ある日の遊公部の狩り
今日は学校が午前授業で終わったので、午後からは遊公部のメンバーが集まって遠出をしてみようということになった。
牧歌的な風景を背に、幌馬車を借りて街道を行く。
「遠足みたいだね」
「こんな遠くまで来るの初めてだよ」
踏み固められた程度の道は、車輪がいつとられてしまわないか不安になる。
小刻みに揺れながら歩む馬車は、馬力に反して遅く感じる。
(一人なら、速度増加で疾走ったほうが早そうだなぁ)
そんな風に感じながらも、賑やかな馬車の旅も悪く無いと微笑む姫奏だった。
ガタン、車輪が小石を乗り越え馬車が揺らぐと、停止した。
「目的地ですね」
姫奏達は、ツパベンロケコニの洞窟と呼ばれる場所に来た。
火山群に囲まれた山々に、人喰い植物や巨大化し凶暴化した動物型モンスターが潜む高難易度狩猟区。
「さっそくいってみよぉ」
姫奏は球状にホーリーライトを浮かべ、仲間を照らす。
暗闇に包まれた洞窟が明るくなる。
「番長のホーリーライトは洞窟攻略に不可欠っスね!」
姫奏のホーリーライトは、松明や、ポータブルライトより明るい。
さらに、ホーリーライトは、聖なる力によりモンスター以外の脅威である感染菌なども除菌できる為、戦闘によって受けた傷から破傷風などの二次災害から実を守ることが出来る。
「まあね!」
いつもの石本の持ち上げによって気分が良くなる姫奏。
岸壁に沿って歩いて行くと大きな蝙蝠が突進してきた。
「空飛ぶモンスターなら、あたしに任せて~エイっと!」
上下が身体に挟んでいた弓を構え蝙蝠目掛けて矢を放つ。
矢はなぜか背後にいた石本の足元に突き刺さった。
「うひょっ!? う、上下さん! 俺に恨みあるんスか!?」
「あはっは~♪ ハルは、ノーコンだから背後注意なんだ~♪」
「上下さんはもう攻撃禁止っス!!」
「え~あたしも狩りたいのにー!」
この人間はある意味危険だ、と怯えた蝙蝠は別の人間に攻撃を切り替えた。
目を瞑り、精神を集中し居合切りで刀を振る美月。
錦色をした美しい残影が暗闇を彩り、切り裂かれた蝙蝠は、邪気が抜け逃げていった。
「ビッキーリーダー優しいっスね~」
「無駄な殺生はしない主義だからな」
「そんなんだからレベル上がらないんじゃないの?」
「やっしーはクールだな……」
聖職者の割に狩りまくる姫奏より、よっぽど聖者な美月だった。
さらに洞窟の奥へ進むと新しいモンスターと遭遇するのだが、その姿をみた部活メンバーは吐き気を催す邪悪に出くわす。
「ゲゲー!! なんスか!? この豚が胸につけてるのって……」
肌色をした豚人間のモンスターが人間の女性用ブラジャーを付けていた。
「コイツは殺そう……!」
女装マニアである美月が、中途半端な着こなしの豚に殺意を向けた。
「ビッキーの前で、下手くそな女装は絶対禁止だね……」
「あの豚は女装とはまた別の趣味だとおもうんスけどね……」
その後、様々なモンスターと戦闘を繰り広げ、大きな水溜りのある所で足止めをくらう。
「ここが、この洞窟の最深部かな?」
突如地響きが起き、狭い洞窟が震えだした。
「……ん、なんだ……」
「ちょっと……崩れないよね……」
パラパラと砂が天井から流れ落ち、不安になる……。
一旦静まる洞窟……だが姫奏達の背後、外へ続く出口を塞ぐように巨大な岩石のモンスターが現れた!
「出た!!」
石本や美月達前衛のメンバーに、専門外だが少しでも強化出来るように支援スキルを掛ける姫奏。
今回は出来る限り自分は戦わないで仲間たちのレベルアップをサポートしたいと思っている。
(ホーリーライトを活かすためには、もっと戦術の幅を広げていかないとダメなんだ……みんなと戦っていけばその手掛かりが掴める気がする)
岩石の巨大なモンスターは口を大きく開け咆哮をあげる。
超音波のようにビリビリと伝わるその音はレベルの低い者を居竦ませる力がある。
「体が……動かないっス!?」
「危ない!!」
岩石のモンスターはそのまま両腕を振り上げた、自身の体からボロボロと崩れる大粒の石ですら武器にする。
「ぐああぁ!!」
大きさは人の拳くらいの石でも当たれば痛い。
しかし、姫奏が予めホーリーフレームなどで守備力を高めていたおかげで致命傷にはならなかったようだ。
「番長! 助かったッス! 今度は俺のばんッスよ!!」
自分の何倍も巨大なモンスターに立ち向かっていく石本。
その途中に、体が軽くなるのを感じ取る。姫奏から速度増加の支援スキルをもらい素早さが倍になる。
「突然はやっ!!」
岩でできた重たい体は動きがとても鈍く、倍速になった石本には余裕で攻撃を躱すことが出来、的確に打撃を与えていく。
「オラオラオラッ!!」
「よーし、あたしも攻撃しちゃおー!」
「マジっすか!?」
上下が調子に乗って矢を構える、変な緊張が石本を襲う。
狙いを定める上下に姫奏がサポートする。
「ホーリーライト!」
姫奏はホーリーライトをモンスターに向けて放ったが攻撃としてではなく、赤外線照準器のように一本の赤い線が伸びた。
「ハル! これに合わせて」
「ヤギさんありがと~えいっ!!」
上下の矢がモンスターにクリティカルヒットし、断末魔と共にガラガラと崩れていく岩石のモンスター。
「やったー倒せたー!」
大喜びの部活メンバー達を見て、姫奏もほっと一息つく。
「ナイスアシスト、やっしー!!」
「番長の支援すごかったッス! 感謝ッス!!」
姫奏の周りに駆け寄って、姫奏のアシストを褒め称えるメンバー達。
「そ……そうかな……えへへ」
真っ赤になって照れる姫奏、千雪に目線を向けると、千雪も褒めてくれた。
「支援上手だったよ、姫奏ちゃん」
「ちゅき……あ、そうか」
「どうしたの?」
「あ、いいや。あとで確かめる」
「そう……?」
(ホーリーフレームで包めたんだから、他の支援と組み合わせもいけるんじゃないかな……)
新しい可能性にワクワクしていると、岩石のモンスターの瓦礫から何かを一生懸命に探っていた上下が歓喜の声を上げた。
「あった~!! 岩の心臓ゲット!!」
「なんスか!? レア物っスか!?」
「矢の材料になる!」
「自分用っスか……」
「皆で倒したんだから分けないと不公平じゃないの?」
「えー、みんなは拳とか魔法だから消耗品いらないからいいけど、あたしは攻撃のたびにお金かかってるんだからいいじゃん! 矢代だよ、やだい!」
「わたしは分前いらないから、別にハルにあげてもいいよ」
「番長がそういうなら」
「やった~」
仲間内でモンスターの落としたアイテムを分けたり、お互いに成長を喜び合ったりする。
少し前までずっと独りで戦ってきた姫奏にとっては、夢の様な時間。
――皆、ありがとう。
心の中で深く、感謝する姫奏だった。




