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第42話 一触即発アリス争奪戦

「はー、お腹ぱんぱんや」

 試食係だったパティが、隣のベッドに大の字で転がっている。


 階段を上がって一番奥にあるこの部屋を、私はパティと共に使うこととなった。

 この階にある部屋は4つ。

 かつては、宿屋として使っていたのだろう。

 小ぢんまりとした造りのため、それぞれの部屋に入れられるベッドは二つまで。

 ベッドの枠は十分使えるものであったが、マットは完全に劣化し、シーツは黄ばみ砂にまみれたようにザラザラだったらしい。

 パティは、この家を購入した時点でそれを確認し、人数分の寝具を注文しておいてくれた。抜け目がない。


「レオら、アリスの料理に喜んどったなぁ」

「そうだね」


 パティに言われた後、私は何とか10種類の料理を作り続けた。

 パティに試食させ、味を確認してもらった後の残りは、レオポルドやコリンにバトンタッチした。

 彼らは満腹というものがないのか、渡せば渡しただけ全て食べ尽くしてくれた。


「いけると思うで」

「何が?」

「この店や。アンタの作るもんは、珍しいし確かに美味い」

「良かった」

「おん。それにしても静かやな」

 パティはレオポルドたちがいるはずの隣室の方を見る。

 壁の向こうは静まり返っていた。

「さっきまで、アリス巡って大立ち回りしそうな雰囲気やったのに」

(あはは……)

 そうなのだ。



 部屋割りを決める際、彼らは二人して私と同室がいいと主張し、互いに一歩も譲らなかった。

「やはりアリスの側に侍るのは、自分がいいだろう」

 レオポルドが私の側に立つと肩を抱き、やや強引に引き寄せた。

(びゃあ!?)

 頬が暖かな胸に押し付けられる。肩に触れる大きな手を、つい意識してしまう。

「アリスと過ごした時間は自分の方が長い。この役割は、自分が担うべきだ」

「そんなのずるいの!」

 コリンは私の腕に自分の腕を絡め、レオポルドからもぎ取る。

(おふっ!?)

「ボクだってアリスの側にいたいの。アリスが寒い時は、ボクのもふもふでぬくぬくしてあげるの!」

(モフモフでぬくぬく!?)

「ならばやはり、それは自分の役目だ」

 レオポルドが私を背中からガッチリかき抱く。

「自分の方が、体が大きい。アリスの全身をこの身でもって包んでやれる」

(体で全身を包む!?)

「ボクならアリスが誰から夜襲を受けても、この足で蹴り殺してやれるの!」

(物騒なこと言った!)

「自分も誰であろうと、アリスに害なす者全て、この爪で引き裂いてやれるが?」

(ぎゃあ、兵器の戦闘本能!?)

「なら、勝った方がアリスと同じ部屋なの!」

 コリンからあどけなさが消え、戦う意欲剥き出しの獣の(つら)《つら》となった。

「レオポルド、真剣勝負なの!」

「いいだろう」

 レオポルドも全身から、触れるだけで切れそうな闘気を纏う。

「受けて立つ!」

(受けて立たないでー!)

 部屋ごと破壊されかねない一触即発の様相。

 どちらを選んでも禍根が残りそうな雰囲気。

「あ、あのさ、二人とも……」

 私はパティとの同室を宣言し、何とか場を収めた。



「あん時は、終わった、(おも)たで」

 パティがハイライトの消えた遠い目をしている。

「アリスがウチを同室に選んだ時の、二人のウチを見る目つき。完全に死刑執行人やったからな」

 昼の間に、仲間だから手を出すなと言っておいてよかった。

「部屋はまだ二つあるし、魔獣人の仲間増やせると思たけど……」

「やった!」

(次は誰にしよう)

 頭の中に『けもめん』のキャラたちが一斉にあふれ出す。

(あの子もいいな。この子もお気に入りだったんだよな)

「けど、これ以上増やしたら面倒なことになりそうやから、やめたほうがえぇかもしれんな」

「なんで!?」

「なんでやないわ。たった二人でさえ、アリス巡ってあのザマやで? 人数増えたら増えただけ、争奪戦が激化するやろ。アンタ、全員に平等に十分にフォローできるんか?」

(ぐっ)

 どこかの国の、「複数の妻を娶ることは許されるが、愛も待遇も品も全員平等にしなくてはならない」というルールを思い出す。

「一人に偏ったらアカンで。贔屓はどんなイザコザを生むか分からん。全員平等にエエ顔しときや」

 あ、なんかこれ知ってる。●●サーの姫ってやつだ。

 迂闊なことすると、サークルクラッシャー、略してサークラと言われるやつだ。

(でも、どうしても最推しのレオポルドに肩入れしちゃうんだよなぁ。気を付けよう)


「まぁ、しばらくは酔いつぶれた客に部屋貸して、宿代を取るのがえぇかもな」

 パティは既に頭の中のそろばんをはじいているようだった。

(外から見た時は、ただボロくてちっちゃい建物と思ったけど)

 今日一日掃除をしてみたところ、造りは頑丈だし、動線も悪くないように思えた。

 あれっぽっちの軍資金でこの物件を見つけてきたパティは、やはり取引上手なのかもしれない。



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