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守護獣様のお気に入り  作者: へけけ
18/20

5-5

オクタヴィアに通された部屋は彼女の書斎兼執務室となっている小さな部屋。

床から天井までのダークオークの本棚にはびっしりと図録や書籍が詰まっている。

客用に置いてある小ぶりな花柄のアンティークのソファに向かい合って座り、2人はため息をついた。ため息の意味はそれぞれ違ったけれど。


「はぁ…でも、守護獣様なんて素敵ねぇ」

うっとりとしながらオクタヴィアは頬に手を当てている。思案するその顔はまるで恋に憧れる少女のよう。

ナディエールのお姫様願望はオクタヴィアに責任があるとレーネは常々思っていた。

オクタヴィアの本棚には恋愛小説がずらっと並んでいるし、ナディは小さい頃からその本を読み耽っていたのを覚えている。

「身分の差って奴ですね」

「そう!それよぉ」

力強く指を刺されレーネは思わず笑ってしまう。

乙女の憧れよねぇ。なんてオクタヴィアはまた思考を飛ばしている。

「ですが、ギルディール様がお許しにならないのでは?」

「あの子は見かけによらずマクドールそっくりだから、マクドールですら守護獣様って知った時は驚いていたと言うのに。まったくもう。」

ギルディの怒りは凄まじかった。

トールが屋敷をでてから食事をするホールに皆を集めると、マクドールとオクタヴィアは懇々とギルディに説教をされていた。最初はジロリと睨み冷静にしているところがマクドール様そっくりだわ。

オクタヴィアにお茶を注ぎながらレーネはギルディの真っ赤な顔を思い出し身震いした。

「結局守護獣って何なのかしらね」

建国からすでに多くの時が流れていた。守護獣と王族は忠誠を誓い合うという知識はあるものの、特に信仰に篤い訳でもない一般市民には古の乙女の知識等ゼロに等しい。

レーネの入れたお茶を飲みオクタヴィアは続ける。

「国を守る力と仰ってたけれど、ナディにそんな力必要なのかしら」

「奥様、それを言ってはトール様が悲しみますよ。先程もギルディール様にコテンパンされてたんですよ」

「あ…そうだったわね。私達だけでもトール様を応援して差し上げないと。」

ぐっと両の手を握り力強く頷いている女主人。

レーネは胸に暖かい気持ちが広がるのを感じた。







王宮に続く街道は等間隔に街灯が並び、暗い夜道をオレンジ色の柔らかな光で明るく照らす。

二頭立ての黒に金の装飾が施された豪奢な馬車に、移る景色は見慣れた道。

なのに、とても寂しい気持ちに胸が強張る。

ナディと契約を交わしたときは、天にも登るほど嬉しい気持ちが胸を占めていたというのに。

今はモヤモヤと霞がかかったように鬱々としていた。


ギルディール殿言う通りだ。自分のエゴでナディを契約に縛り付けた。彼女がそれを望んでなどいないことぐらい分かっている。分かっているのに。

軽く首を振り、トールはため息をつく。

「トール様、お疲れでございますね」

いつも自分を気遣ってくれるハーグは、まるで自分がギルディールに怒られたかのように落ち込んでいた。

悪いのは全部僕なのに。そのハーグの優しい気持ちすらトールの鬱々とした気持ちに拍車を掛けていた。


きっと明日以降、カシュイン家からの従者が言付けを伝えに来る。

自分はナディを手放せるだろうか。

ナディに必要ないと言われたら、もう会うことすら出来ないのだ。優しい彼女はそんなことを言わないと。言うはずがないと決めつけていた。

「トール様」

ハーグが白いハンカチをトールの目尻に当てる。

とても痛そうな顔をしながら心配そうな瞳で見つめられていた。

トールは涙を流していた。

目尻から頬に伝う涙を、ハーグに拭かれるまで気づかなかった。

「ハーグさん…僕は」

「ええ、お辛いでしょう」

自分よりも少し年上で、小さい頃から面倒を見てくれていたハーグ。独りぼっちだったあの神殿で唯一自分と話をしてくた大切な従者。

「僕は、ナディを手放したくないんです

それは、もちろん僕のエゴで、彼女を傷つけることになっても。僕はいつだって彼女の側に居たい。困った時直ぐに力になりたいんです。」

ハーグは驚いた。

小さい頃から主人であるトールは何かを我慢するように、じっと周りを見ている子供だった。

広い神殿ではトールの遊び相手などおらず、年の離れた神官達はトールを幼き守護獣として丁重に扱っていた。

泣いたり、怒ったり。子供らしい感情をトールが出した事なんて数えられる程度でしかなかった。

そんな、そんなトールが。

泣いていた。

それもあのカシュイン家という準貴族の娘を思って。

手放したくないと執着している。あんなにも忌み嫌っていた守護獣としての役目ですら、あの娘を縛る為に手段として選んだ。

初めて欲しいとトールが手を伸ばした。伸ばしてくれた。

「トール様。私はいつだって貴方様の味方でございます。カシュイン家が煩く言うようであればこちらも手段を選びません。」

ポロポロと流す涙が結晶となり、床に溢れ落ちていく。

細い肩に腕を回し、肩を抱き寄せる。

「それは、やめて、ください」

しゃくりあげながらも、カシュイン家を想いハーグを諭す優しい主人。

今度あったらタダで済むと思うなよギルディール・カシュイン…!と復讐の炎を胸に秘めハーグはトールの肩をあやすように叩いた。



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