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それぞれの想い

 千雪は一人置いて行かれてしまった。

 居候を初めてもう半年ほど、もう殆どマニア城の住人になりつつある千雪。

「あれ、ちゅきさんどうしたの?」

 美競刃さんが声をかけてきた。


「なぞなぞの相手探しに姫奏ちゃん出て行っちゃった」

「オレにもさっき言ってきたぞ、上は洪水だかなんだかって、あいつの頭は未だに小学生で止まっているんだな……」

「ははは……」

「ま、初めての遊び相手が出来たんだから仕方ないか……」

「え……?」

「なんでもないよ、それよりさ、ハゲ見かけなかった?」

「ハゲさんですか?」


(ハゲと呼ばれている人は、このマニア城の住人の人だ、姫奏ちゃんも揃ってハゲって呼んでいて、てっきりそういう名前の人だと思ったら、本当に禿げているからハゲって皆呼んでいるだけだった…ちょっとここの城の人達の仲間意識が解らない、それだけ信頼しあっているってことなのかな?)


「あいつ、鉄道マニアだからさ、今度電車に乗る予定ができたから時刻表とか色々聞いとこうと思ったのだが……出かけているのだろうか……」

「わからないです……」

「そうだよなぁ…もう少し探して見つからなかったら自分で調べるよ」

 そう言って美競刃さんは城の奥の方へ歩いて行った。


 ―――上は洪水、下は大火事なんだ!


「答えはお風呂か……そうだお風呂に入りに行こう」


 マニア城には、けてマニア拘りの温泉が引かれており、様々な泉質の温泉が楽しめるようになっている。


 温泉以外にも、アミューズメント施設や動物園、植物園、水族館まであり、一部は一般開放されているが、マニアック過ぎて一般の人の受けは悪く地元大学の教授などがよく来ているようだ。

 実のところ千雪は温泉が大好きで、このマニア城に来て以来怒涛の勢いで広大な面積を誇るマニア城の温泉を制覇していった。

 こんなにいい温泉があるにも関わらず、姫奏といえばシャワー浴が多く勿体無いとヒートアップしたこともあった。

 姫奏に言わせると、このマニア城には現在21名のマニアが住んでおり姫奏以外は皆男性の入居者の為、共同入浴場である温泉がゆっくり浸かれない上に広すぎる温泉を一人で貸しきるのも気が引けるから、簡単にシャワーと温まる程度に一番出入口付近の温泉で済ませていると言うのだ。


「ここに入れば温泉旅行を一度に出来るくらい贅沢なのに本当に勿体無い……」


 千雪のお気に入りは、源泉掛け流しの露天風呂、無色透明な単純硫黄泉、泉質というより、露天風呂の岩の配置が大変気に入り、千雪が丁度収まる事が出来る窪みがある岩を発見していらい。

 その岩の窪みに揺りかごのように包まれながら、流れる星の数を数えつつゆっくり浸かる事が千雪の入浴スタイルになっている。

 一度そのまま寝てしまい早朝姫奏が明けの狩りから帰った時寝室に千雪が居なく大捜索が起きたことがあった。


 その時千雪を見つけたのが姫奏でなく、マニア城の管理人という人だった。

 マニア城の管理人さんは、隠密マニアで常に姿を見せないでこの広大過ぎるマニア城を一人で管理している凄い人だ。

 そんな事件があって以来、千雪は姫奏の次にこの管理人さんと仲が良く、時々交流をするようになった。

 だが、隠密マニアなので姿を現さず会話は何時も矢文という面白い人だ。

 会話が苦手な千雪なのでこのやりとりは結構気に入っている。

 今も入浴の際に『長湯はお気をつけ下さい 管理人より』と手紙が届けられたばかりだ。


 1時間ほど温泉を堪能してホクホクしながら姫奏の部屋に戻る途中。


「こんばんは」


(あ、美月さん)


 美月光がマニア城にやってきた。

「お、ちゅっきーじゃないか、やっしーは夜狩りに出かけたの?」


(この人は名前を伸ばすことに拘りがあるみたい)


