マリアとの出会い
放課後、いつもの日課として外の世界に狩りに向かう姫奏。
この頃は、夕方近くになれば日差しも傾きすぐに暗くなってしまい、屋外でのギルド員募集をする人もメッキリ減って寂れてしまった。
顔見知りのおじさんと挨拶を交わし、外の世界に続く門をくぐったとき、一人の冒険者と思わしき少女がヌメロドロと戦闘している姿を目撃する。
(初めて外の世界に来た頃が懐かしいな)
最弱のモンスターだと油断して戯れが過ぎて火傷してしまい、一緒に来ていた千雪に怒られたのがついこの間のように思う。
(この子も、あの時のわたしみたいに遊んでるのかな)
微笑ましく通り過ぎるつもりだった姫奏だが、なんだか様子がおかしい……、無抵抗にヌメロドロが少女を覆い尽くし完全に捕食の体勢になっている。
(本気で倒されそうになっている?)
「あの……大丈夫ですか?」
「あ……よければ助けてもらっていいでしょうか……」
これは大変だと、慌ててホーリーライトを放ち、うつ伏せで押し倒され殺されそうになっている少女を助ける姫奏。
少女は息を切らしながら、ふらつく体を杖で支えて、ようやく立ち上がった。
「はぁはぁ……、あ……ありがとうございます……ここまで何とか来れたのですけど、この辺が最終難関でした……」
「どこから来たの?」
「国名は覚えてないのですけど……戦争をしている国でしたね……」
服もボロボロで、相当の長旅だろうと予想はしたが、戦争をしている国は限られていて一番近い国でも高等部の猟区よりずっと離れている。
「ずいぶん遠くから来たんだね、道中のほうが敵強くなかった?」
「頑張りすぎて……ここで力尽きてしまいました……」
「そっかー、あるあるかもねー」
そんな場所から来た人がどうしてヌメロドロに倒されそうになっていたのか疑問に思った姫奏だが、自分自身も狩りに集中しすぎて帰りの雑魚にうっかりやられそうになった日もあったなぁと納得するのであった。
その時、姫奏と会話して緊張の糸が切れたのか少女がフラっと膝が折れ倒れこんでしまう。
とっさに体を支えてあげる。
「わわ、大丈夫?」
「うぅぅ……」
「今、ヒールするね……! ヒール!!」
ヒールを掛けるが余りHPが回復した感じでなく、かなり追い詰められた状況なのかもと焦りだす姫奏だが、次の瞬間気が抜ける音が聞こえてくる。
ぐぅぅ~……
(おなかすいてる……?)
その日の日課は諦めて、姫奏は、腹の虫を聞かれて赤面する少女をマニア城に招き入れた。
「助かりました、こんなご馳走までして頂いて……」
美競刃の食事をペロリと完食する、相当お腹が空いていたのだろう……。
「もしかして、ずっと食べないでここまで来たの?」
「はい……なんとかなると、思ったのですけど、やっぱり無理でしたね……」
「どこから来たんだい?」
「なんか戦争してる国らへんからだって」
美競刃が少女に質問するが、先程同じ事を聞いたばかりの姫奏が代わりに答えたのだった。
「うへ~、そりゃあお腹すくわ……」
「ほんと、なんか食べないと死んじゃうよ」
「それ、おまえが言うなってやつだからな……」
普段何も食べないで液体栄養補助食品ばかり口にする姫奏にツッコミを入れる。
「私は一日の必要栄養素は確保しているからね」
「はいはい……」
姫奏は空腹感というものが無いのか…とおもう美競刃であった。
一区切りが付いたのを見計らって、倒れていた少女が自己紹介を始めた。
「このたびは助けて頂き有難う御座いました、私は阿邊マリアと申します……」
丁寧な自己紹介にお互いに名乗る事をすっかり忘れていた事を思い出す。
「私は、八祇間姫奏」
「料理を作った茎放美競刃だ」
