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第53話 赤々と映し出される影絵

 しばしポカンと開け放たれた扉を見ていた私たちだったが、やがて我に返り立ち上がった。

「大変! すぐにディーンを追わなきゃ!! コリン!!」

「何なの?」

「コリンの足なら、今からでもディーンを見失わずについて行けるでしょう? すぐ後を追って! 私たちの誘導をお願い!!」

「任せてなの!」

 言うが早いか、コリンも弾丸のように扉から飛び出していく。

 私は側にあったリュックを抱えた。

「レオポルド、私たちも続こう! 連れてって」

「わかった」

 レオポルドが慣れた手つきで私を姫抱っこする。

 これからどんな衝撃が我が身に襲い掛かるかは十分理解していたが、構っていられなかった。

 私はレオポルドの首に腕を回し、体を密着させる。

 その首筋からヒノキの様な香りが、ふわりと漂って来た。

「お願い」

 私を抱き上げる逞しい腕に、力がこもる。

「行くぞ、アリス」

 ドッという撃ち出される衝撃と共に、私の意識が一瞬飛んだ。



 少し経つと慣性が働き、そこまでのショックは感じないようになった。

(わ……)

 周りの景色がどんどんと後方へ流れていく。

 見上げれば、まっすぐに前を見る翠がかった金色の瞳。

 あおりアングルで見る、レオポルドの顎から首にかけてのラインはとても艶めかしかった。

「レオポルド、蜥蜴型魔獣(ザーリッド)ってどれくらいの大きさなの?」

「自分が魔獣だった時より、やや小さいぐらいだ」

(結構大きいな……)

 (クバル)豹型魔獣(・フェテラン)だった時のレオポルドは、象くらいの大きさはあった。


「アリス」

「何、レオポルド」

 これだけの速度で走りながらも、レオポルドの息が上がる様子はない。

「行って、何をする気だ」

「……」

蜥蜴型魔獣(ザーリッド)を逃がすわけにはいかない、かといって仕留めれば、責められるのはこちらなのだろう」

「そう、だね」

「なら、どうする?」

「……まずはディーンを止める」

 レオポルドが黙る。

 そうだ、ディーンを止めるというのは、蜥蜴型魔獣(ザーリッド)をこの世に留め、残虐な興行を継続させるということに繋がる。

 パティの語った(むご)たらしい行為を、容認することとなってしまう。

(どうしたら……)


 前方に目を向ければ、先を行くコリンの白い頭が、暗闇の中うっすらと見えている。

 私たちを導く蛍の光のようだと思った。

「うん? 赤いな」

「赤い?」

 レオポルドの視線の先を追うが、生憎私には何も見えない。

 耳のすぐ側で、レオポルドが低く唸るのが聞こえた。

「燃えている。血のにおいもする」

(えっ!?)




 目的地に到着した時、私たちの目に映ったのは、街のはずれの空き地で燃えているテントだった。

「アリス、こっちなの!」

「アリス、来てくれたんか!」

「コリン! パティ! ディーンは?」

 パティが燃えさかるテントを指差す。

「あん中や」

「えっ!? まさかあの火事、ディーンの仕業なの!?」

「ちゃう。ウチらが到着した時は既に、中で蜥蜴型魔獣(ザーリッド)が拘束を解いて興行主に襲い掛かっとったんや。で、ディーンが蜥蜴型魔獣(ザーリッド)に飛び掛かって、その隙に逃げようとした興行主がランプを倒してこのざまや」

 ふと目を移せば、太った中年男がせり出した腹を天に向け、テントの側で気を失っている。

(この人が残虐ショーを繰り広げていた興行主?)

 鋭い爪でやられたのだろう。

 額から頬にかけてざっくりと切り裂かれ、そこからおびただしい血を流していた。



 内側から赤々と照らされるテントの中で、蜥蜴型魔獣(ザーリッド)に飛び掛かるディーンのシルエットが浮かんで見える。激しい戦闘の様子が、まるで影絵のように映し出されていた。

 辺りに人の姿はない。

 魔獣が拘束を解いて暴れているということで、皆、建物内に避難したのだろう。

 扉も固く閉められているようだ。

「オラ! 来いよ! どこ狙ってんだ? (おっせ)ぇんだよ!」

(ディーン!)

 げらげらと相手を煽る、ディーンの笑い声が中から聞こえる。

 彼は本当に、戦うことを楽しんでいるようだった。


 だが次の瞬間、蜥蜴型魔獣(ザーリッド)の影が高々と手を振り上げる。

 それがディーンの頭部を抉るように動いたと思うと、ディーンのシルエットは弾き飛ばされ、影絵の奥へ沈んだ。

「ディーン!!」

 蜥蜴型魔獣(ザーリッド)の影は,ディーンが倒れたであろう場所へとのしのし近づいていく。

「だめ!」

 私がテントへ駈け込もうとすると、大きな手が私の手首を捕らえた。

「アリス、危険だ」

「でも、ディーンが!」

「ボクとレオポルドが行くなの! アリスはここで待ってるなの!」

 そう言ったかと思うと、二人は燃え盛るテントの中へと飛び込んでいった。

(ディーン、みんな……!)

「パティ! これ持ってて!」

 私はリュックをパティに押し付ける。

「どこ行く気や、アリス!」

 パティの言葉に答えず、私はテントの裏手へ回った。


 私はディーンが弾き飛ばされたと思しき場所へ回りこみ、テントの布を持ち上げる。

 そこにはディーンが薄目を開けて転がっていた。

 浅い呼吸を繰り返しながら。

(あ……!)

 額の魔石(ケントル)に目を移し、ぎょっとなる。

 魔獣の弱点であるその部分に、微かにひびが入っているのが見て取れた。

「ディーン! ディーン!!」


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