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守護獣様のお気に入り  作者: へけけ
19/20

6

朝食を食べ終え、ナディが部屋で身支度をしているとギルディから声が掛かった。

熱もすっかり下がり、朝からパンを三つもおかわりした程ナディは元気になった。

ギルディは朝から少し元気がなく、機嫌でも悪いのかと思ったが、わざわざナディの部屋まできて、ホールに呼ぶなんて…なにか企んでいるのだろう。




「ナディ。そこに座りなさい」

ホールに着くとギルディだけでなく、父と母にレイディまで揃っていた。この前廊下で素振りしていて花瓶を割ったのがバレたのだろうか。まずいことになった。

父に促され椅子に腰掛ける。少女趣味の母がえらんだ小花柄の椅子は家の中の至る所にある。

席につけばすかさずレーネがカップを置いていい香りの紅茶を注いでくれた。いつもの紅茶より良い葉っぱだ。確実に。香りが違う。

紅茶を飲み、正面に座る父を恐る恐る窺う。

いつも通りに見える、いや、ちょっと緊張してるようにも見える。

誰にも分からないように口の中でため息をつく。

割ってしまったのは仕方ない。ちゃんと謝ろう。ふと座るナディの頭に影がかかったので、顔を上げればレイディが隣にいた。

レイディはするりとナディの隣の椅子に腰をおろし、なんだか優雅に笑ってさえみえる。ギルディは父の後ろに控えていた。ギルディをちらりと窺えば、こちらは眉間に皺という皺を寄せて不機嫌丸出しであった。


絶対にギルディに怒られる。

ナディは恐怖に肩を竦め隣にいるレイディに縋りついた。

「レ、レイ兄!ご、ごめんなさいい」

すっかり怯えて涙声にすらなっているナディにレイディールは口角を上げて笑い、ナディの頭を数回叩いただけで、前に向き直ってしまう。

味方がいない。愕然としたナディは下を向いて嵐が過ぎるのを待つことに決めた。


「ナディ。トーリュシア・デルバルク様のことだが…」

「…え?トールのことですか?」

マクドールの一声に塞がっていた気持ちが晴れるように感じた。

「それ以外なにか?」

ギルディにじろりと睨まれた。

口を両手で塞ぎ余計なことを喋らないようにする。片手で話の続きを促せば、父はコホンと咳を一つだけして話を続けた。


古の乙女と王祖ルフェウスのこと、国を守る守護獣の力のこと。守護獣は王族と契約をして、国を富ませる代わりに力を与えること。


トールはその守護獣とやらで、

昨日ナディが体に感じた衝撃は契約が完了した証なのだと。


目をぱちくりと何度も瞬きをして、ナディはぽかんと口を開けている。

「いきなりの事で私たちも驚いた。契約を交わした者がどうなるのかとか、正直まったく分からない。」

悩み、揺れる瞳。母はそんな父の手をそっと握っている。ギルディはイライラと腕を組んでいた。


ナディは自身の額に触れる。いつもと同じだ。

何か力が漲るとかも無い。

両手を広げてもいつも通りの剣だこまみれの大きな手。

「トールはなんと?」

「彼も特になにも…まぁナディには話をしたいと言っていた。」

「そうですか」

考えるように腕を組み、宙を見上げる。

「それでは、トールの話を聞いてから考えます」

「ナディ…!」

ギルディが椅子から立ち上がる。

「いつも父さん達が言ってます。一方向ではなく、多方向から物事を考え、判断しろと」

実際ナディはそれが苦手なのだけれど。


「ナディの決めたことです。尊重しましょう。」

レイディールはナディの隣で和かに笑っている。

この次期当主はとても頼りになる。次兄のギルディもレイディには頭が上がらない。

「ナディ、君の答えが君の力になることを祈ってるよ。」

レイディールはナディに告げると、皆とホールを出て行った。

ホールに残され、軽く息を吐く。

なんだか大変なことになってしまった。ような気がする。

けれど、起こってしまったことなので、もう巻き戻せない。

分からないままに契約を結んでしまったけれど、まさかあれが契約だったとは。組んだ腕をほどき、紅茶を啜る。


トールは人間ではなかったのか。

ナディの胸に重くのしかかってきたのはその事実だけ。

契約とか守護獣とか、古の乙女だとか国の成り立ちとか。そんなものは今どうでもいい。

人ではない。聞いた瞬間からなんだか胸が痛い。さざめく波がナディを駆け抜けていったように。


自分は運がないな。運?なぜ運がないんだ?

浮かんだ疑問符に答えはでず、紅茶は冷めていくばかり。

部屋に戻ろうと椅子を引く。


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