アルカの接近
ケイン王子の視察が終わり、二週間が過ぎた。
視察での仕事は早くも有名になった。この世界にも前世の新聞と似たようなニュースメディアがある。そこに視察のことが大きく載せられたのだ。さらに、その村の住民のインタビュー中に私が言及された部分まであって、アカデミーの生徒たちが私を見る視線がかなり熱を帯びている。
……こうなると思ってわざと名前を教えてくれなかったのに。
もちろん入学の時から私は自分の顔と名前をアカデミーの中に広めるのが目標だった。でも今のこれは注目が多すぎるのよ。
しかし、今私が憂鬱なのはそのためじゃない。
「はぁ……」
「お嬢様?」
思わずため息をつくと、隣に座っていたロベルが声をかけてきた。私は何でもないという意味を込めて笑って見せたけれど、その瞬間ロベルの向こうにいたアルカと目が合った。
「「ふん」」
私とアルカは同時に鼻であしらいながら顔を背けた。
「……お嬢様たち。間に挟まった僕の立場もお考えください」
「「そんな余裕ないよ」」
まるで事前に計画したように声と言葉が重なった。その言葉に込められた冷淡な感情までも。
あえていちいち説明する必要もないだろう。今私とアルカはこんな空気だった。それも一週間以上。それが私が憂鬱な最大の理由だった。
一体どうしてこんなことになったんだろう……。いや、理由や過程はもちろん知っているけど。
私はまたため息をつきながら〝あの日〟のことを思い出した。
ケイン王子の視察が終わって数日後、寮の私の部屋。アルカはベッドに横になって本を読んでいた私に話しかけた。
「お姉様、視察の時にお腹にすごく大きな傷を負いましたよね?」
「……え?」
私は心から驚いた。
傷を、それも腹部の半分以上が吹き飛ばされて脊椎まで届くほどの傷を負ったことをアルカが知っていたら、明らかに大騒ぎになる。そう思って私は魔力を注ぎ込んでなんとか帰還前に再生を終え、服も直した。そして私がどんな傷を負ったのかは秘密にしてほしいと必死にみんなを説得した。
確かにみんなが秘密を守ってくれると言ったのに、いったいどこから漏れたの!?
私はできるだけ平静を装って口を開いた。
「どういうこと?」
「……違いますか?」
アルカはよくわからないという顔で首をかしげた。何か確信がないような顔だった。
何だろう。言葉が漏れたんじゃないかしら?
でもお腹という身体部位を正確に言及したのが気になる。単純に私が戦いで怪我をしたかもしれないという心配なら大丈夫だけど、それなら身体部位を正確に指摘することはなかったはずだから。
でも、いざアルカも確信はないようで……どうしたんだろう?
私がそう思っている間、アルカは少し笑って後ろ髪を掻いた。
「あはは……こめんなさい。変な夢を見てしまって。ただの悪夢だったようです」
「夢? どんな夢だったの?」
正直、それは本当に何の考えもない質問だった。夢というものに真剣にしがみつく気など、微塵もなかった。
アルカの返事を聞かなかったら、ね。
「えっと……お姉様が怪我をする姿をたくさん見ました。そして何か変なことも……邪毒でバケモノに変わったお姉様と私が戦うこととか。浄化能力者のお姉様が邪毒にやられるわけもないのに。変ですよね? でも同じ夢を何日間も見ていて……」
「……え?」
それを聞いた瞬間、私はまるで冷たい水を頭から浴びせられたかのような錯覚に襲われた。
視察でお腹に怪我をした。それを正確に言及したのを見れば、夢で見たという私の負傷の中にそれもあったということだろう。しかし、それがなぜアルカの夢に出てきたのかが理解できない。
それに何よりも、邪毒でバケモノになった私とアルカの戦いだなんて。まるで『バルセイ』で描写された私の姿みたいじゃない。
詳しい説明はまだ聞いていないので、実際にどんな夢だったかはまだ分からない。しかし、アルカが言ったキーワードだけを見ると、すごく怪しい。それに同じ夢を何日もずっと見ているなんて。
でも原因はわからない。アルカに遠いところで起こったことを見通す能力なんて今はないのに。しかもゲームのシーンはこの世界では実際に起きてもいないことであり、時間を考えてみてもそのシーンは未来のことだ。
【前にも似たようなものがなかったの?】
私はイシリンの話を聞いてすっかり気がついた。
そういえば、三年前のリディアもそうだった。ディオスとの決闘の日に見た夢がゲームのシーンだった。
結局、それも原因や経緯をきちんと解明できなかった。その上、それ以来一度も同じことが発生したことがなかった。当然だけどこんな具合なら調査もできない。
アルカの夢のことをもう少し詳しく聞くと……。
「……ま、お姉様! どうしましたか?」
アルカの声に私はすっかり気がついた。
「う、うん? どうしたの?」
「お姉様こそどうしたんですか? 急に口をつぐんで……」
「ごめんね、ちょっと何かを考えてたの」
そう答えるとアルカは怪しがる眼差しをした。
「……本当に怪我をされたんですか?」
「そ、そんなはずないじゃない。急にどうしたの?」
「お姉様の態度が怪しいですので。視察の時何かありましたか?」
「戦いがあったからちょっとした怪我くらいはあったの。それだけよ」
「ちょっとした怪我はどれくらいですか? どこを怪我したんですか?」
しつこい!?
うぅ、しまった。アルカの奴、こうなると簡単に諦めてくれないのに。
「そんなに気になるほどでもなかったからよく分からないわ」
「……それ本当ですか?」
「ええ。本当だってば」
「それでは他のことを聞いてみます。四年前……お姉様が新入生だった時、アカデミーで事件が起きましたよね?」
背筋に冷や汗が流れる。
アルカが言ったのは安息領のアカデミー襲撃事件だろう。その事件自体はアカデミーの中で有名で、私が中央講堂から生徒を救出した話もよく知られている。
しかし、私がミッドレースアルファ・プロトタイプと戦ったのはごく一部だけが知っている。当然、あの時ひどく怪我をしたのも。
アルカは依然として私を疑う目でまた口を開いた。