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熱の亡魔獣ファイヤー

「最近さーなんか暑くない?」「アツイアツイ~なんなのこの暑さ」

「おまえの屁熱いんだけど?」「おれはミイデラゴミムシでない!」

 臭い上に暑い。

 ニオイが熱で蒸されかなりヤバイ。


 ――原因は、あいつである。


「オレはファイヤーだ! 亡魔獣だ! 人間ども! オレが全ての生物を溶かしてやる! ファイヤー!」

 生物が近づくと皆熱で溶けてしまうため、それでもなんとかコミュニケーションを取ろうと電波ジャックをして自分の意志を伝えるファイヤーさん。

 機材の配線も燃えて断線してしまっているなど色々問題あるがお構いなしである。

「これでオレの熱の凄さを伝えられたぜぇ~、この調子で熱くしてやる! 気合だ! 気合だ! ファイヤー!」



 ◆マニア城にて



 連日テレビ局やラジオ局で自己主張するファイヤーさんなので、亡魔獣討伐組としては情報提供感謝カンゲキ雨嵐である。

 新聞の3面記事にデカデカと掲載されているファイヤーさんを見ながら“けてマニア”かみやふくべえ、茎放美競刃達が朝食を取りながら会話する。


「自己主張の強い亡魔獣もいるのですね」

「なんか、すっげぇ雑魚そうなのが早速現れたけど、あいつも強いのかね?」

「はい、頭は良く無さそうですが、某ウルトラ怪獣に出てくる敵のようなスペックを持っています」

「一兆度の火球ってやつですか?」

「そうです」

「それはすごいね」


 半分棒読みでスルーしながら朝食を続けるなか、姫奏が起きて来て会話に混ざる。


「亡魔獣ってなんなの?」

 姫奏が〈亡魔獣ファイヤー〉のお陰でニュースや新聞ネット検索用語一位に輝いた〈亡魔獣〉についてかみやふくべえに聞く。


「次世代のモンスターですね、今までのモンスターと違い、言語を使い、“概念”と呼ばれる特殊能力を持っているモンスターをそう呼んでいます」

「概念?」

「イヴが繭を作るときに込めた念ですね」

「概念とか、なんだかよくわからない………」

「我々マニア達が、技術と真理の探求によって生み出した新しい力……それを標準装備しているモンスターと言えば分かりますか?」

「えっ……それって……」

「そうです……亡魔獣は我々を意識してイヴが作り上げた刺客です」

 自分たちを倒すために生まれた刺客…そう言われると逆に戦ってみたくなる。


「私がホーリーライトソード(仮)で倒す!」

 姫奏が先日編み出したホーリーライトの光剣を出してポーズを決めて構える。


「あの敵たこ焼きの中身より熱いぞ」

「え、熱すぎだ……じゃあやめた」

「諦めるのはえーな……」

 以前たこ焼きを食べた時中身が異常に熱くて舌を火傷したことがあるのでたこ焼きは恐怖の対象である、もう絶対食べないと誓っている。


「あ、フーフーすればいいんだ」

「もういいから、お前たちは学校行きなさい」

 姫奏の存在感に隠れて埋もれているが、千雪もいつも側にいる。


「はーい」



 ◆シャトレーヌ学園



 学園に到着し、クラスメートや他の学年の人たちとも交流が深まった。

 生徒会選挙依頼、あいさつ運動をしよう! と生徒達が結束しとてもいい雰囲気に変わりつつある。

 退屈だった授業も今なら楽しめ…、今日の授業は音楽社会保体国語英語特活…。


 学校の授業はつまらなかったが、部活の仲間と一緒にいるのは楽しい。

 今では、学校を休んでいた千雪も加わり、週2回効率を無視した狩りに出かけている。

 今日が丁度その日だ。

 姫奏にとってはレベルの低い狩りだが、仲間の育成支援を手伝っていくうちに、少人数なら支援職らしい立ち回りも覚えていった。


「自分でもこんな戦い方もできるんだな」そう思える事が聖職者としても自信がついていく。

