですか? 私に悪口を言いに?」


【本当に頼りない奴だからアドバイスをしてあげようかと思って】


「お断りします」


 突然現れてわけの分からないことばかり言って私に悪口を言う人のアドバイスなんて。信じられるはずがないじゃん。それにアドバイスならもうお姉様が十分にしてくれているよ。


 でもその存在はまた鼻を鳴らした。


【もう私の助けを借りているのに今さら断る?】


「助け? どういうことか……」


【この状況がどのように触発されたのか忘れた?】


 この状況?


 直前まで模擬戦をしていた。模擬戦のきっかけはお姉様との約束。なぜその約束をするようになった? お姉様と喧嘩して仲直りしたから。喧嘩をした理由は確かに……。


 その瞬間、私はふと悟った。


「貴方……邪毒神ですか? 私に啓示夢をくれたあの?」


【頭が少しは働くね。よかったね】


 私はすぐに姿勢をとった。そして魔力を使おうと思った瞬間、背後にあった魔力の塊から流れ出た力が私の手に集まった。この空間の正体はわからないけれど、これは私の力だからか即刻反応するようだった。


 でも相手は呆れるようにため息をつくだけだった。


【無駄なことで時間を無駄にしないで。そうでなくても貴方が今までやってきた時間の無駄を見るだけでも腹が立ったから】


 もちろん私の力で邪毒神をなんとかすることはできない。そもそもあれが本体でもないだろうし、もし本体なら相手にできるはずがない。でも私に何か変なことをすることくらいは防げるだろう。


 相手はそんな考えをする私をじっと見つめた。そして突然手を一度振った。それだけでも私の手に集まった力が霧散した。


「えっ!?」


【全ての魔を思い通りに扱うべき力を持っていても、せいぜいその程度の掌握力だけだなんて。だから無駄だということよ】


「……しきりに私の悪口ばかり言うなら帰って」


【そんなことはできないよ】


 その存在が手を上げた。そうすると私の力……と思っていた魔力の塊がうごめいた。その中にあった他の色の魔力がその存在の手に飛んでいった。私は驚いてその姿を見た。


【貴方の力、『万魔掌握』は全ての魔を支配する能力。つまり、自然に存在する無属性魔力だけを治める力ではないよ。それをまず理解して、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()に気づいてね】


「他の魔力を……?」


【そう。それを自覚できれば、どう扱うべきかは自然に思い浮かぶよ。この空間に到達したということは、もうすぐその境地まで来たという意味だから。質問ある?】


 私は首を横に振った。すると相手は小さく鼻を鳴らし、また口を開いた。


【いいよ。これくらいでいいでしょ。じゃあ、私は帰って……】


「ちょっと待って」


【何?】


「……名前。貴方の名前は何?」


 別に意味があるわけではなかった。ただアドバイスをしてくれた相手の名前を聞きたかっただけ。……そのアドバイスが効果があるかどうかはテストをしないと。


【さぁね、私の名前は結構多いんだけど。でも、今の私を一番よく表す名前なら……そう】


 相手が笑いを浮かべた……ような気がした。


【『隠された島の主人』。そう呼べばいいよ】

ここまで読んでくださってありがとうございます!

邪毒神の意図が気になる! とか、本格的な対決が見たい! とか、とにかく面白い! とお考えでしたら!

一個だけでもいいから、☆とブックマークをくだされば嬉しいです! 力になります!

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