吸引の亡魔獣 掃除機象
四足の生き物のような機械のような“なにか”が歌っている。
「ぼっくっは、掃除機~掃除機象~♪ おっ鼻が掃除機で~♪ 体が象さん~」
「うわぁ、みてみて~♪ かわいいゾウさんが歌ってる~!」
子供サイズの象で鼻が掃除機という奇怪な姿をした亡魔獣。
見た目はかなりラブリーな感じで、見かけた民間人が珍しさと可愛らしさで写メを撮ったりして賑わっている。しかし。
「みんな吸い込んじゃうゾ~♪」
背中のスイッチを押して掃除機象が吸引を初めだした。
吸い込まれたが最後、宇宙のチリとなってしまう凶悪な能力をもっているのだ。
「ぼっくっの体はブラックホールっ♪ 吸い込んだものは別宇宙行きだゾ~♪」
「うわ~~助けてー吸い込まれるーっ!」
民間人が吸引されるその時――!
掃除機象が敵の気配を察知し掃除機の吸込口の形をした鼻を持ち上げて敵の攻撃を受け止める。
「おー便利な鼻!」
姫奏の光剣を振り払い、掃除機象が歌い出す。
「ぼくの鼻は掃除機だよ~君のことはしってるよぉ~イヴ様の敵のマニアの子~♪」
「あのヨークサイテリアがラスボスだったとは私も驚いたよ」
午後の陽気な日差しに鼻歌を歌いながら掃除機象が自分の背中のスイッチを再び起動して吸い込みを開始しだす。
「うわっ、そういう仕組なんだ…」
魔法の杖を取り出し、スイッチに向かってホーリーライトを放とうとする。
「今だゾ~!!」
キュピ~ンと掃除機象の目が輝いたかと思うと、異常なレベルの吸引力が杖に集中し、掃除機象の鼻に吸い込まれてしまった。
「あーーー私の杖!!!」
ゴクンと飲み込まれてしまった。
「……」
「魔法使いは杖がないと攻撃魔法が使えないのも知ってるゾ~勝負ありだゾ♪」
「くっ……退却!」
テレポートの呪文で一時撤退をする。
◆部室にて
「えっ……魔法の杖無くしちゃったの?」
「……ちゅきー! どーしよー!」
千雪に泣きつく姫奏、正直大ピンチであった。
「あの杖がないと魔法使えないってわけではないよね……?」
「一応使えはするけど……威力が…」
ホーリーライトを撃つが、普段の光に比べるとかなり弱い。
「長年使い慣れた武器が損失とか結構キツイな……オイラもこの刀がなくなると寝込むかも…」
美月が自分の刀を抱いて同情の視線で見てくる。
「うぅ……」
「番長のあの杖そんなに強い武器だったんスか?」
「生まれてからずっとあの杖だったの……」
「うわ……そんなに大事に使っていた杖なんスね!」
そこに、笑いを堪え切れない様子のアン・シャトレーヌが部室にいきなり入り込んできた。
「ププ……あんた…杖、亡魔獣に吸われたんだってね……クスクス」
「ううう……」
「あの亡魔獣に吸い込まれたらもう回収できないわよw、別宇宙に飛ばされるみたいだからwww」
「ううう……」
「プププ……もうだめ……キャハハハハハ!」
目に涙を浮かべて腹を抱えて大笑いするアン。
「アンなんて大嫌いだー出てけー!」
その辺の筆箱やら鉛筆やらを投げつけてアンを撃退する。
「けど、本当にどうするの?」
「番長の杖の代わりって売ってたりしないんスか? っていうかあの杖なんて杖なんス?」
「私の杖は、蓄積杖っていうフツーの店売りの杖だから買おうと思えば買えるよ……」
「そうなんスか? なら買いに行きましょう! 善は急げっス!…あれ?」
動こうとしない姫奏に再度話しかける。
「もしかして……店売りでもすごい高い杖なんスか?」
「10円くらいの杖だよ……」
「やっす! なんスか? その投げ売り価格は!?」
石本だけが空気を読めず何も知らないので、美月が説明をする。
「蓄積杖っていうのは、使った攻撃魔法の威力を蓄積できる杖なんよ」
ふむふむ
「で、蓄積できるのは一つの攻撃魔法だけ」
ふむふむ
「他の攻撃魔法を使うと上書きされて前回蓄積した魔力もリセット」
ほー
「様々な属性を使い分ける魔法使いには全く使えない杖ってことよ」
なるほど……。
「しかも杖自体の魔法攻撃力は微妙」
は~……。
「番長はよくそんな杖で戦ってきたっスね……」
「私はホーリーライトしか使わないから相性は最高にいい装備なんだよね……」
「なるほど……」
「けど仕方ないから、また0から始めるしかないか……」
「さすが番長ファイトっス!」
わーーきゃーーーうーーーーひーーーーー!!
