第50話 偶然でなく想いを込めて
私を乗せたまま、犬型魔獣はスピードを上げる。
レオポルドとコリンの姿がぐんぐん遠のいていく。
(嘘でしょ!? コリンが追いつけない!?)
人間離れした身体能力を持つ魔獣人たちだが、人型になった分、魔獣の時よりも弱体化してしまうのだろうか。
やがて二人の姿は私の視界から消えてしまった。
(『他の仲間と合流したら危ない』……)
コリンの言葉を思い出し、ぞっと身を震わせる。
もしも他の犬型魔獣のいる場所に辿り着けば、私の体は四方八方からズタズタにされてしまうかもしれない。
かといって今更この犬型魔獣から降りれば、ケモ達の助けがない状況下で、近しい運命を辿るだろう。
(となれば、今の私にできることは一つ!)
振り落とされぬよう片手でしっかりしがみついたまま、もう片方の手で慎重にレンガ色の獣毛をかき分ける。
(お願い!!)
レオポルドやコリンの時に起きた現象が偶然ではないことを祈りつつ、私は蜂蜜色の石へ唇を落とした。
刹那、犬型魔獣はビクリと身を震わせる。
そしてその身は白色の光に包まれた。
(よし!)
私を乗せていた体が、急激にそのサイズを減らす。
転がり落ちた私は、近くの樹へ背を預ける。
光の中に、人に似た姿が浮かび上がるのが見えた。
「アリス!」
「アリス、どこなの!?」
茂みの向こうから、二つの声が聞こえてきた。
「レオポルド、コリン、ここだよ!」
私の声に応じて、すぐさま二つの足音が近づいてくる。
「アリス、無事で良かっ……」
駆け付けて来たレオポルドが、私から少し離れた場所に座る少年に気付く。
「アリス、その少年はもしや……」
「へへ~」
レオポルドの視線の先にいるのは、犬型魔獣の頭部を持つ、赤茶色の獣毛に覆われた少年だった。
生命力に満ちた双眸は、額の石と同じ蜂蜜色をしている。
年齢的なイメージは高校生くらいだろうか。
むくれたようにそっぽを向き、私たちと目を合わせようとしない。
「キミ、名前はなんなの?」
「……」
「聞こえんのか。名を問うている」
「……」
「お前も我らの仲間と思っていいのだな?」
「仲間なんかじゃねーよ、チッ」
ようやく口を開いたと思ったら、犬型魔獣の少年は聞こえよがしに舌打ちした。
「ざっけんな! オレをこんな、わけわかんねぇ姿にしやがってよ!」
「アリス、これは……」
「えぇとね、名前はディーン」
これまで通り、『けもめん』に登場するキャラの名を彼に与える。
「新しい仲間だよ」
「今、本人が否定したなの」
「あー……」
原作がツンデレキャラだったからだろうか。
ちょっぴり扱いにくそうな子になってしまったようだ。
(でも、魔石にキスすれば魔獣人化するということで、もう間違いないよね)
偶然に唇の当たったレオポルドやコリンの時と違い、今回は私の意思で魔石にくちづけをした。
その結果、現れたのがディーンだ。
(よしっ!)
私は心の中で、ガッツポーズをした。
(夢のケモハーレム、夢じゃなくなったかも!!)