「マリアはこの街に何しに来たの?」
相当な長旅を越えてここまで来るにはそれなりの意味があるんだろうと好奇心を刺激されウキウキしながら尋ねる姫奏。
「この街に、とても強い人たちが集まっていると噂を聞いたので来たのです」
「強い人?」
「この世界で最も強い魔女さんだとか……人間界の神様がいるとか……」
「そんな人がいるんだ、初耳だよ」
「そうですか……」
「強い人にあって何をするんだい?」
「えっと……どれくらい強いのか見てみたいというか……」
「腕試しをしにきたの?」
「あ……はい」
ヌメロドロに勝てないくらい弱いのに、この子凄いなぁと思う姫奏さんであった。
――その時、千雪が風呂からあがり寄って来た。
「姫奏ちゃんもう帰っていたの?あれっ…お客さんっっ」
おもいっきりパジャマ姿だったので恥ずかしくて姫奏の横に隠れる千雪。
「阿邊マリアです、先程姫奏さんに恥ずかしい所を助けて頂いたんです……」
「そうなんだ、姫奏ちゃん偉いね、無視して狩りに行かなかったんだね」
「……もしかしてなぞなぞの件怒ってる?」
「そんなこと無いよ」
だが得意げに微笑む千雪だった。
「マリアさんはこの街に何しにいらしたんですか?」
千雪が質問するが、先程のようにもう聞いた質問なので姫奏が代わりに答える
「マリアは、ヌメロドロに勝てないのに最強の魔女って人倒そうとここまで来たんだって」
「うう……」
「姫奏ちゃんの言い方だと身の程知らずみたいに聞こえるよ……」
「いえ……確かにその通りなんです…私本当に弱くて……」
「けど、道中は戦ってここまで来たんでしょ?」
「いえ……正確には自分では戦わないで逃げてきたようなものです……」
「一度も戦ったこと無いの?」
「はい……戦おうと思っても、相手の人も一生懸命生きてるんだと思うと手を出せなくて……」
「もしかして…それで“ヌメロドロ”にも一方的にやられてたの?」
「……はい……弱い敵だと余計に倒せなくて……」
「ちゅきとは違う方向性で戦えないんだね」
「ちゅきさんも戦ったことがないんですか?」
「うん……」
「うわぁ…じゃあ一緒ですね♪」
千雪の手を取って嬉しそうに顔を近づけるマリア。
なんだか恥ずかしいような照れくささを感じる。
「では、色々有難う御座いました、私はここら辺で失礼しますね」
「泊まっていけばいいのに」
「そうそう、長旅で旅館も予約してるわけじゃ無さそうだし、家で良ければ一泊していくといいですよ」
姫奏と美競刃がマリアを引き止める。
「よろしいんですか?」
快く宿泊を提供してくれる姫奏達の好意に甘え、マリアはマニア城に宿泊することになった。
と、いうより、姫奏自身マリアの話を聞きたかったのだ、遥か遠くの国から来た少女からどんな話が聞けるのか……地元からまだ出たことのない田舎者の姫奏には興味の対象でしかない。
「そうだ、お風呂一緒に入ろうよ、私まだだからさ」
「そうですね……お風呂助かります」
「私ももう一度入ろうかな……」
マニア城の露天風呂で少女3人が星空の下湯船で温まる。
マリアに旅の話を聞いたり、誕生日だったり血液型だったり他愛のない話をしながら談笑していた、そして姫奏が先ほどの話の続きをする。
「そういえばさ、マリアはどうして強い人達と戦いたいの?」
すこし呼吸を置いてマリアが語りだす。
「私は……、この世界が戦いで終わらないのは、強き悪がのさばっているからだと思うのです……戦いのない平和で穏やかな世界を創るには、弱くて力のない人の為に強い人達を倒して……。
神の裁きも…この世の正義もあてにならないから……私が無の裁きを下していこうと思ったのです……」