外から悲鳴が聞こえる。
「亡魔獣がでたぞー!」
ちなみにファイヤーさんのお陰で亡魔獣の存在は世間に知れ渡っていた。
部室の窓から敵を視認する、掃除機象だ!
「ちっ……まだ生徒が沢山いる、吸引されたらマズイことになる」
「にげた~マニアの子はどこかな~吸い込みに来たゾ~」
「私に用があるなら私が行く……!」
「番長! 武器もないのに勝ち目がないっスよ!」
「もう盗られるものがないっていうのも強みになるかもよ……行ってくる!」
「番長!」
「掃除機象! 私が相手よ!」
「現れたな、武器のないお前など吸引を使わなくても余裕だゾー」
掃除機象の鼻が圧力の変化でプウッと膨らんだかと思えば、強力な水鉄砲がビームのように飛んできた。
「うわっ!」
避けた先、水鉄砲が当たった場所が恐ろしい水圧でポプラの木をなぎ倒し、校舎をも破壊していた。
その威力に圧倒されていると、掃除機象が追撃を仕掛けてくる。
「僕は掃除機……機械のちからも持ってるんだゾー」
そう言うとコンセント型のしっぽを水鉄砲が放たれた水たまりに触れさせた刹那バチバチと紫電を放ち放射線に伸びた水の後を伝い姫奏に高圧電流が流れた。
「ッ……!?」
高圧電流が姫奏に襲いかかる感電によるショックで体が縛られ身動きがとれなくなる。
「今だゾ! とどめだゾ~!」
激しい濁流音と共に掃除機象の鼻から放たれた水鉄砲が姫奏へと殺到する。
「姫奏ちゃん危ないッ!!」
千雪が傘で割り込み掃除機象の水鉄砲を防ぐ。
「ちゅき!」
「お前も知っているゾ~その傘も宇宙のチリにしてやるゾ! お掃除開始だゾ~!」
姫奏がホーリーライトで光剣を作る、杖がなく大きなものは作れないのでナイフほどのサイズだが、それを投擲して掃除機象にあてる。
――カツン! カツン! と鼻で光のナイフ弾く。
「そんな小さなナイフ刺さるわけないゾ~それにぼくの体はチタン製、とっても硬いんだゾ~」
「ちゅきは逃げて、傘が吸われたら本当にこの先強いイヴの手下が現れた時だれも奴らからの攻撃を防ぐことができなくなる」
「姫奏ちゃんを一人戦わせるなんて出来ないよ!」
「そうっス! 俺たちも戦うっス!」
「みんな……」
「お前たち人間の馴れ合いなんて見たく無いゾー! お遊びはおしまいだゾーもうお前達をまとめて吸い込んで宇宙のチリにしてやるゾー!!」
掃除機象が怒ったゾー状態になり、吸引のスイッチを入れた時――。
遥か上空より高速で飛来する何かが飛んできた、その“何か”は空気との摩擦で赤熱し音速を越えて飛来した。
「な……なんか来るゾっ……グアァァ!!」
「あれは……まさか……!?」
掃除機象の体を貫通し、地面に大きなクレーターを作り突き刺さっている杖、高熱に耐え煙を出しながら凛とした姿で佇んでいる。
姫奏の蓄積杖が遥か彼方の宇宙から舞い戻ってきたのだ。
「な…なぜ……杖が戻ってきたンダ……ゾ…」
「いったい……どういうこと……?」
杖の持ち主姫奏ですらこの現状が理解できなかった。
「私から説明しましょう……」
振り向いた先には、“けてマニア”かみやふくべえがいた。
