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第43話 言い値で買いたいヲタク魂

 数日後、私たちの店は無事オープンした。

 店の名前は「食事処『けもめん』」。

 勿論、私の愛するあのソーシャルゲームから名前を拝借している。

 異世界に来てしまっているので、商標登録だのなんだので揉めることはないだろう。

 この店名を付けた瞬間、ここは間違いなく私の居場所となった。



「ぎゃーっ! 二人とも、最っっっ高!!」

 私は店員のいでたちとなったケモ達に、奇声を上げる。

「アリス、ボク、似合ってるなの? 可愛いなの? アリス嬉しいなの?」

 コリンは軽やかな足取りでくるりとターンして見せ、小首をかしげウィンクをする。

「似合ってる! ぎゃんわいぃい!! 嬉しい!! ハァハァ、抱きしめてもいい? ぎゅーっ!!」

「えへへっ、嬉しいなの!!」

「……」

「はい、レオポルドも!! ぎゅーっ!!」

「あ、いえ、自分は……」

 レオポルドは、わずかに躊躇の姿勢を見せたものの、すぐにおずおずと両手をこちらへ差し出した。

「どうぞ」

「きゃーっ!」

 私はレオポルドに勢いよく飛びつき、背中をへし折らんばかりの勢いで締め上げる。

「ぐっふ!」

 テンションが上がりすぎて、完全に理性が飛んでいた。



 ゲーム『けもめん』のカフェイベントの限定衣装そっくりの服一式は、パティが用意してくれた。

 二人揃って、白いシャツに黒のぴったりしたパンツ姿。そしてエプロンの色は、レオポルドが茶色で、コリンが濃紺だ。

「ありがてぇ!! 限定衣装、リアルで降臨!! やばい、心臓の動きが限界に!! ハァハァ、呼吸が! 呼吸が死ぬ!! 命助かる!!」

「死ぬんか生きるんか、どっちやねん」

「この幸せの絶頂で死んでもいい!! でも、あと千年見ていたい!!」

「さよか。ほんでな、前にアリス言うてたやん?」

 パティは伺うような目線を、ちらりとレオポルドの指先に向ける。

「その、二人の服代をな? アリス、アンタが()ろてくれるって……」

「言い値で買います!! おいくら万カヘでしょうか!?」

「怖いわ! そんなにいらんわ!! 8000カヘや」

「そんな値段でこの二人のこの姿が見られたの!? 三万円つぎ込んでもガチャで来てくれる保証なかったのに!? 実質タダじゃない!?」

「何の話や」

「パティ様! どうぞ、お納めください!!」

 私は深々とお辞儀をしつつ、言われた金額を頭上に掲げる。

「お、おぅ」

 声に怯えが混じっていたようだが、気にしないことにする。



「なんだここ、新しい店か?」

 扉が開き、魔石(ケントル)ハンターと思しきパーティーが入ってきた。

「いらっしゃいませ! お好きなお席にどうぞ」

 物珍し気に辺りを見回しながらパーティーはテーブルに向かう。しかし、レオポルドたちの姿が目に入った瞬間、ぎくりと足を止めた。

「ま、魔獣!?」

兎型魔獣(ラティブ)に……(クバル)豹型魔獣(・フェテラン)!?」

 ガタガタと椅子を鳴らしながら後ずさり、彼らは強張った顔つきで武器を構えた。

(あ……)

 なんて説明しよう。

 レオポルドたちにどうフォローを入れよう。

 そんなことを思いつつ、双方を見比べていた時だった。

 客の一人が、喉に引っ掛かったような笑い声をあげた。

「って、魔獣が二本足で立ってるわけねぇよな、は、はは……。なんだよ、ソレ、悪趣味な仮面だな」

(仮面?)

「えーっと、彼らは……」


 仮面ではないと言おうとした私を押しのけ、パティが進み出た。

「あっははは! どないです? ちょい刺激的でっしゃろ?」

 パティは明るく笑いながら、客たちへウィンクする。

「ウチはこういう趣向で行かせてもろてる店ですねん!」

「おいおいおい、いくら何でも趣味が……」

「それにしても、お客さんら度胸据わってますなぁ。先に来たお客さんなんて、一目見た瞬間悲鳴上げて速攻逃げ出しましてな?」

(え?)

 先の客などいない。彼らがお客様第一号だ。

 パティはいけしゃあしゃあと言葉を続ける。

「それに比べて、お客さんらは魔獣の種類まで特定できるほど落ち着いてはる。さすがやり手のハンターさんは違いますなぁ! もー、めっちゃカッコいい!」

「は、はは。まぁな?」

 魔石(ケントル)ハンターたちは徐々に落ち着きを取り戻し、顔には血の気が戻ってきた。

「ここは、魔獣たちがハンターの皆さんに給仕をする店ですねん」

「なるほど……、確かにそれは面白いな」

「でっしゃろ? さぁ、お席にどうぞ! コリン、注文取ってきて!」

「分かったなの!」


 キッチンへと戻ってきたパティに私は駆け寄る。

「ちょっと、パティ! 仮面って……」

「今はこれでえぇとしよう」

「でも」

「いきなりは無理や。でも、仮面ってことにすれば」

 パティは客席を顎で示す。

「この、『豚の生姜焼き(ブタノショーガヤキ)』って?」

「コプルのギーグリム焼きなの!」

「じゃ、じゃあ俺はそれにする」

 魔石(ケントル)ハンターたちの顔には、まだ怯えが残ってはいたが、コリンと話が出来ている。

「あぁやって会話も可能や。人として言葉が通じる相手と分かれば、そのうちなんとかなるはずや」

「でも仮面だなんて、嘘を」

「ん? ウチは一言も『仮面です』なんて言うてへんで? あいつらが勝手に勘違いしただけや」

 パティが歯を見せて笑った。

「アリス、注文なの!」

 コリンがオーダーを読み上げる。

「豚の生姜焼きが二つと、鶏塩鍋が一つと親子丼が一つなの」

「分かった」


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