「そうなんだ、けど強い人にも善人がいっぱいいるよ」
笑顔でいう姫奏に真剣な顔で語るマリア。
「果たしてそうでしょうか……強い人っていうのは本当の意味で弱い人の気持ちは解らないと思います……私は弱いから、弱い人達の立場から戦っていきたいんですけど……どう戦っていけばいいのか解らない時もあります……」
「マリアも悩んでいるんだねぇ……あ」
マリアの話をものすごく共感している感じで千雪が聞いている。
思い当たる節がいっぱいあるのだろうか……。
その様子に気付いたマリアが千雪に話し掛ける。
「ちゅきさんも戦わない理由があるんですか?」
「あ……」
「それ私も聞きたい!!」
姫奏も身を乗り出して聞いてくる。
「う……ん……私も、穏やかな日常というか……戦いのない平和な世界に憧れているけど……」
「けど……?」
「私は、強い人まで倒すことはないと思う……」
「どうして?」
訝しげな顔で聞き返すマリアに姫奏が間に入って答えた。
「強い人っていうのは、それだけで生きていけるからね」
千雪の言いたい事を言い当てたようで納得する千雪。
「あ……まぁそういうことだね……」
二人の考え方がいまいち理解できないマリア。
「私がさっき言っていたこと聞いていたの?」
「聞いていたよ、けど強い人って心も強いからさ、弱い人も守ってくれるよ。だって、強いんだからね、守る余裕があるってことだね」
「納得出来ないです……」
「マリアのいう強い人って、実際には弱いんだよね、要するに弱いものいじめしか出来ないくらい弱いんだからさ」
「…………」
マリアが黙ったまま口を隠し熟慮している。
「姫奏さんは……強い人なんですね……」
「ん……?」
「すいません……先に上がりますね」
千雪と姫奏を置いて一人湯船から上がり出て行くマリア。
「なんか怒らせちゃったかな……」
千雪と姫奏も上がり、マリアを追いかけるが、そのまま城を離れて出て行ってしまったようだった。
◆
近場を探したが、もうどこにも居ない。
「ちゅき、湯冷めしたら風邪引くよ、もう帰ろう……」
「うん……」
マニア城に戻り、そのまま今日は入床することにした。
「マリア……怒っていたよね、私変なこと言ったかな……」
姫奏が自分の発言を思い出し何が悪かったのか考えこむ。
「姫奏ちゃんは悪く無いと思うよ、ただ考え方の違いだと思う」
――そうかなぁ……と思いふけるが考えても自分で答えは出なかった。
だが千雪はすこし引っかかる場所があった。
―――強い人っていうのは本当の意味で弱い人の気持ちは解らない。
けど、姫奏は違う……その誤解が解ければマリアとも仲直りができる日が来る……。
そう思って千雪は眠りについた。
だが、姫奏は入床した後も、ずっと考えていた、こうなると眠れないのだ。
元々この時間は狩りに出ている時間だしそれもあるのだろう……。
(だめだ……眠れない……)
千雪を起こさないようにゆっくりベッドからでて、着替えて狩りに出ることにした。
どうせ眠れないなら少しでも強くなるために狩りに行く。
その様子を見守る影があった、マリアである。
「やっぱりあなたは、わかっていない……あなたの言う守るものに何故モンスターも含めてあげないの? 自分が強くなるための贄としかあなたは思わないのね……なら思い知らせてあげる……モンスターの……亡魔獣の力を!」
姫奏が外の世界に通じる門を通り抜けた刹那、出る世界を錯覚する程に異質な空間に取り込まれる。
「ここは、どこ……?」
心もとなく漏れる声は静寂に消される。不安を募らせながら様子を確かめるように慎重に進む。
空の色は無造作に絵の具を散りばめたように禍々しく歪み、普段の新鮮な草原の匂いと違い、鼻腔をつく生々しい匂いはイヴの放つ悪臭に似ている。