「姫奏さんの杖である蓄積杖は普通の蓄積杖ではありません、一つ魔法アイテムが付与された創作品です、杖先にある十字架がそうです」
けてマニアが指差す先、通常の蓄積杖には見られない装飾、白金の様に光沢のある十字架が備え付けられている。
「そうだったんだ……」
「その十字架は、“交差する運命の十字架”持ち主が生きている限り必ず持ち主の元へ戻る力を携えています」
「へぇ……なくならないんだ……忘れ物した時便利だね」
よく忘れ物をするので助かるなぁと軽く思う姫奏さん。
「あ…ありえないゾ……宇宙空間……しかも別次元の宇宙に破棄されたんだゾ……?」
蓄積杖によるダメージでスイッチ事破壊されてしまい後がない掃除機象。
「こうなったら……真の姿だゾ……すべてを暗黒の宇宙に葬り去るブラックホール……それがぼくの真の力だゾ!」
掃除機象の腹がヒビ割れた先の小宇宙から暗黒の球体が姿を表した。
「姫奏さん……あなたの杖で、やつを倒すのです……あなたの光なら大丈夫です」
「ハハ……何を言ってるんだゾ? ブラックホールは光すら吸収するんだゾ!」
高熱まだ冷めやまない杖を握りしめ、宇宙のエネルギーを蓄え戻ってきた杖……!
今までには感じられない底知れぬ魔力が燐光を放っている。
「これが、私の杖の力……!!!」
那由多の空より集めた星々の力が掃除機象のブラックホールを包み込んだ。
「バカな……こんな光……イヴ様――!!」
大爆発が起き掃除機象が消滅した。
「凄い……」
嘗て無い光、その光は既にかみやふくべえの力をも超えていた。
◆
遠く離れた先、掃除機象を倒した姫奏を見守る影。
その影に近寄り、けてマニアが声を掛ける、アン・シャトレーヌだ。
「姫奏さんの杖が戻ってくると判って意地悪を言ったのですね」
「まぁね、ただの蓄積杖に運命の十字架つけるとか、あの杖作った奴はほんとド変態マニアよ、どうせあんたが作ったんでしょ?」
「いえ、私ではありません」
「は? じゃあ……だれがあんな変態装備作ったっていうのよ」
「姫奏さんの、お母様…そしてお父様ですよ」
「え……ありえないわ、あの子の親はあの子が大きくなる前に死んだんでしょ?」
「自分の娘が聖職者になってホーリーライトを使うようになるって解ってないと到底できない組み合わせよ……それこそ未来がわかってないと……まさか!」
「はい、姫奏さんのお母様は“占いマニア”でしたからね」
嘗てこの星の未来を全て予言した伝説の“占いマニア”がマニア城にいた……。
「はー……誰だか分かった、そうあの人の子だったのね……」
思い当たる伝説の人物に納得せざるを得ないアン。
「はい、遺言で姫奏さんが大人になるまで秘密にするように言われていますので、アンさんも言わないであげてくださいね」
「はぁ……重たい約束ね……」
「おねがいしますよ」
「わかったわよ」
「ありがとうございます」
杖の先の十字架が輝くとき、交差する運命が姫奏を導く……!
次回予告
知識の亡魔獣クイズマンが勝負を仕掛けてきた
クイズでなければ勝敗を付けることが出来ない特殊能力を持つ新型の亡魔獣
姫奏との闇のゲームが始まる!
次回、知識の亡魔獣クイズマン デュエルスタンバイ(笑)