「番長はヤッパリ強いっス!」


 私の事を番長と呼ぶどっからどう視てもそっちが番長だろって風貌の男、石本

 武闘家のjobで拳を武器に戦う、だが本人は魔法で戦いたいらしくこの魔法学園に入学したらしい。

 彼もまた目標にしている人物がいるらしく、その人物が武闘家にして魔法を扱う超人らしい。

 4千年以上昔にこの世界で武闘を極めたという人物で拳に魔法を纏ながら戦う事が出来たらしい。

 詠唱を必要とする魔法でも、予め拳に魔力を纏ながら戦えるなら確かに脅威的な戦闘力になると思う。


「生きていたらぜひ弟子入りして武術を学びたいッス!」という石本だが、普通に考えて4千年前の人物が生きているとは思えない、諦めるべきだろう。


 今日の狩場はどこにいこうか?そんな話し合いが始まった。

 正直、この暑さと臭さで外に出たくない姫奏、行くならダンジョン系だが近場のダンジョンで手頃な場所……あった。


「今日は、海底洞窟で磯臭くなろう!」


 どうせなら磯臭い方がマシ、海底洞窟なら避暑にも丁度いい。

 アクセスもよく、海岸より徒歩で10分位歩いた先にあるので交通の便もいいのだ。

 ―海底洞窟の探検に一行は向かった。



 ◆海底洞窟



 この洞窟も幾つもの層に別れていて、最深層まで行くとそれなりに強い敵が現れるらしいが、中学生が行ける範囲では弱い海産物モンスターばかりで、地元の物産展にもっていけばいい小遣い稼ぎになる。

 スペースによっては○○中学校産などプレートを付けてくれる漁師さんもいる。

 地元の子供達に取っては狩場と言うより遊び場に近い場所だ。

 そう、ようするに狩りというより遊びに来たのだ。

 海流の関係で一年中洞窟の水温は一定で泳ぐには持ってこい、

 天然の屋内プールである。


「一応部活だから、狩りの目的も含めないかい?」

「じゃあ、海産物集め競争しよう! 小型モンスターが1点中型2点とかにしてさ」

「なるほど、面白そうだね」


「じゃーん!」

 突然の水着である、ゴーグルに銛に装備は完璧だ。


「うわ、もう着替えていたの?(ずっとケンタが作った応援団の旗をマントにして包まっていたからおかしいと思った)」

「ちゅきは着替えてきてないの?」

「うん、着替える場所そのうちあると思っていたらなかった……」

「じゃあ、ちゅきはもう負け決定だね」

「潜らなくても……カニとかとれるし……ペットボトルの罠作ってきてるし!」

「おおペットラ(ペットボトルトラップの略)…そうきたかぁ」

「だから姫奏ちゃんには負けないよ」

「私は大物で高得点狙いだし、イソガニだけじゃ勝てないよ?」

「ヤドカリもとれるし!」

「う~……」

 バチバチと目から火花を散らして睨み合っている二人。


(おいらたち、完全に無視されてるなぁ)

(ちゅきさんと話してる時の番長激カワッス!)

「じゃあ、スタート!」


 洞窟の入り口付近は太陽の光が届き、発光する謎のサンゴなどがいて比較的明るい。


「そういえば、姫奏ちゃんって泳げるの?」

 準備運動のピッコロキャ体操(幼児番組の意味不明な掛け声で手足をばたつかせるだけの簡単な体操)をして海に潜り込もうとしていた姫奏だが千雪の突っ込みで動きが止まった。

「……泳げないのにそんな準備してきたの?」

「水に入りたかっただけだったしね」


 肩に浮袋を付けてシュノーケルを咥えて海面に顔を付けて海中を覗くだけで満足気だった。

 時々見える30センチくらいの魚でも姫奏にとっては大物だったのだ。

 てっきりガンガン潜っていくのだと思っていた千雪だったが、姫奏が自分の近くでプカプカ浮いているだけで、実際には勝負にこだわらず涼みに来ただけなのだと再認識した。


 岩の隙間にペットボトルの罠を仕掛けて、カニなどが入っていく様子を見守っている千雪に姫奏が隣に座り声をかけてきた。


 ――もう泳ぎ飽きたのだろうか?


