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前編  伯爵令嬢 ホホニ ナミダ・ヒトスジー

ホニー視点です。

「チョット、アンタ達! なんでこんなとこでキャンプしてんのよ! 非常識にも程があるでしょ!」


 アタシはヒトスジー伯爵家の第二子、ホホニナ=ミダ・ヒトスジー、12歳。中級火魔法ヲ使イシ者。皆んなからはホニーって呼ばれてるわ。アタシは今、ちょっとした事情があって、山の中に身を潜めているんだけど……


 まあ、それはいいとして、アタシが言いたいのは、目の前にいる、のほほーんとした3人組のことよ! こんな盗賊や野獣がウロウロするような場所でキャンプするなんて、いったい何を考えてるのかしら? 非常識過ぎて、思わず声を上げてしまったじゃないの。



「ムムっ! このご飯はオレっち達の分だゾ! オネーサンの分は……」


 べ、べつに『隣の晩ごはん』的な展開なんて期待してないんだからね! ……ふっ、決まったわ。一応言っておくと、アタシは異世界に存在するという日本文化をこよなく愛する者でもあるの。この『つんでれ』風女子の言いまわしスキルを獲得するの、とっても大変だったんだから。


 さて、そんなことはさておき、この冒険者風の変な言葉遣いをしてるのは、獣人族のちっちゃな女の子。なんだかとっても可愛いくて、モフモフしたくなるわ。


「キャンプってどういうことですか? 私達は野営の準備をしてるだけですけど」


 そう答えたのは、魔導士風のカッコをした物知り顔の女。年の頃はアタシと同じくらいかしら。子どもくせに、えらく大きなローブなんか着ちゃって。まだ子どもなんで、きっと自分に合うサイズのローブが無かったのね。ぷっ、コイツってば、『冒険者始めました』感がハンパなくニジみ出てるじゃない。


「ハア? 野営ですって? こんなに山盛りの肉をジュウジュウ焼いちゃって、これのどこが野営なのヨ!」


 アタシはあきれ顔でコイツらに言ってやった。すると今度は最後に残ったオッサンが口を開いた。


「確かに少人数のパーティで、こんな目立つ行動を取るヤツなんていないだろうな。でも複数の冒険者パーティが合同で野営をする時なんかは安全性が高いんで、結構派手めの夕食をとることだってあるんだぞ?」


 ハア? 何言ってんの、コイツ?


「チョット、アンタ! 自分が言ってることのおかしさに気付いてないの!?」


「ああ、言い方が悪かったな。 要は安全が確保されてるんで、別に目立った行動をとっても問題ないってことだよ」


 ハァ…… コイツ、バカなんだわ。『安全が確保されてる』ですって? 笑わせないでよ、この素人冒険者どもめ。仕方ない、ここは我が国最強の魔導士の一人であるアタシが、この憐れなオッサン達に現実の厳しさを教えてやるしかないようね。


「……アンタ頭は大丈夫? アンタ達の居場所、今、アタシが気づいてるワケ。わ・か・る? もしアタシが盗賊だったらどうするつもりだったのかしら?」


 あれ? 何よ、このオッサン。いっちょまえに、イラっとした表情なんか見せちゃって。


「おい、お前こそ相手の力量を確認する前に調子コイた物言いしてると、大怪我をすることになるぞ」


 なんですって?! 今度はアタシの方がイラッとしてきたじゃないの!


「ハン! アンタって、どうやら世間を知らない田舎者のようね。いいわ、アタシの実力をほんのチョットだけ見せてあげるわ。泣いて謝ったって許してやらないんだからね!」


「……ほう。俺が泣いて謝るだって? いいだろう! オマエこそ俺の魔法を見てチビるんじゃねえぞ!」


 コイツ…… もう容赦しないんだから、なんてことを思っていたら——


「もう! カイセイさん、やめなさいよ! こんな子ども相手に本気を出すなんて大人気ないわよ!」

 何よ、この女! 物知り顔して口をはさんでくるんじゃないわよ。ブカブカローブのくせに! それから、このオッサン、『カイセイ』って名前なのね。何よ、その変な名前。


「誰が子どもよ! アンタの方が子どもでしょ! ガキはすっこんでなさいヨ!」

 アタシは叫んだ。これはもう、イラッとしたなんてレベルじゃないわ。ブチ切れてるって言ってもいいぐらいよ!


