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守護獣様のお気に入り  作者: へけけ
13/20

4-3


トントンと部屋の扉を叩く音がして、暫くするとレーネが声をかけてくる。

「お嬢様、失礼いたします。夕食の支度が整いました。」

ドアが開かれると、ふわっと香ばしい香りが漂ってきた。配膳ワゴンの車輪がコロコロと回る度に、ナディのお腹が絞られてるように空腹を訴えてくる。

ティーテーブルの上にでていた紅茶のセットを手際よく片付けて、小さなテーブルに所狭しと食器が並べられる。目を丸くしながらナディが尋ねれば、

「此方で召し上がって頂いた方が気兼ねなくてよろしいかと」

おほほほなんて、どこかの淑女のように笑っている。

どこの令嬢が部屋で知り合いと食事をとるというのだ。まったく。

トールにも失礼ではと思いトールを見れば、レーネが並べているカトラリーや配膳ワゴンが気になるのか、やけにキラキラした顔でキョロキョロと視線を動かしている。まったく心配いらなかった。返して欲しい心配した気持ちを。


「トール様、ごゆっくりどうぞ」

普段の夕食よりも2倍は贅沢な前菜とスープをテーブルに並べて、レーネは配膳ワゴンと共に次の料理を取りに戻った。これはメインも凄いものがでてくるぞ。思わず自然と上がる口角に気恥ずかしさを感じ、コホンっと喉を鳴らして誤魔化した。

「いただきましょうか」

言いながらくすくす笑われているところを見ると誤魔化したのはバレていたようだ。


「ナディこれは何ですか?」「レーネさん、凄く美味しいです」「これは何という魚ですか?」

トールはとてもはしゃいでいるように見えた。

楽しそうに笑い、あれこれ聞きながらもぐもぐと食べている。

「なんだか楽しそうですね」

メインの肉料理を切り分け、一口サイズのそれを口に含む。噛めばじゅわっと肉汁が溢れてくるので、頰を抑えてうっとりとしている。そんなトールにふと聞いてみたくなった。

問われて驚いたのか眉を跳ね上げ目を丸くして、ごくんと呑み込んだ。

「…僕は誰かと食事をしたことがなくて」

眉を下げて笑う顔に、ナディは後悔した。とても寂しそうに見えたので聞かなければよかったと。

「家……というかまぁ、家には僕以外家族の者はいないんです。」

「ごめんなさい、変なことを聞いてしまって」

ナイフとフォークを置き、トールに向かって思わず手を伸ばした。

伸ばした手が捕まってぎゅっと手を握られる。

暖かく大きな手。

「貴女とする食事は、とても楽しい。」

目を細め、真っ直ぐ見つめてくる。先程までの困った顔よりもずっといい。胸や胃の奥が、ぎゅうっと締められているように痛いけれど。

「……我が家は騒がしくて落ち着きませんが、良かったらまた一緒に食事をしましょう。」

「わあ、すごく嬉しいです」

手をぱっと離され、トールは胸の前で手を合わせている。握らていた手をゆっくりと引き戻して、ぐっと一度閉じてから食事を再開した。






いつぞやの従者がカシュイン家の玄関に馬車を着けて、トールを迎えにやってきた。

「今日はご馳走さまでした。」

ぺこりと頭を下げて、レーネと握手をしてる。

秋の夜は少しだけ肌寒くなってきている。もう少しすれば冬がやってくる。

「ナディ。」

呼んだトールはとても真剣な顔をしている。今まで見たことがない程。

「……」

何か言いづらいのか、眉根を寄せ口を開いては閉じて。手は拳を握ったり開いたりと落ち着かない。

ナディは首を傾げトールが話し出すのを待った。



やがて、

意を決したかのように紫の瞳に淡く力が宿り、真っ直ぐナディを見つめてきた。

「ナディ()()()()()()()()()


汝、困難に立ち向かう時、我、守護の力を与える。

汝、強く望む時、我、この力あらん限り。

汝に忠誠を尽くし、我、これを遵守せり。

求めよ、さらば与えられん。」


トールが白く光る二本の指をナディの額に触れた後、自身の額に当てる。ぽわんと白い光が一本の線となりナディとトールを結んだ。一瞬トールの額に魔法陣のような印がみえた気がした。

光はやがて消えるようにして二人の額に溶けていった。

いつものニコニコした顔ではなく、目を細め口角を上げてナディを見つめる。紫の瞳はその瞳の奥がキラキラと金色に輝いているようにも見えた。なんて綺麗なんだろう。

「求む。と」

こんなトールは今まで見たことがない。

「も…求む?」

途端ナディの体の中をキィーンと音を立てて何か、まるで稲妻に打たれたような衝撃が走り抜けた。

その衝撃にナディは立っていることができなくなり、膝を折って地面に倒れこむところを、トールの力強い腕が抱きとめた。


「な、何を…?」

見上げれば、トールの身体の周りには白い靄が何重にも掛かっているように見えた。靄の周りにはまた白くて丸い光が大小たくさん浮かんでいる。

「トーリュシア様、おめでとうございます。」

従者が馬車から駆け下り、歓声を上げてトールの肩を抱いている。


暗くなる視界に堪えることが出来なくて、ナディは意識を手放した。



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