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第18話 想いを注がれて

「おう、パティじゃないか」

 広場で店を広げているパティに声をかけてきたのは、『金の穂亭』のマスターだった。

「今日は一人かい。いつもの二人はどうした」

「マスターからの依頼を片すため、今ごろユール平原かホドナの森や」

「ははは、あんたんトコは受けた依頼を確実にこなしてくれるから、ありがたいよ」

「ホンマか! せやったらそろそろ報酬に色付けてくれんかな?」

「そう来たか。うん、そろそろ上げてやってもいい頃合いだ」

「よっしゃ、頼むで! 今のままやと、マイナスの方がデカいねん」

「あの大男が食うからなぁ」

「それや」

「はっはっは。まぁ、ウチとしちゃあ依頼はきちっとやってくれる、大量に食ってこっちを儲けさせてくれるで、ありがたい存在だが」

「笑いごっちゃないわぃ」

「しかし守銭奴のパティにしては珍しいな」

「おん? ケンカ売っとる?」

「ははは、すまない。ただお前さんは、収支マイナスになるような人間とはつるむまん主義だろう? これまでなら、儲けにならん相手と判断した時点で、すぐさま手を切っていた。それがもう10日以上も、あいつらと付き合いを続けてる。どんな気まぐれかと思ってな」

「まぁ、気まぐれっちゅーか、なんちゅーか……」

 パティは舌先でぺろりと唇を湿すと、呟いた。

「なんやあいつら、金の匂いがしよるんよなぁ」

「ん? 何か言ったか?」

「いや、なんもない。それより買ぉてくれへんのやったら、脇に避けてや。お客さんの邪魔んなる」

「あぁ、すまんすまん。……ん?」

「どないした?」

「あれ、お前さんの所の大男じゃないか?」

 マスターの指差す先に目を向けたパティが、ぎょっとした顔つきになる。

 レオポルドが常人とは思えぬスピードで、広場へ駈け込んでくるのが見えた。フードを激しくはためかせながら。

「足早いな。何者だ」

「あかん、あのままやとフード取れる! レオ、こっちや!」

 パティが立ち上がり大きく手を振ると、レオポルドは一瞬スピードを緩める。そしてパティを見つけると、先ほどより一段階速度を上げた。

「ゆっくり()ぃ! 焦らんでえぇ!」

「パティ、服をくれ!」

「へ? なんやなんや」

「アリスがコリンを生み出した! 子どもの服が必要だ!」

「なんて?」

「急げ! コリンがアリスの側についているが、いつ魔獣が現れるとも限らん! 早く!」

「分かるように説明せぇや!」



 レオポルドからコリン用の服を受け取り、私たちは宿へと戻った。

 レオポルド同様、コリンにも耳を隠すパーカーと、口元を隠すネックゲイターを身に着けさせて。

 部屋でコリンがそれらを取り去ると、パティはぽかんと口を開けた。

「二匹目やん……」

「『匹』言うな」

「せやって……、どないしたらこないなるんや。前に猫型魔獣(クタント)を人型にしようとした時、全然アカンかったやん」

「それなんだけど。もしかしたら……って方法がなんとなくわかったかも」

「ホンマか! 勿体ぶらんと説明しぃ!」

「あのさ、レオポルドの時もコリンの時も、当たったんだよね。唇に魔石(ケントル)が」

「は? キスしたらこの姿になったってことか?」

「キスっていうか、まぁ、必死に組み付いている時に、偶然当たったってだけなんだけど……」

「嘘やろ。そんなことで……。それって、ウチらでもいけるんか?」

「さぁ、これまで試した人はいないの?」

「誰が好き好んで魔獣の石にキスなんかするかい! その前に引き裂かれるわ!」

 私はレオポルドとコリンをふり返る。

「って、私は思うんだけど。二人としてはどう? 合ってる」

「アリスの言う通りだ」

 レオポルドはうなずき、額の石に手をやる。

魔石(ケントル)は自分たちにとって、生命の中心と言ってもいい」

(コア)やもんな」

「あぁ。そこにアリスに直接触れられ、想いを注がれたことで自分たちはアリスの望む姿となった」

「えっ? 私の望む姿に!?」

「そうなの」

 コリンは私の両手を取り、にこりと笑う。

「アリスの気持ちが、ボクたちをこの姿にしたの。だって唇から石に直接流れ込んできたんだもの。アリスが愛してくれる姿と名前はこれだよ、って」

(そうなのーー!?)

 つまり彼らは偶然、私の推しの姿そっくりになったわけじゃない。

 私の記憶の中にあった愛する対象のデータが、彼らの中に注ぎこまれたことで今の姿を作りあげたことになるようだ。

(どういう仕組み!?)

「……初耳や。おそらくどこにも記録されてない現象やな」


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