「ちゅきのお兄さんって本当にちゅきのお兄さんなの?」

 いきなりド直球な質問である。


「……義理のね」

「やっぱり、全然似てなかったしね」

「向こうが宗家で私が分家の人間なんだよ」

「それって関係あるの?」

「うん、御徒原家はそういう家系なんだよ」


「ちゅきも、あの天使みたいなの使えるの?」

「あれは宗家の人が受け継いだ力だから、私は使えないよ」

「じゃあ傘を分家が持つって感じ?」

「いや、傘も宗家のものだよ」

「ちゅきたちには何も受け継がれないってこと?」

「そう……御徒原家は宗家のみで成り立っている家だから」

「ふーん……めんどくさそうな家だね」

「ははは……けど、気楽なものだよ、何もしなくていいってことでもあるから」

「ふーん……」


 何かを考えながら水に足を付けてパシャパシャと水かきする姫奏。


「さて、もう一回泳いでくるかな」

「いってらっしゃい」

「ちゅきも、本当に頑張ってるんだね」

「――!」


「カニ沢山入ってるといいね」

「あ……」



 結局姫奏は水遊びしてばかりで大した狩りもせず、千雪のペットボトル罠も時間帯的にそこまで多くとれなかった。


「10匹位入っているのかな?」

「うーん、お味噌汁のダシくらいにはなるかな?」

「帰ったらミケーバに作ってもらおうね」



 ◆



 部活も一段落し、帰路に帰る姫奏達と同刻、亡魔獣ファイヤーはマニア城に近づいていた。

「ここが、人間共の大ボスが住むっていうマニア城かっ! 燃えやすそうだぜっ! ファイヤー!」

 ……そこに一人の老人が近づいてくる。

「なんだこのジジイ、徘徊爺さんってやつか?」

 ヨボヨボと歩いている老人、見てるだけで危なっかしい気分になる。


「骨と皮だけ……一瞬で燃えてしまうな……」

 ……だが、老人はファイヤーにピッタリと近接しているにもかかわらず燃えるどころか暑がりもしない……認知症で体感温度がマヒしているのだろうか?

 いや、違う、ファイヤーに只ならぬ不安がこみ上げる。


「……お前……何者だ? なぜ他の奴らみたいに溶けない!?」


「熱を……避けているからのぉ……」

「熱を……避ける?」


 意味不明すぎる、ファイヤーの目にはただ小刻みに震えているだけにしか見えないが、それが避けているというのだろうか?