「何かいる……オーラーティオ!!」
ホーリーライトによるサーチセンサーでは察知できない敵の気配を感じた姫奏は、範囲内にいる敵の魔法耐性を減少させるスキルを使用する。
このスキルは、効果範囲が非常に広範囲であり且つ、障害物を貫通することができ範囲内の全ての敵に光の烙印をつけるというマーキング効果があるため、姫奏はそれを索敵能力とし応用した。
「見つけた!! 地面!?」
大地に隠れ潜んでいる見えない敵にオーラーティオの光の烙印が刻まれノーマークだった地表から光が漏れだす。
敵は既に姫奏を攻撃対象に捕らえており、先制攻撃が仕掛けられる。
地面が爆ぜ飛ぶように膨れ上がり、巨大なモンスターの口が姫奏を飲み込もうと迫っていた。
「――――っ!!」
揺らぐ地面に体勢が崩れながらも、必死のバックステップで間一髪敵の奇襲を躱す姫奏、しかし、敵は一気に地面に潜り込んでいくため、巨大なモンスターの横腹を目で追っているだけで反撃のタイミングが掴めないでいる、仕方なく敵の情報を詮索していた。
周囲を観察し、オーラーティオの光を追っていくと、姫奏の近接した地面が急激に膨れ上がり、モンスターの体の一部が現れる、生き物の大腸をそのまま剥きだしたような外観で黒い血の様な粘液で覆われた醜怪な容貌。
「まさか、これは……ガイアクレランサが現れたの!?」
〈ガイアクレランサ〉世界を旅する冒険者の中で最も恐れられている伝説級モンスター、過去に大規模な討伐隊が結成されたが、その凶悪な力を前に多くの兵士が殺されていった。
討伐成功例が非常に少なく確立された攻略法はまだない。
「これは、気を引き締めてやらなきゃ、一瞬で死ぬかもね……ホーリーライト!!」
自身に対し、ホーリーフレーム、速度増加、魔力増加の強化支援を掛け、ホーリーライトを複数回使用し、サーチ用に光を纏って攻撃用に光剣を用意する。
予想通り、死角からガイアクレランサの赤く腫れ上がった胴体が飛び出した。
「ここだっ!! ホーリーライト切り!!」
姿を表したガイアクレランサの体節をタイミングよく切り裂くと、骸の腐った様な液体が傷口から溢れだした。藻掻き苦しむ様に体節が震え始め、その振動で姫奏を巻き込み体当たりの反撃を仕掛けてくる。
不規則に動く攻撃を冷静に見極め距離を詰めていく、今の斬撃で大よその敵のHPと与える必要ダメージ量が見えた。
「確殺予想攻撃回数7回、行ける!!」
姫奏が持てる全ての攻撃力を凝縮した光剣は、光の属性を持つ宝剣級の力がある。
聖職者のjobなので剣技はまだまだ未熟だが、元のホーリーライトからは程遠い余りある攻撃力によってゴリ押しが可能になっていた。
一方ガイアクレランサは、ピタリと張り付いて一方的に斬撃を放ってくる姫奏に、傷口から溢れる黄色の体液を浴びせれば、その巨大な口から粘着性の高い涎が吹き出し、大気を震わせる程の咆哮を轟かせた。
「うぐっ……ヤバイかも!!」
ガイアクレランサの体当たりをバリアで回避してきた姫奏だが、巨大な胴体を切り裂いた時にでる大量の血飛沫までは避けきれなかった、その体液こそガイアクレランサが過去の冒険者を容赦なく葬り去ってきた致死性の猛毒。
加えて、劈く様な咆哮は怒りによる攻撃力の上昇と全ての生物を竦ませてしまう力がある。
その結果、一瞬の恐怖に体が強張り自身の攻撃ペースを止められたことで脳内麻薬が途切れ回り始めていた毒が牙をむきだした。
「胸が……苦しい……ッッ!!」
鋭く痛み始めた胸の苦しみに、奥歯を噛みしめて耐えしのぐ。
触れた皮膚も灼ける痛みを感じさせるが、ヒールによる治療で直ぐに解消された。
