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万魔掌握

「アルカ」


 私を呼ぶ声に振り返った。


 私を呼んだのはリディアお姉さんだった。そして隣にはジェフィスお兄さんもいた。二人とも私が呼び出したところだった。多分突然だったのに、全然気にしていないようでありがたい。


「どういうことで呼んだの?」


「修練をしたいからです」


「いきなり?」


 リディアお姉さんがあんな風に言うのも理解できる。お姉様ならともかく、私がこんな風に人を呼び出したことはなかったから。


 お姉様に一ヶ月間変わると豪語したけど、実はどうすればいいのか全然考えていなかった。ただ勢いで推し進めただけ。強くなるためには修練が一番だけど、そもそも私が普段修練をしなかったわけでもない。むしろお姉様と一緒に一生懸命努力する方だったから。


 そんな私が今さら強くなると言っても……正直、方法がわからない。


「急に強くなる必要が出てしまったんですよ」


「何?」


 私はお姉様とのやり取りをリディアお姉さんとジェフィスお兄さんに話した。最近、お姉様と私が喧嘩して雰囲気が冷たかったのは二人も知っていたので、説明を長くする必要はなかった。


 リディアお姉さんは話を聞くやいなや眉をひそめた。


「それはまた……貴方たちらしいわね。まったく二人とも意地が強いんだから」


「ごめんなさい」


「リディアに謝ることじゃないんじゃない? ……まぁとにかく、結局お互いに納得して妥協したようだから、過去のことは考えないようにしよう。そのために一ヶ月間強くならなきゃならないということだよね?」


「はい。いい方法があるのでしょうか?」


「わからないわね。リディアは一般的な修練以外はしたことがなくて」


 ……さすがリディアお姉さんだ。


 そういえばお姉様が話したことがあったよね。リディアお姉さんは天賦の才能を持った天才だと。むしろそんな天才なので、師匠や見本では役に立たないと言っていた。今がちょうどその状況だね。


 一方、ジェフィスお兄さんは唇に手を当ててしばらく考え込んでいた。そうするうちに突然口を開いた。


「君の力……特性のことをよく考えてみろって、テリアがそう言ったんだよね?」


「はい。でも私の能力のことはある程度理解しているのですけど……」


 当初、私の『万魔掌握』の特徴と活用法を教えてくれた人がお姉様だった。おかげさまで私が生徒にしてはとても強いという自覚はあるけれど……お姉様のトレーニングについていくのに必死だっただけで、修練に余裕なんてなかった。そんな私が本当に変わることができるのかな。


 ジェフィスお兄さんは再び何かを考えて話した。


「確信はないが……テリアが言いたいことが何か少し分かる気がするよ」


「本当ですか!?」


 その言葉に私は思わず目を輝かせながらジェフィスお兄さんに飛びついた。


 さすが〝フィリスノヴァらしくない後継者ランキング一位〟のジェフィスお兄さんらしいね。まさかお姉様といつも一緒に過ごす私も知らないことを知っているなんて。初めて会った時から有能に見えたよ。


 一方、ジェフィスお兄さんは少し慌てた様子で私を押し出した。もちろんその手そのものは柔らかくて丁寧だったけれども。それより顔が少し赤くなったみたいだけど、どうしたのかな? リディアお姉さんはジェピスお兄さんのわき腹をつついていて。


「まったく愚か者だってば」


「うるさい、僕には他の人が……」


 何を言っているのかは分からないけど、とにかく今私が気にしているのはそういうことじゃない!


「それで? 本当にお姉様の意図がわかりますか?」


「早目だよ。確信もないし。ただ……始祖オステノヴァ様の話は知っているよね?」


「もちろんです」


 我が家の始祖だから。


「……とりあえず聞くんだけど、君の特性が『万魔掌握』だって本当かい?」


「はい。お姉様がそう言ったんですよ」


 私は確信を持って頷いた。お姉様がそんなことで嘘をつくはずがないから。ただし、それとは別に……ジェフィスお兄さんの言葉が気になった。


 我が家の始祖と私の特性。急にその話を切り出したということは、何か始祖に関する話をしようということじゃないかな?


『万魔掌握』はもともと始祖の特性だった。そしてその始祖は五人の勇者のリーダーとして数多くの逸話を残した。当然、その御方の能力についても。そんな始祖の最大の特徴、それは私と同じく『万魔掌握』の無限の魔力だけど……。


「あ!」


「思い出したようだね」


「うん? 何? リディアにも教えて」


 ジェフィスお兄さんは微笑み、リディアお姉さんは眉をひそめた。……そうしていても可愛いだけだけど。ごめんなさい、リディアお姉さん。


 始祖に対する情報が頭の中でグルグル回っている私に代わって、ジェフィスお兄さんが説明を始めた。


「五人の勇者、その中でもリーダーの始祖オステノヴァ様の伝説を考えて」


「無限の魔力と全能の可能性を持った至高の勇者じゃない。その御方に不可能なことはなかったって。……〝全能の可能性〟?」


「フフ、君もなかなかだね」


 全能の可能性――その言葉が意味するのは()()()()()()()()()()()()ということ。


 私の『万魔掌握』はただ周りの魔力を自分のものとして使うだけ。この世界に魔力が枯渇しない限り無限の魔力量を誇るけれど、特性のない白光技として使うだけだ。


 しかし、伝説の始祖が使用したのは白光技だけではなかった。夏を揉み消す冷気、冬を和らげる熱気、人を治す奇跡の手、植物を育てる生命の力……。


 ……もしそれが『万魔掌握』と関係があるのなら?


「もちろん五人の勇者の伝説には不明な部分も多いよ。どれだけ信じればいいかは分からない。しかし、テリアが言ったことが特性の真の力を悟れという意味なら、もし始祖のその能力を指したのかもしれないと思う」


 ジェフィスお兄さんの言う通り、確信するほどの情報ではない。しかし……どうせ単純な修練では道がよく見えないのも事実だ。


 それなら……その伝説に希望をかけてみるのも、悪くないかもしれない。

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