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守護獣様のお気に入り  作者: へけけ
2/20

1-2

「まぁ、ナディエール様だわ」

「今日はお一人なのかしら」

はぁ素敵。うっとりと頬を染め貴族の令嬢達が口々に噂をしている。

ナディエールは陽に透ける細い金髪をダークグリーンのリボンで結び。

整った眉にかかる前髪の下には顔のサイズの割には大きめな目。その瞳の色は深緑。軽く垂れた眦が柔和な雰囲気を際立たせる。

武人でありながらも、平均身長程度で細身。

第1王子の近衛兵として任命され、さらには王子の剣術指南にまで上り詰めた若き天才。

武人としては小柄で中性的な雰囲気を出してはいるが、王宮主催の剣術大会では優勝を争うほどに強い。

騎士の家柄なので社交界であるお茶会や夜会等で姿を見かけることは少ない。

なのでこうして街に降りてきた姿を眺めては、こそこそと視線を向けるぐらいで精一杯。

そんな乙女の憧れ、ナディエール・カシュイン。



本人はそんな熱い視線を知りもせず鼻歌まじりに街道の露店を覗き込みながら王宮から遠ざかっていく。



馬車が二台すれ違っても余裕のある大通り。王都らしくしっかりと石畳で舗装された道。

ふと、目の端。

何か、いや、何かが。

ナディは自分でもわからないが何か嫌な予感がして辺りを見渡す。

賑やかな下町。

道の両脇には露店が並び、昼食どきを少し過ぎたこの時間は少し活気も収まっている。

南の市場へ視線を向けながらも、全身であたりの気配を探る。


何も、ないか。




「ナディじゃないか!新作はいってるよ!」

威勢のいい声に振り向けば馴染みの店主が手をぶんぶん振っていた。



「さぁ、好きなの注文してくんな」

1人掛けのソファーと丸い古木のテーブル。

並べられた茶器は年季が入っているが丁寧に磨かれている。


赤やピンク黄色に青。

小さな一口サイズの色とりどりなチョコレート。

バラをモチーフにした物やゴールドに光り輝いているものまで。


小さな店内のイートインスペース

貴族令嬢達よりも、平民・準貴族のナディ達が好むショコラティエ。

ピンクストライプの壁紙にダークウッド調の床材。

所々に配置された観葉植物が店内の甘さを抑えている。

テーブルに並べられたチョコレートの山に、口角があがりニヤニヤしてしまう。手で口元を隠し眉間に眉を寄せてみる。


選びきれない。まったくなんて美しい。甘い店内の香り。小さな宝石のように艶があるチョコレート達。

はぁっと溜め息をつけばまるで不機嫌にチョコレートを見つめているようにも見えるが、

ナディは超甘党だった。それも超が三つぐらい付きそうなほどに。



「はいよ」

いつものな!とカチャっと音を立ててシルバーのケーキスタンドと細長く巻かれたチョコレートの添えられた温めのチョコラテが置かれる。氷なんてものはこの時期高級店以外は手に入れることなどできない。


ケーキスタンドとは名ばかりで二段のトレーに色とりどりのチョコレートが詰め込まれている。

生クリームの乗ったチョコラテの香りを堪能しながら、目を細めナディは口角を上げてうっとりと微笑む。周囲の令嬢たちがキャアッと短い悲鳴を上げ、倒れた者もいたとかいないとか。



テイクアウトのチョコレートをいくつか包んで貰い店を出る。

気分も良く、天気も良い。なんていい日だ。

なんて思いながら石畳をスキップでもしそうなぐらい軽やかに進んでいた。


ぽつり、ぽつり


雨だ。太陽が出ている所からすぐに止みそうではあるが粒が大きく勢いが増している。


道の脇にある店の軒下に逃げ込み、

「あ〜ぁ〜…」

空を眺めれば自然と眉が下がってしまう。

先程まではとてもいい気分だったのに。

チョコレートの箱もすこし雨に当たってしまったではないか。

はぁ。と溜め息を付きジャケットのポケットからハンカチを取り出して箱を拭いてみる。あんまり効果はなさそうだ。


「どなたかへのプレゼントですか?」

「え、あ、いえ自分用です!!」

急に声を掛けられたので驚いて、思わず勢いよく言ってしまった。

「すいません、とても真剣に拭ってらしたので」

くすくすと口に手をあて、笑われてしまった。

眉根を寄せじろりと横目で睨み、笑われたことに軽く抗議の意を示すも、特にこれといって効果はないようで。

「雨。止みませんね」

「陽が出ていますので時期に止みますよ。ほら、あちらに。」

指を差せば素直に顔をそちらに向けている。

自分よりも幾分か高い身長。

白いローブについたフードを目深に被ってはいるが、その下の短い黒い髪と切れ長な紫の瞳は隠せていない。

夏だというのに随分とまぁ。

長袖のローブの下、覗く首元もしっかりと詰襟がみえる所から恐らく長袖を着込んでいるというのに汗一つかいていない。

自分なんてこんなにも汗を掻き、先程飲んだチョコラテでは体を冷やすことなんて出来ない。

あぁ、あのチョコレートは本当に美味しかったなぁ。


ナディが思考を飛ばし、チョコレートの余韻に浸り始める。

頬を染め、笑う唇。下がった眦。



紫の瞳が丸く開かれ、目を細め、目が離せない。

今度はちゃんと口の中で笑いを抑える。



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