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第36話 課金三万円分の未練

 金の瞳に憂いが滲む。

「本当にそっくりなのだな、それは自分と」

「うん、だよね。私もレオポルドがその姿になった時、びっくりしちゃった」

似姿(にすがた)に過ぎない自分だが、アリスに危険が及ばぬよう、今後も常に側に(はべ)ろう」

(『似姿』……)

「本物が出来ぬことは、代わりに自分が全て担おう。アリスの悲しみを受けとめ、アリスの笑顔のために尽力しよう」

「レオポルド……」

「だから自分を頼れ。アリス、貴女を守るのは目の前にいるこのレオポルドだ。そして貴女の願いを叶えるのも。たとえ貴女の心にあるのが、そちらの『レオポルド』だとしても」

(本物……、代わり……)

 私はレオポルドの肩へ頭をもたせかける。

「寂しいこと言わないでよ。最初から、私を魔獣から守ってくれたのはレオポルド、あなたでしょう?」

「アリス」

「このレオポルドのことは」

 私は手の中のストラップを、彼に見せる。

「勿論好きだよ、最推しだし。今も心の支えで、元の世界と私を繋ぐ大切なお守り。だけど……」

 ラバーストラップをポケットへ押し込む。

「私は、これまで自分を守ってくれたレオポルドがどちらのレオポルドか、ちゃんとわかってるよ」

「アリス」

 レオポルドは愁いを帯びた視線を逸らした。

「……自分は、兵器だ。人間じゃない」

「そんなこと言ったら・・・・・・」

『けもめん』のレオポルドだって、JPEG(ジェイペグ)WAB(ウェブ)なんかのデータになってしまう。

「同じだよ、あっちのレオポルドも人間じゃなかった」

「そうなのか?」

「うん」

「人間じゃなくとも、良かったのか?」

「うん」

 レオポルドの頬へそっと手を添え、やや強引にこちらを向かせる。

「似姿なんて、寂しいこと言わないでよ。私にとっては、あなたもかけがえのないレオポルドで、身代わりなんかじゃない。それにきっと今は……」

 私はレオポルドの喉元をそっと指先でくすぐった。

「あなたの存在の方が、私の中では大きい」

「アリス……」

 レオポルドの顔が迫る。額に暖かな吐息を感じると同時に、そこへ唇を落とされた。

(ふぁ、デコちゅー!?)

 頬がカッと燃える。

「気を遣わせてしまった、すまない」

「イエ、ドウイタシマシテ」

 激しく高鳴る心臓の音は、間違いなく彼の耳に届いているだろう。

 レオポルドは優しく目を細め、続けて照れたように月へと視線を向ける。

 うっすらと銀の斑紋の浮かぶ漆黒の横顔を、美しいと、愛しいと思った。


「あー、でもやっぱり、未練が全くないわけじゃないんだよね」

「ん?」

「エプロンを着たゲームのレオポルドと、カフェイベントを走るの、かなり楽しみにしてたから。そのために、今回は奮発して課金もしてたんだよね」

「カフェ……」

「こちらでは『金の穂亭』みたいな感じになるのかな。あ、そうだ。あの限定衣装にそっくりな服、パティが持ってないかな? 今なら懐もあったかいから買えるし、それをレオポルドに着てもらったら、この未練も断ち切れるかも! 白いシャツと茶色のエプロンに、黒いパンツ履いて……」

 ちょっとした軽口のつもりだった。

 だがレオポルドは、すっくと立ち上がる。私を両腕に抱いたまま、枝の上で。

「レオポルド?」

「それがアリスの望みなのだな」

「望み、って。うん」

 レオポルドが。ひらりと闇の中へと身を躍らせた。

「~~~~っっ!?」

 フリーフォールだ。

 声も出せないまま、私はレオポルドの腕に抱かれ降下した。


「おかえ……生きとるか、アリス?」

 意識を取り戻した時、私は宿の一室にいた。

「……かろうじて」

 どうやらレオポルドの腕に抱かれたまま、気絶していたようだ。

「何があったんや。死人みたいになっとんで」

「アリス、顔色まっ白なの! ベッドに寝かせるなの!」

 ふわりとした浮遊感に続き、背に柔らかい布団が触れる。

「……足が、ついた。地面だ……、良かった……」

「ほんま、何やねん。さっきみたいにジメッとはしとらんけど、カッサカサやな」

「パティ」

 レオポルドが、ずいと彼女に迫る。

「なんや、怖い顔して」

「この体に合う、白いシャツと茶色のエプロンを持っていないか」

「……あるけど?」

「売ってくれ」

「て、言うてるけど。アリス、()ろてくれるん?」

 パティが、まだ呆然自失となったままの私を見る。私がコクリと頷くと、彼女は荷物から指定の品を取り出した。

「今、手元にあるんはこれだけや。デザインが気に入らんかったらまた後日仕入れ……」

「感謝する」

 言ったかと思うと、レオポルドは躊躇なくパーカーを脱ぎ捨てた。



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