表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大人になれない少年と王国騎士  作者: 高丘楓
第一章:不愛想な騎士とひとりぼっちの少年

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/34

1-4 少年と兄と目覚め

 「クリスティナとツヅルの様子は?」

アラムは教会の外で村の様子を見ながら、教会の中から出てきたリゼに確認をする。

「クリスティナは目を覚ましました。少しだけ魔力欠乏の症状が見られますが、受け答えはしっかりしていますし、魔力回復用のポーションも使用しましたので、多分あと一時間くらいすれば任務に戻れると思います」

「そうか。まぁ神様の依代となったんだ。どんなことが起きてもおかしくないし、その程度で済んだってことは良い方だろう。で、ツヅルは?」

短く刈った茶色の髪を無造作にかきながら優秀な部下に視線を送る。

「ツヅル君は槍を手にしたまま眠っていて、ユウゴは付きっきりで様子を見ています。特に脈拍とかにも変化は見られていないので体調的な問題は無いと思いますが、危ないので手から槍を離そうとすると、取ろうとした者の手が見えない力で弾かれてしまいます。……あの槍、何なのでしょうか……?」

普段の凛とした姿からは想像できない不安そうな表情を浮かべるリゼを見て、アラムは一呼吸置いてから言葉を繋げる。


 「王国騎士長アッシュ・ドラグ様の聖鋼の剣。王都クシアウィズ教神殿の神官長エルゥ・カネスヴィナ様の聖焔の杖。王国最強の傭兵エイダン・エクレウスの聖骨の鎚。現国王の第三子であるセオドア・リンクス・アステイス様の聖涙の盾―――」

リゼの質問にアラムは今現在確認されている、似たような性質を持った武器の名前とその所有者の名前を並べていく。

「前例が無かったわけじゃない。どれも本人にしか扱えず、他者を拒み、他者の手に渡っても必ず本人の下へ帰ってくる。誰もが神様からの祝福によって得た物だと言う。おそらくツヅルの槍もそれらと同じだろう」


 聖鋼の剣。曰く、生ある者に苦痛を与えることなく斬り裂き、等しく死を与えることができる慈愛と慈悲の剣。

 聖焔の杖。曰く、荒ぶる生命の奔流を操り、失われかけた魂ですら呼び戻すことができる反魂の杖。

 聖骨の鎚。曰く、全ての困難を打ち砕く勇気を具現した、万物を粉砕する破壊の鎚。

 聖涙の盾。曰く、不変の力にて魔力を消耗することなく循環・加速させて増幅し、圧倒的な魔力障壁で全てを守る不滅の盾。


 リゼも作り話の類の噂として知ってはいたが、実際に立場ある者からその事実を聞かされると噂と言って片付けることができなくなってしまう。自分達王国騎士団のトップである騎士長が持つ剣は特別であると聞いたことはあるが、それを抜いて戦っている姿を見たことは無い。他の者達もそうだ。王国騎士という王国内でも戦闘に関わる職ではトップクラスの者達でさえその武器を扱っている姿を見たことが無い。


 「あの洗礼の儀を見たので疑っているわけではないのですが、そんな物が現実にあるのですか?確かに、強力な魔物の素材で作った武器や防具には特別な力が宿るというのは常識ですし、私達の武器も私達の特性に合わせて作られた特注品で、個人の能力を強化する特性はありますが……」

リゼは自分が背負っている弓をひと撫でして、素直に疑問をぶつける。

「一度だけ騎士長が剣を抜いて魔物と戦った姿を見たことがあるが、一瞬だった。相手は鋼殻獣の老成体。俺達一般騎士の武器では外皮に浅い傷をつけるぐらいしかできなかった。魔法も外皮で防がれてしまうしな。劣勢で撤退を余儀なくされたとき、騎士長が現れたんだ。騎士長が剣を鞘から抜いた瞬間に真っ二つになった。圧倒的だったさ。俺達も騎士として実力が無いわけでも無かったし、武器もそれなりな物を使っていた。そんな奴らが二小隊がかりでも苦戦させられた魔物を、騎士長はたった一人で討伐された。―――とまぁ、そんな具合だから、現実にあると言い切るしかない」

昔を思い出しながら語り、部下を納得させる。

 「ともあれ、この瘴気汚染の監視が終わったら、ちゃんと団長に今回の件を報告しないとな。第八もさっさと帰ってきてくれればいいのに」

「今朝発ったばかりですし、帰ってくるのは早くても明日の夕方くらいですよ、隊長」

ぼやく上司に対して呆れたように言葉を投げかけて苦笑いを浮かべる。


 「……ユウゴ……さん……」

リゼがアラムに報告してから二時間ほど経ち、東の空にあった陽も気が付けば南の空に浮かび、廃墟の村を照らしていた。

「起きたか?ツヅル」

うっすらと瞼を開けて名前を呼ぶ少年は、顔を動かさずに視線だけを泳がせて兄の名前を呼ぶ。 まだ少し眠いのだろうか、少し呆けた目がユウゴを捉え、再び目を瞑る。

「ありがとう……ユウゴさん……。ボクを助けてくれて……。ボクを見つけてくれて……。……うれしかったんだ、ユウゴさんがボクをまもってくれるって、ささえてくれるって。だからね、ボクね、神様達のキモチを受け取れる気持ちになれたんだ……」