「誰がガキですって? 悪いけど、絵に描いたようなガキのあなたにだけは言われたくない台詞だわ」

 ナニイッテンダこの女? ああ、そうか。コイツら皆んな、アタシのこと知らないんだ。我が国において3人しかいない中級魔法の使い手の一人、このホニーさんのことを。なんだか怒りを通り越して、可哀想に思えてきちゃった。

 あっ、ちなみに上級魔法を使える魔導士は我が国にはいないの。だからアタシが最強ってワケね。


「……ふう。まったくヤレヤレだわ。まだこの国に、アタシのことを知らない世間知らずがこんなに沢山いるなんて」


「……世間知らずはどっちかしら? あなた、いったい誰の前に立っているのかわかってるのかしら?」


 あっ! その『誰の前に立ってるんだ』って台詞、アタシが憧れてた超カッコイイ冒険者、オトコノフェロ=モン・デマクリーさんの決め台詞じゃないの! この人、台詞があまりにもカッコ良すぎて、名前と台詞がゴッチャになった愛称『ダレノマエニ・タチマクリー』って呼ばれてた伝説の人なんだから。この女、ド素人の分際で、何エラソーに有名な台詞使ってんのよ!


 ……仕方ないわね。これはほんのちょっとだけ、アタシの実力を見せてやるしかないようね。



 アタシは火魔法の詠唱を始めた。でも安心して。ほんのちょっと火傷する程度の威力に抑えてるから。この世界ではちょっと火傷するぐらい、日常茶飯事だと思うの、たぶん。


 アタシの詠唱は続く。


 あと少しで魔法発動というところで——


 ——バッシャッァァァ!!!


 なんで!? …………アタシは大量の水をぶっかけられた。


 え? あのカイセイって言うオッサンがアタシに水魔法をぶつけたの? しかも——


「む、無詠唱ですって……」


 何よコレ? …………コレって、アタシが言ってみたい台詞ベストファイブに入る言葉じゃないの! まさかこんなところで使えるなんて! いや、今はそんなこと考えてる場合じゃないわね。


 無詠唱で魔法を放てる魔導士なんて…… 日本風に言うなら、頭の上にツチノコを乗せたカッパの正体が実はナマハゲの格好をしたネッシーだったっていうぐらい、それはもう、あり得ないことなんだから! あれ? ネッシーは日本じゃないんだっけ?


 なんてことを考えていたら…… 今度は詠唱を終えた、あのイケスカナイ女がアタシ目掛けて水魔法を放ちやがった!


「ゴボゴボゴボ…… チョ、チョットやめなさいよ! 溺れるでしょ。なんで山で溺れなきゃなんないのよ!」

 この女、頭がイかれてるわ! こんなところで魔法を使うなんて! アタシも使おうとしてたんだけど、それはここでは触れないでおくことにするわ。


「おい、アイシュー! 何やってんだよ?! オレはコイツの詠唱をやめさせるつもりで魔法を使っただけだぞ!」

 オッサンが叫ぶ。この嫌味な女、アイシューって言うんだ。あれ? その名前、どこかで聞いたような……


「あら? 私もそのつもりだけど? カイセイさんったら、私が魔法を発動させる前に、さっさと終わらせちゃうんだもん。私、途中で魔法の発動止められないから、ちょっとだけ彼女に水がかかっちゃった、てへ」


 ……嘘よ。コイツ嘘をついているわ。清純そうな顔して嘘をついている。そして怖い。目が笑ってない。それから、このカイセイって言うオッサン、相当ヤバイわ…… 無詠唱なんて本当におとぎ話ぐらいでしか聞いたことないわよ……



 なんだかとってもヤバイ状況になってきみたい。こんな規格外のオッサンに勝てるワケないじゃないの。アタシってば、散々このオッサンを煽っちゃったし…… さあどうしたものかと思案していたところ、アタシの背後から人の気配がしたので振り返ると——


「おやおや、お嬢様、ずぶ濡れではありませんか」

 あきれ顔でつぶやきながらこっちに近づいてきたこの男。この男は我がヒトスジー家の老執事、シツジデス=チャン・セバスー。良いところに来たわセバスー、って叫びそうになったけど、よくよく考えると、アタシのせいでセバスーを危険に晒してしまうことになるじゃない!