「あ、外組偽げっくいさん! もう勝手に出て行ったら駄目じゃないですか!」

「家に帰るのじゃ……」

「外組偽さんのお家はここですよー」

「そうなのか……」

 ファイヤーを無視して外組偽を迎えに来て家に戻ろうとするマニア城に住む介護士の血鬼移けっきい


「……こいつも溶けない……? なぜだ」

「ん? あ、これのお陰ですかね」

 出したのは介護で使われる失禁用の尿とりパット、既に尿を含んでいてパンパンに膨らんでいるものを紙に包んで捨てる途中だった。

「それで……なぜ燃えない?」

「水いっぱい含んでたら燃えづらいんじゃないですか?」

 そういって何事も無かったように家に戻ろうとする。


「いや……まて……ありえんぞ……オレはファイヤーだ! オレの熱で溶かせないものなど無いんだ!」

「あ、あなたがけてマニア達が言って亡魔獣の……」

 ファイヤーの名前を聞いて初めて気付いた様子の介護士の血鬼移。


「オレを知らないで出てきたのか?」

「一応仕事してる身なので討伐隊には参加してないんですよねぇ…けど、外組偽さん久々に戦います?」

「あい?」

「外組偽さん! た・た・か・う!?」

「あー、いいのかい?」

「人類のっ、敵なんだってっ!」

「ほぉ~……」

 耳が遠くなっている外組偽老人に大きな声で話し掛ける介護士。

「ん? オレと戦う気か? オレは亡魔獣ファイヤーだ! 強いぞ!」

「ワシは…閤昊外組偽こうこうげっくいじゃ……ワシも強いぞえ?」

「おもしれぇ!」

「あ、すいません、その前にバイタル測定いいですか? 念のため」


 突然血圧計を取り出し測定しだす介護士の男。

「歩いてきたばかりだし高くなってるかな~……あ、いいですね~」

 129/78(74)…ケース記録と書かれたメモ帳にサラサラと記入しだす男。


「血圧問題無さそうですね、OKです」

「…………」

「あ、外組偽さん戦うんですよぉ!」

「おっ、そうかそうか……」

「すいません、ファイヤーさん、外組偽さん10秒くらいしか記憶留めていられないんで進行早めにお願いできます?」

「分かった」

「あの、どちら様ですかえ?」

「亡魔獣だって! けてが戦ってもいいって言ってたやつ!」

「けて?」

「けてマニア!」

「ああ……」

 あまりのマイペースさにファイヤーさんもたじたじであった。


「……こいつら大丈夫なのか……?」

「外組偽さん、氷雷拳やってよ」

「?」

「ひゃっこいやつ!」

「ああ、あれね」

 外組偽がようやく戦闘態勢になる、拳に魔力を集中させる。


(あんな耄碌になぜあんな集中力が…ありえん魔力量…こいつ強い)


 外組偽老人の只ならぬ魔力を感じ取り戦闘態勢に入るファイヤー。

 熱気が周囲を包み、異常な熱がファイヤーを包む。

 熱で陽炎を創り草木があっという間に乾燥し灰と化す。

 炎の魔神イフリートのような風貌、炎の魔神の一撃が外組偽に襲い掛かる。


 ――その炎の塊を拳で振り払いファイヤーに怒涛の攻撃を放つ外組偽。


「なッ……なんだと!?」


 ファイヤーの体が急速に冷凍されパラパラと体が崩壊する。

 一瞬にして対極の属性攻撃をうけたことでファイヤーの平静が失われる。


「くそっ!」

 力を込め火球を飛ばし外組偽の周りを炎で塞ぐ。


「所詮は人間など溶けやすい成分で出来てる劣化生物なはずだろぉ! 炎で全てを包み込めばオレの勝利だぁ! ファイヤー!!」

「誰に話しかけているのかのぉ…」


 遥か遠くの背後に一瞬にして存在する影――。


「い……いつのまに……」


(ありえん…さっきまでヨレヨレに歩いていたはずの老人がなぜ…こんな素早く…)


「縮地という技じゃ…歩いてはおらんよ」

「な…なんなんだっ! このジジイ!」

 心の声まで見透かされている?ファイヤーは得体の知れない恐怖を感じた。


「外組偽さんは人間最強の武闘家ですよー」

「にへへ……」

 褒められて笑う可愛い老人。

「…………」


「そういうことか……じゃあ、予定より早いがオレも真の姿で戦うことにしよう……」

「……?」

「あ、聞こえなかったみたいです、もっと大きい声で言ってあげてもらっていいですか?」

「オレのッ! 真のッ! 姿ッ! 見せてッ! やるッ!ッて言ったぞッ!!」

「ほぉ~……なんだそれは??」

 ズッコケてしまいそうなファイヤーさんだったがさすがに堪忍袋が切れてしまい本気で世界を滅ぼすために変身を始めることにした。

「ハハハ……俺は熱の亡魔獣…思考能力は無くなるが無限の熱エネルギー体になることが出来るのだ! ムニムニガスに引火してこの世界をイヴ様の匂いとともに滅ぼしてくれる!」


「あ、こちらでーす」

 姿がみるみる変化していく途中にパタリと箱に詰められトラックの荷台に載せられ運ばれていくファイヤーさん。

 運ばれた先は火力発電所、市役所勤務の血鬼移が役所と相談してファイヤーを燃料代わりにできないか電話連絡しており、けてマニアの協力でファイヤーを内燃機関に閉じ込めることに成功した。

「重油や石炭と違って、CO2の排出量が少なそうでいいですね」

「クリーンエネルギーですね」

 こうして亡魔獣ファイヤーを無事封印し世界の熱問題を逆に利用することで解決することができた。


 次回予告

 戦争地帯で生まれたばかりの亡魔獣の少女と出会う少年

 逃げてばかりの弱い自分を庇ってくれる少女に恋心を抱いてしまう。

 しかしそれは亡魔獣として一つの概念による行動に過ぎなかった。

 次回反転の亡魔獣 ぴっころきゃったらぴっころきゃ!

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