言いながら上半身を起こそうとするが、疲れと眠気でふらつく体は思うように動いてはくれない。ユウゴはそっと手を伸ばして少年の体を支えて安定して座らせると、頭を撫でてその訴えを聴く。

 あんなに苦しんでいた状態でもちゃんと聴こえていたのだと思うと、この少年の心の強さを実感させられる。

 ユウゴの手を心地良さそうに受け入れて瞳を閉じ、しばらく温もりを甘受する。あの体験の後で自分が変わってしまったのではないかと不安にもなっていたが、誰かが側にいてくれる。その事実だけでツヅルの心は少しだけ軽くなる。

「あ、あの……その…………」

「どうした?」

「……えっと、その、……おにちゃん…………って呼んで、……いい……ですか?」

遠慮がちにユウゴの目と視線を合わせて上目遣いで訊いてくるツヅルは、ちょっとだけ泣きそうで、ちょっとだけ頬が赤く染まる程には照れていて、とても真剣だった。

「当たり前だろ、ツヅル。俺はお前の兄ちゃんになるって、神様にも断言したからな」

寝起きで体温が少し高くなっている少年の額に自分の額をコンっとくっつけて、互いの吐息が顔にかかる距離で伝える。

 近すぎて表情の全てが見えるわけではないが、視界の中の少年の口元が緩み、小さな声がこぼれ出る。


 「ユウゴおにいちゃん」


 まだ一日しか一緒に居ないのに、ずっと一緒に居るかのような安心感。ツヅルの小さな肉体はその言葉と共にユウゴの大きな体に抱きしめられる。

「あぁ、ツヅル。兄ちゃんはここにいるぞ」

「うん。……ありがとう、ユウゴおにいちゃん」

その温もりに甘えるように身を預け、兄の熱や匂いを自分の体を通して感じ取る。

 遠征と戦闘で汚れ、ろくに汗も流せていない騎士の匂いは土埃の匂いを含んだ汗臭さがあった。しかし、その匂いも自分を助けてくれた人のモノだと思うと嫌いにはなれない。むしろ落ち着く。そして、ツヅルのサラッとした汗の匂いと少年特有の甘い香りが混ざりあった匂いはユウゴの鼻をくすぐっていく。


 しばらくお互いの存在を感じ合い、ツヅルは自分の体が落ち着いていくのを感じた。

 そして、それまで意識していなかったことに気が付く。

「……ユウゴおにいちゃん、ボク、行かなきゃ……」

手に持ち続けていた聖樹の槍を強く握り、ゆっくりとユウゴに告げる。

「行くって、どこにだ?」

突然の申し出に少しだけ戸惑う。もうツヅルには行く場所、一人で行けるような場所は無い。それでも行かなきゃと、義務のように言う。

「おはなししなきゃいけないんだ。ここはボク達の村だったんだよって。だから、ここはダメなんだよって」

立ち上がって槍を手にしたまま教会の外へと行こうとするツヅルを止めようとも思ったが、ユウゴは神々との対話を思い出し、自分が止めていいものか考えた。

 『未来と希望を紡ぐ力』を授けると神は言った。その結果の聖樹の槍も手にしている。

 だとすれば自分が今ツヅルの為に取る行動は―――。

 

 「えっ?ツヅル君!?ちょっと、どこ行くの?」

教会から出てきたツヅルに気付いたリゼが声を上げ、村を見ていたアラムもその声に振り返り、ツヅルの姿を目で追っていく。歩いていく先には村があり、ユウゴ、リゼ、アラム以外の第四小隊の騎士達が瘴気汚染を中心に周囲を警戒している。

「隊長、リゼさん、行かせてやって下さい。ツヅルは俺が絶対守りますんで!」

ユウゴも装備を整えてから小走りで教会から出てきて、上司に行動の許可を取る。

「一応聞くが、何があった?」

「おはなし、と、ツヅルは言っていました。ここはダメなんだよって、行かなきゃって。なんのことかは俺もよくわかりませんが、多分―――」

「神からの力の影響か」

ユウゴの報告にアラムは瞬間的に理由という答えにたどり着き、その後数秒考えて次の指示を出す。

「よし、リゼ、俺らも行くぞ」

「はい、隊長」


 見届ける必要がある。

 ただの田舎の村の少年だったツヅルが、どういう力を手にしたのかを。

 そして、ツヅルがその力を扱いきれるかどうかを。

 アラムはツヅルを追うユウゴの背を見て、どうか彼らにとって有益で、幸せになる為の力であって欲しいと願った。

少し間が空いてしまって申し訳ありません。


『この話が気になる』『楽しいよ』『おもしろいよ』と思って頂ける方は、画面下部にある「☆☆☆☆☆」から評価していただいたり、感想をいただけると嬉しいですし、励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