 そんなことはさせないんだから! とか思ってたら…… え、なんで? セバスーったら、カイセイって名前のオッサンとニコやかに話し始めたじゃない。オッサンの方も笑顔で応じてるし。


 ま、まあアタシ一人でもなんとかなったんだけど、今日のところはセバスーに花を持たせてあげることにするわ。べ、べつに感謝なんてしてないんだからね! ……ふっ、また決まったわ。どうよ、この日本チックな言いまわし。当たり前のことだけどもう一度言うわ。アタシは日本文化をこよなく愛する者ヨ!


 そうそう、それからセバスーが言ってたんだけど、ブカブカローブを着た女の子は私と同じく、我が国で中級魔法を使える3人の魔導士のうちの一人、元ミズーノの街の聖堂士アイシュー、通称『水の聖女アイシュー』なんだって。


 なによ…… そういうことなら、最初にちゃんと名乗りなさいよね、フン!



 ♢♢♢♢♢♢



「それじゃあ誤解も解けたようだし、髪と服を乾かしてやるよ」

 そう言うと、カイセイっていうオッサンは、魔法で生成した暖かい風をアタシに向けて放ってきた。


 何コレ? 気持ちいいんですけど。

 おかしいでしょ? 服が乾いちゃったんですけど……


 このオッサンは本当にヤバイ。でも聞かずにはいられない。アタシは冷静さを装い、このヤバそうなオッサンに尋ねた。この世界、舐められたら終わりだからね。


「チョ、チョット! アンタはいったい何者なのよ! これ…… これ何魔法なの? しかも無詠唱だし!」

 全然冷静さを装えなかったわ……


「オレか? オレは通りすがりの、ちりめん問屋の隠居だが」


 え? あれ? ちょっと待って。この人ひょっとして…… いいえ、間違いないわ!!!


「チョットォー! アンタ…… アンタ日本人なの!!!」


 アタシは叫んだ! いいえ、叫ばずにはいられなかったわ!


 アタシが幼い頃、変わり者のお父様は日本から来た転生者をお屋敷に居候させていたの。アタシはその人のことを『師匠』って呼んでたんだけどね。この『ちりめん問屋の隠居』ってフレーズ、師匠のお気に入りだったんだから!


 よくよく話を聞いてみたところ、やっぱりカイセイは日本から来た転生者だった。アタシは興奮してカイセイに質問しまくったわ。でも、流石に度が過ぎたようで、セバスーに怒られちゃった。セバスーってば、何気に怖いのよね。今は落ち着いた老紳士って感じだけど、若い頃はブイブイいわせてたそうだし。



 さて、その後なんだけど、セバスーとカイセイがなんだか意気投合しちゃって、二人して向こうの方で話し合いを始めちゃった。先にご飯を食べといていいって言われたけど…… どうしよう、なんだかとっても気まずいわ。自慢じゃないけど、アタシって伯爵令嬢で中級魔法が使える希少な魔導士じゃない? はっきり言って、同年代の友達なんて一人もいないのよね…… とか思ってたら——


「私はアイシューって名前なの。あなたは、ホホニ…… えっと、みんなから何て呼ばれてるの?」

「ア、アタシは…… ホニーって…… よ、呼ばれてるのよォホっ!」


「そう。じゃあ、ホニー、よろしくね」

「うむ……じゃなくって…… えっと、よろしく……ね?」


「オレっちは、ミミーだゾ!」

「あっ、えっと、ミミーね。よろしくお願いし…… よろしくぅ……」


 どうよ、この私の華麗なお友達作りスキル! 我ながら完璧だと思うわ。私ってば、ホント才能の宝庫ね。

 この後、私達3人は楽しくお喋りしながら食事をしたの。と言っても、ほとんどミミーが喋ってたんだけど。ミミーは8歳で、アイシューは私と同じで12歳なんだって。

 アイシューって見た目とは裏腹に、とってもフレンドリーだったの。これにはちょっと驚いたかな。



 そうこうしているうちに、セバスーとカイセイが戻ってきたわ。


「お前もちゃんと食ってるか?」

 ぶっきらぼうに、カイセイがアタシに尋ねてきた。ふっ、さっきはほんのちょっとビビっちゃったけどもう大丈夫。師匠が言ってたっけ。日本人はたいてい優しいから、たいがいのことで怒ったりしないって。ここはアタシがマウントを取るチャンスね。