しかし、内部を破壊する毒はヒールの対象外であった。
隙を見せた姫奏に、ガイアクレランサは巨大な顎を大きく仰け反らせた瞬間――。
「っく!? 避けきれない」
姫奏の眼前一杯に広がる灼熱の焔弾。
ガイアクレランサが吐き出した火球をもろに受けてしまう、それは毒によって蝕まれた肉体にとって容赦無い一撃だった。
「早く、勝負を決めないと……」
毒により衰弱していく体をヒールで無理やり活を入れ動かしていく、戦歴から例え死にかけていてもHPを維持さえすれば気力で生きていられる事を知っている姫奏は、この時、生き残るために全力で自身のHP管理を徹底していた。
だがしかし、その計算を狂わせる第2の刺客が背後から迫る――。
「うそっ……2体目!? ぐうっ」
先ほどのガイアクレランサ咆哮によって、他のガイアクレランサが呼び出されてしまった。
伝説級のモンスターが一度に2体現れることなど前代未聞であり、姫奏が予想できる範疇を超えていた。
新しく現れたガイアクレランサは、身をよじり甲高い声で叫ぶと、今度は火球でなく電撃を発生させたのだった。
「そんなっ、なんでもありなのコイツ!?」
持っていた光剣を地面に突き刺し、咄嗟的に避雷針を作り上げ電撃の直撃を避ける。
それでも余波による痺れと、毒の痛みによる2重の圧力が姫奏の動きを着実に縛り上げていった。
「今決めないと、死ぬ……!!」
短期決戦しかない。
ダメージ計算をして、ヒールの延命をしながら戦っている場合ではないと直感する。
それからの姫奏の動きは、一切の無駄がなく即時的に行われていった。
「やあっ!! どうだっ!!」
初めに戦っていたガイアクレランサに、光剣化したホーリーライトを飛ばし止めをさすと、2体目のガイアクレランサに直ぐ様、標準を合わせる。
戦場は、暴れまわるガイアクレランサによって崩落した窪みや、噴出された大量の体液でできた泥濘に歩くだけでも危険な状態になっている。
(自分から行かなくても、次は必ず向こうから来る)
続けざま同じ種類の敵と戦うことでガイアクレランサの行動を先読みし、小さく深呼吸をし、光剣を構える、迷いなく立ち止まる姫奏に丸く割れた巨大な口が疾風の速さで迫る。
姫奏は、迫り来る死の恐怖を物ともせず、ギリギリまでその動きを見極め……。
「今だっ――!!」
身を翻しガイアクレランサの一撃を紙一重で躱すと同時に、目の前を通過したばかりのガイアクレランサに飛び移り、頭部と胴部の隙間に渾身の力でホーリーライトの光剣を捻り込んだ。
「やあっ!!」
容赦なく連続で光剣を繰り出し、苦しげな声がガイアクレランサの口から響いた。
トドメの一撃を与えた後、素早く飛び降り、ガイアクレランサはそのまま崩れ落ち、地面に叩きつけられ動かなくなった。
(倒せた……)
息を荒げて、近くの木に凭れ掛かる。
必死に気絶寸前の意識を保ち、残り少ない魔力を使いヒールによる回復を図る。
「はぁ、はぁ……、ホーリーライトで魔力を使いきるなんて、光剣の燃費悪いなぁ……」
ホーリーライト自体は消費魔力の少ない攻撃魔法だが、光剣状態にするには精神的な摩耗が激しいようだ。
「そうだ、毒消し持っていたかな……普段使わないからなぁ……う~ん」
ガイアクレランサの毒が治療できるかは不明だが、鞄の中を弄り毒消しポーションを取り出す。
ずっと前に常備しておいた薬なので消費期限を気にしながら一口啜ると、胸の痛みが引き出した。
「ふぅ……よかった。毒に掛かっている間は、魔力回復しないのか……一つ賢くなっ、た」
その時、姫奏が寄りかかっていた大木が落雷にあって引き裂かれた。
「危ない……、って……また敵!?」