「うん、私がなぞなぞ苦手だから怒って早い時間に行っちゃった」

「ハハハ、やっしーはちゅっきーの前ではホント子供だなぁ」


「びっきーさんは姫奏ちゃんに会いに来たの?」

「いや、おいらはあかなめに会いに来た」

「あかなめ?」

 ―小等部の頃の事件を思い出す。


「この家にあかなめがいるの?」

「ああ、前に生徒会のサモナーさんが召喚したあかなめを暖綜乃笹錦(ノヘノササニシキ)で切って以来仲良しになってね」


 美月の暖綜乃笹錦は、邪心を切る霊刀で以前生徒会の人間と戦闘した際に召喚されたあかなめがここマニア城で保護されているのだ。


「ここの町の人たちは、あかなめにいい思い出がないからね」

「うん……」

「だから、おいらはあかなめと旅に出ることにした」

「え?」

「いつまでもここで匿って貰うと悪いしね」


 シャトレーヌ学園の小等部の実戦訓練で生徒を皆殺しにしたあかなめをマニア城で匿っていることがバレてしまえば、世間からのマニア城の評判は悪くなるだろう。


「もしかしてもう旅立っちゃうの?」


 美月の表情が淋しげな顔になる。

「……ああ」

「そうなんだ、部活寂しくなるね」

 ―――おいらが守っていくよ、やっしーが作り上げた聖域を―――


「あれだけ大口を叩いておいて……身勝手な話だよな…」

「え?」


「あかなめを迎えに行ったら、そのまま旅立つ予定だよ」

「うん」

「最後まで一緒に戦えなくてごめんって…伝えといて欲しい」

「うん」

 ピンチの時は助けに来るといい美月は、そのまま旅立っていった。


 また一人取り残されていく千雪。

「…………」

 兄のユウユの言葉が脳内に響く。


 ―――戦う意志があるなら傘をもって戦え!


「皆戦っているのに…いつも私は……」

 千雪は生まれてこの方戦闘で敵を倒したことがない。

 戦う意志がないわけではない、だが戦闘で倒す意味がわからないのだ。


「戦わなくても、済む世界……」

 穏やかで、平穏な日々、それが千雪の願い。

 傘はその願いを実現するために必要。

 激しい怒りのはけ口を受け止める力が傘にはある。

 ケンタとの戦いがそれを証明したと千雪は思っている。

 どんな人でも、気持ちは届き通じ合えるという夢みたいな話。


「優しい世界を目指すこと……それが私の戦いなんだ」



 ◆



 静寂に支配された外の世界。

 美月があかなめを連れて千雪達が住む町から離れた先。

 その静寂をかき消すように物音が近づいてくる。


(亡魔獣か……)


 何かを引きずるように、ズルズルと音を立てながら美月に近づいてくる。

 後ろを警戒しながら振り向かず、少しでも町から離れようと歩く。


 やがて物音がとまり、仕掛けてくる…と構えたその時。


 その亡魔獣は既に美月の足を掴んでいた。


「足ヲ……クレェ~!」


 上半身のみで下半身がない亡魔獣。


 ―――これは!?


 全ての亡魔獣が五体満足で産まれてこられるとは限らない。

 中には繭の中で成長途中トラブルが起き形成が行き止まり未完成で生まれてしまうものがいる。

 この亡魔獣がそうなのだろう、中途半端に伸びた腕は3本あり、うちの一本はどこから拾ってきたかわからない誰かの足を未練がましく持ち歩いている、下腹部からの下部が作られる途中で繭から出てしまったのだろう、塞がれることのない身体から体液を垂らしながらここまで匍匐しながら来たのだ。


「足ヲ……クレェ~!」

 半身の亡魔獣が美月の足に食らい付こうと牙を剥き出す 瞬間――あかなめが亡魔獣の頭を踏みつぶした。

「あかなめ……」

 潰された脳漿、頭蓋骨が砕かれたことで。

 亡魔獣の目玉がコロコロと転がり美月を睨んだ…。

 だが、亡魔獣は死ななかった。


「うそだろ……」

 頭を潰され3本の腕を残しただけの亡魔獣が2本の腕だけで起き上がる。


「…………」


 しかし、痙攣しだす腕が体を支えきれず倒れてしまう。

 やがて動かなくなる亡魔獣。…死んだ。


 ・・・・・・

 ・・・・・・


「こいつらも……生きてるんだな……」


 この星の生物を滅ぼすために生まれるという亡魔獣の矛盾性を美月は感じていた。

 もし亡魔獣が自身の願いを成就し、この星の生物が絶滅した後、この亡魔獣は何を目的に生きるのか?

 亡魔獣には一つの概念のみが行動理念となり行動しているという。

 願いを叶えた後は自殺でもするのだろうか?

 ならば、その生誕に意味があるのか?

 美月は自分の愛刀を握りしめ、もし亡魔獣にも良心が存在するならこの刀で救うことが出来るのではないだろうかと、いや、この考えも結局は自分の妄想で自分勝手な思想の押し付けだと解る。

「それでも……おいらは……」


 モンスターでありながら友だちになれたあかなめをみる。

 あの凶悪なあかなめも、今は頼りになる仲間になれた。

「亡魔獣にだって……いいやつはいるはず……」

 半身の亡魔獣の残った体を霊刀暖綜乃笹錦で切る。

 体に染みた悪い霊魂を成仏させるためだ。


「これで、次に生まれるときは良い霊魂として生まれてこられるよ」


 美月、あかなめ、そして石本がいずれ加わり最後にこの世界の生命の樹の精霊が美月のパーティーに加わる事になる。

 この世界を裏で支える闇の四天王の美月として後に語られるようになる

 その話はまた別の機会で語られるだろう。


 次回予告

 日課の夜狩りをする姫奏、道中に最弱モンスターに襲われる少女と出会い助ける

 彼女の名前は阿邊マリア。

 この世界の強き悪を倒そうとするマリアと姫奏の運命の出会いが交差する。

 次回、阿邊マリアとの出会い


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