「オマエって言わないでよ! アタシにはちゃんとホホニナ=ミダ・ヒトスジーって名前があるんだから! でもまあ、特別にホニーって呼ぶことを許してあげるわ」


「お前もちゃんと食ってるか、ホホニナ?」

「ホニーって呼べって言ってるでしょっ!!!」


 はっ! こ…… これは!!! これって伝説に聞く日本人の最終奥義、『ボケとツッコミ』ってヤツじゃないの!? なんてこと…… アタシは無意識のうちにツッコまされていたってことなの!?


 恐るべし、キシ・カイセイ。あっ、さっき自己紹介した時にコイツがそう名乗ったのよ。土の上に文字を書いてたわ。確か『岸 快 晴』こんな文字だったかしら。


 あれ? ちょっと待って。キシカイセイって、『起死回生』のことよね?


 こ、この男、ひょっとして…… 自分の名前までネタにしてるの?! コイツ、どれだけお笑い食いしん坊なのよ!!!


 あっ、思い出した。昔、師匠が言ってたわ。日本人の中には、お笑いに命を燃やすレア種族がいるって。確か『カンサイ人』だったかしら。そうだわ、この男、絶対カンサイ人だわ! 嗚呼、アタシなんてついてるんでしょう! こんな希少種に巡り会えるなんて!!!


 アタシ決めたわ。絶対コイツのパーティに入ってやる。そしてコイツから、もっと日本文化を吸収してやるんだから!!!



 ♢♢♢♢♢♢



 翌日。カイセイ達は隣国の領主、ジンセイ=ズット・クローニン侯爵に会いに行くみたいだから、アタシもついていくことにしたの。セバスーは残念ながら別行動みたい。


 ついでに言うと昨夜から今朝まで、アタシはカイセイのパーティメンバーの女の子二人と一緒に過ごしたの。じっくり話してみると、とっても良い子達だってことがわかったわ。この子達と一緒に旅をしたら楽しそうだなって思えてきて、ますますこのパーティに入りたくなっちゃった。


 べ、べつに友達が欲しいとかそういうことじゃ………… やっぱりヤメた。


 確か日本の作法では、同じことを3回続けて言ってはいけないのよね。もし言うとすれば、確かオチをつけないといけないとか。うーん、日本の文化をマスターする道のりは、まだまだ果てしなく遠いようだわ。



 ♢♢♢♢♢♢



 アタシは今、空を飛んでいる。山の上空を結構な速さで飛んでいるの。信じられないことに、カイセイが使った風魔法で、4人一緒に空を飛んでるのよ。空を飛ぶ魔導士なんて、この世界には存在しないわ。うーん…… これが日本で言うところの、チート能力ってヤツなのかしら。


 それにカイセイってば風魔法を発動させながら、同時にユニークスキル『広域索敵』と『人物鑑定』を使って地上の様子を監視してるんだって。

 ナンデスカソレ? それってご飯とお味噌汁とたまご焼きを、同時に食べてるようなものなのかしら?


 アタシはこのパーティに入るために、アタシの有用性をアピールしたかったんだけど…… どうやら魔法じゃ無理そうね。悔しいけど、カイセイの前じゃ、アタシの魔法なんて子どもの遊び程度でしかないわ。


 ふっふっふっ、でも大丈夫! アタシにはこれまで培ってきた日本の知識があるのよ! アタシの知識を披露して、是非パーティに加わってくださいって言わせてやるんだから! 見てなさいよ、カイセイ!!!

この物語(前編)は、下記連載作品↓↓↓にて投稿中のワンシーンを抜粋し、ホニー視点で書き直したものです。併せて連載作品の方もご一読いただければ、とても嬉しいです。ほぼギコメディで埋め尽くされた作品です。宜しくお願いします。(連載作品にて、本日よりホニーが登場します。 2021/02/11 記)


結婚経験ナシのおっさんが、いきなり聖女と令嬢と獣耳娘の保護者になったら (連載中)

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