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守護獣様のお気に入り  作者: へけけ
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2-2


広間の脇に並べられた白いクロスの掛けられた長テーブルに流石は王家主催のパーティーだ。軽食以外にも名だたるシェフ達が腕に縒りをかけた、前菜からスープに肉や魚料理が一口サイズに切られ並べられている。

ナディはデザートがメインに並べられたテーブルから、生クリームの添えられた艶やかなチョコレートケーキと簡単に食べられるフルーツを手に取った。

毎年冬が深くなるとクイール連峰の湖に深い天然氷が貼られるのでそれを切り出し、氷室で保管された氷を惜しげもなく使い冷やされている。

贅を尽くしたデザートに舌鼓を打っていれば、ギラギラした目でメイン料理の並んだテーブルにグングンと近づいてくるギルディが見えた。


やっと警備の指揮もひと段落したのであろう。

先程の宣言どおり肉料理の前であれもこれもと手を伸ばし始めていた。

「やっと食べれますね」

ステーキをもぐもぐと口に詰めた次兄に近づき、新たに手にしたチョコレートをぽいっと口にして投げ込んで、これまた氷たっぷりの水を飲む。

「あとは閉会の挨拶ぐらいだな」

王妃殿下も体調を気遣いすでに会場を後にしている。

広間に残る国王様が貴族達と会話を楽しんでいるのが目に入った時、


「ゲッ」

「なんだ?どうした?」

ずんずんとギルディのように目をギラギラしながらナディに向かってくる長身で透ける金髪。

どうみても怒っている。温和な眉は釣り上がり眉根はもう両の眉毛がくっつきそうなほどに近く刻まれている。肩はよく見れば震えているようにもみえる。

後ろを小走りで追いかけてくる婚約者の事などすっかり忘れていそうだ。

「ナディ!!!!そこで何をしている!!」

チョコレートの味もすっかり消えてしまう。

生真面目な長兄レイディール。

小さいながらも準貴族のカシュイン家嫡男として育ち、王宮に仕えてからも普段から規律を守り、市民の見本で無ければならないと自分を律している兄。

警備の合間に婚約者と少ない逢瀬の時間を楽しんでいたのだろうに。

テオドール王子の警備を離れサボっていたナディに心底信じられないとため息を吐き、怒りを抑えようと寄り過ぎて痛くなった眉間を揉んでいる。

「……ちょっと休憩を頂いていました!」

「ほう、お前のちょっと。とは生クリームの乗ったケーキを3皿食べ、冷やされたフルーツの入ったボウルをすっかり空にするぐらいがちょっとなのだな!!」

いい勉強になった!とニッコリ笑いながら頭を鷲掴みにされ力を込められる。

「いててて!」

「そりゃ痛いだろうな、痛くしてるんだ!」

顔を赤くして笑っているが目の奥がまるで笑っていない。怖い。

「レイディール様!おやめ下さい!」

「メアリ!止めるな!」

兄の暴挙に果敢にも止めに入ってくれたのは隣でずっと笑っているギルディではもちろんなく、くるくるとした栗毛の髪を編み込んで可愛らしい小花柄のドレスを身に纏い、背の高い兄からナディを庇うように間に入る女神。

カシュイン家よりも格上のダルトン男爵の三女、メアリローズ・エル・ダルトン。

ふっくらとした女性的な体型に栗毛の髪も相まってとても可愛らしいレイディールの婚約者。

そんな女神メアリローズにはレイディールも強くは出れないのでナディの頭は開放された。


「痛たたた……」

「まぁ、ナディ。大丈夫?」

名前を呼ばれ、心配そうに覗き込んでくるメアリ。

「メアリぃい、痛いよおおぉ」

涙を溜め、メアリの豊満な胸に泣きつく。

ダルトン家のメアリローズとカシュイン家の姉兄弟妹(きょうだいたち)は小さな時から交流があり、王都にあるタウンハウスも近かったので幼馴染として育っている。

特にメアリとナディは年も同じということもあり愛称で呼び合う謂わば親友でもあった。


「…メアリ、ナディを甘やかしてはいけない」

「でも!痛がって泣いております。」

ナディを抱きしめながらレイディールに抗議をしてくれる。なんて優しいメアリローズ神。

メアリが長兄に抗議の為向き直った隙に、下瞼を指で引っ張りべぇーっと舌をだす。所謂アッカンベーである。



「……ナディ()()()

やばい。

ナディは本気で長兄が怒る時、口調が丁寧になることを知っている。怒鳴ったり、暴力で解決などは貴族としてあるまじき!と常日頃から言っているので……先程のアイアンクローなどは()()()()みたいなもので大したことはない。

以前怒らせた時は二ヶ月程目を合わせてくれなかった。

メアリに抱きしめられていた体を離し、ギギギと固くなった体を回れ右。急いで持ち場に戻らないと血をみることになる。

「テオドール殿下に呼ばれてる気がします!」

礼もそこそこに一目散に走って逃げる。

こんな時は逃げるが勝ち。と末っ子の本能が語っていた。





逃げ去るナディの背中を見つめ、はぁっと大きめにため息一つ。

「まったく、ナディは誰に似たんだ!」

「少なくとも兄様ではないようですね」

くくくと一連の流れを外野で笑っていたギルディ。

「でも、そこがナディの良いところですよ。」

「メアリ。君たちが仲が良いのは素晴らしいが…」

「あら。でもナディは自分のした事に気づいたみたいですよ。」

うふふと花のように笑うメアリに敵うものはいない。





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