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隠された島の主人

「お嬢様、今日は何をされるんですか?」


「アカデミーの中で調べたいことがあるの」


 私はロベルと一緒にアカデミーの中を歩いていた。


 今日だけは生徒としてではない。これも厳然と見習い騎士としての現場実習であり、アルギスさんもアカデミーに来ている。今は別に調査をするという名目で個別行動中だけど。


 実はアカデミー内での調査は現場実習の途中で行う必要はないのだけど……アルギスさんと一緒に行動している間に調査を終わらせたいと思った。そこでアルギスさんに頼んだ。


「調べたいこと……その言葉でごまかすのですか」


「あ、そうじゃないわ。どうせ一緒にいるから隠すこともできないし。それに、これは貴方の助けが必要なの」


「僕の助け……何でもおっしゃってください」


 ロベルの目がきらきらと輝いた。


 こいつどうしたの? ……私が直接的に助けを求めるのが嬉しいからかしら? このような姿を見ると、今後はもっと積極的に疎通すべきかしらと思う。


「この前貴方が言ったじゃない? 騎士科の上級生が『隠された島の主人』に対して布教に来てたって」


「その上級生をお探しになるのですか?」


「そう。生徒なら割と口が軽いかもしれないからね。もちろん大した情報はないだろうし、本当にペラペラ話してくれるかは会ってみないと分からないけどね」


「それならちょうどよかったですね。安息領の末端かもしれないと思って、事前に調べておきました」


 やっぱりロベル。最近はロベルに任せる仕事が減って感じられなかったけれど、やっぱり仕事の処理はしっかりしている。


 私はすぐにロベルに案内を頼んだ。すると彼は通信用の魔道具を取り出し、誰かに連絡を取った。


「会う約束を取りました。行きましょう」


「え? どうやって?」


「公爵家の令嬢が会ってほしいと言うと、ほとんどの人は断れないものです」


「……私のイメージが悪くなる方法じゃないの? いや、それより連絡はどうやってしたの?」


「調べておいたと申し上げたじゃないですか。あれこれ調べてみました」


 ロベル、怖い子。いつこうなったの。……私があれこれ頼んでこうなったのかしら?


 とにかく私たちは約束の場所に向かった。ロベルによると、アカデミーの中にあるカフェを場所に決めたという。相手の希望に従ったというが……カフェか。どうせなら人がいない場所がいいのに。


 もしわざわざ人がいそうな所を選んだのかもしれない。布教をするほど心酔していたら、話を他の人にも聞かせたいかもしれないから。布教師たちの心理なんてよく分からないけど。


 考えているうちに約束の場所に着いた。相手はすでに私たちを待っていた。


「遅くなってすみません」


「いいえ、約束の時間はまだですから大丈夫です」


 座るやいなや、私は相手を注意深く観察した。


 私より二つほど年上に見える女子生徒だった。栗色の髪をツインテールに結び、茶色の瞳はやや厳しい印象だった。しかし、表情は何か慎重なようだった。


「お会いできて嬉しいです。テリア・マイティ・オステノヴァです。私より先輩ですわね?」


「お会いできて光栄です。セリカ・アリエンスと申します。学年は私が高いですが、私はあくまで男爵令嬢です」


「実際に爵位を受け継いだ当主でもないし、アカデミーでは同じ生徒であるだけじゃないですか」


 安心させようという意図で笑ってくれただけなのに、なぜかセリカ先輩は少し恥ずかしがるように頭を下げた。一体何だろうか。


「どんなご用件かはお聞きになりましたよね?」


「はい。『隠された島の主人』様のことを知りたいって」


「そうですの。話していただけますの?」


「その前にお聞きしたいです。なぜそれを調べようとするのですか?」


「気になっただけですの。普通の邪毒神や彼らに仕える安息領とは雰囲気がいろいろ違いますよね? どうしてそうなったのか興味がありますわ」


 こう言っておけば、オステノヴァ特有の探究心だと思ってくれるだろう。実際に嘘じゃないしね。


 セリカ先輩は特に疑う様子もなく口を開いた。


「漠然と話せと言われたらちょっと曖昧なんですが……最初にあの御方の名前が広まったきっかけのようなものから始めましょうか?」


「ちょうどいいですわ」


「えっと、それが……始まりはとある方の啓示夢だったそうです。弟が安息領に拉致される夢だったそうです。最初は単純な夢だと思ったけど、その後本当に弟が拉致されて……その次は弟を救う方法を啓示夢で見ました」


「その方法を実行しましたの?」


「はい。本当に夢に出てきた通り弟を救えたそうです。その人が私たちのリーダーです。いわば教主と言えるでしょう。その人だけでなく、初期に合流した同志たちは皆そんな経験をしたそうです。その後は啓示夢を直接授けるよりは同志たちに助けてもらって合流したケースが多いのですが、まだ時々直接啓示夢を授ける時があるそうです」


 この程度だけでも、邪毒神にしてはかなり積極的な介入だ。なかなか驚いたわね。


「『隠された島の主人』の目的が何なのかお分かりますの?」


「そんなはずないですよ。教主なら何かご存知かもしれませんが、私のような一般信徒は知りません。そもそも『隠された島の主人』様は明確な目標を掲げたことがないと言われています。ただ……」


「ただ?」


 セリカ先輩はどういうわけか言葉を濁した。しかし、私の目を眺めて再び口を開いた。


「〝安息領は人類の敵だ〟。このメッセージだけは繰り返されています。特に啓示夢を見る場合は必ずこのメッセージを一度以上聞くそうです」


 前に起きたという事件もそうだし、結構安息領を敵視してるらしいわね。


 ありそうなことではある。邪毒神だからといって、みんなが安息領に友好的なわけではないから。しかし、安息領を積極的に敵対して攻撃する邪毒神は初めてだ。


 重要なことは、本当の目的は何なのかということだ。安息領を敵視したからといって、人々の味方と信じるのは危険だ。助けてくれたというのも人情を得るためのショーかもしれないし。


 どうやらもう少し調べることがあるらしいわね。

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