疲労困憊、休む間もなく新しいモンスターが襲来し囲まれてしまう。
「翼目か……また面倒くさそうなやつが来たなぁ……」
上空に幻想のように佇む巨大な目に翼の生えた不気味なモンスターが3体。
姫奏にとってこのモンスターも初めて戦う相手だが、マニア城の図書館のおかげでどのような敵であるかは熟知している。
「あかなめの逆……、魔法に強くて、打撃に弱い敵……」
遥か上空で安置から姫奏を睨みつける翼目。魔法職である姫奏が己にダメージを与えることは出来ないと余裕を見せている。
光剣によるダメージが通るかが鍵であるとわかっているが、先ほどの戦闘で光剣を作り上げるだけの魔力が足りず、回復に手間取っている。
試行も許されず、翼目の眼光が強まり、鋭い電子砲が姫奏を襲った。
「――っ!! オーラーティオ!!」
頭頂目掛けた攻撃を躱せば、その先に落ちた雷槌が爆ぜると小さなクレーターが出来上がった。
直撃すれば痺れる程度じゃ済まされない破壊力、のんびり魔力を回復する隙すら作れず防戦一方の姫奏が出来たことはオーラーティオによる照準を定め状態のみ。
翼目は、素早く攻撃を躱す姫奏に痺れをきらし、高度を下げ確実に狙いを定め仕留めようとしてくる。
「ふふ、来てくれてありがと」
接近した翼目を一気に仕留めるためにギリギリまで魔力を温存し回避に専念していた姫奏。
光剣を素早く展開し、弓状に構える。
「それえっ!!」
光剣を矢にして3体の翼目を素早く射抜いていく。
あかなめの逆パターンの敵という情報通り、一撃で倒されていく。
オーラーティオはただの属性耐性減少でなく、マイナスまで耐性を下げる性能があり、純粋に威力を倍にするスキルとしても活躍するらしい。
「オーラーティオ強いなぁ……助かった……」
翼目を倒しきった時、丁度姫奏の魔力は空になった。
狙いを定めるのが困難なのは姫奏も一緒であり、そのために最初の翼目を倒した時、警戒され再び上空に逃がすことはどうしても避けたかった。
3体同時に仕留める必要があった姫奏は、短期決戦の為にオーラーティオを使用し確実に一撃で倒せる状態を作りあげなければならなかった。
射抜かれた翼目の羽根がヒラヒラと落ちてきた。
(明らかに、わたしを狙ってモンスターを送り込まれている……次の敵が来る前に今日はもう急いで帰らなきゃ)
離れた場所で姫奏の戦闘を見つめるマリア。
「強い……あのモンスターはこの地上で最強だったはず……、あの子にはもう普通のモンスターでは太刀打ち出来ないってことなのね……イヴ様の障害になるまえに今度こそ私が……」
姫奏打倒に闘志を燃やすマリア、その時マリアと共に観戦していたイヴがマリアを引き止める。
「……わかりました、イヴ様がお止めになるなら……今は見逃すことにします」
マリアは残心の表情で姫奏を見下ろした。
「八祇間姫奏、弱い敵ばかり倒しているだけかも思ったけど、強い敵も倒せるんですね……貴女に敗者の気持ちを分からせたかったのに残念です……けど弱いものが本当に弱いとは限らないことを、いつか必ず私が思い知らせてあげますね……」
マリアとイヴが闇に溶けるように消えると、異空間が元に戻り、普段の狩場の光景が広がった。
「あ、空の色が戻った……ヌメロドロとかいる……」
お馴染みの敵が闊歩している姿をみて安心する姫奏だった。
次回予告
死闘の末ガイアクレランサを倒した姫奏、その話を部活で聞く石本
強くなりすぎた姫奏と自分の力量差に落ち込んでいた時、その心の隙に入り込もうと闇が迫る。
マリアを崇拝する狂信者達の宴
石本は自我を保ち自分の心を信じることが出来るのか?
次回弱き者へのまなざし




