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被災地 慰霊

 姫奏と千雪は、ミニチュアダークフンドの事件の発端となった被災地に足を踏み入れていた。

 呪われた土地とし、生物は住み着かず、草木一つない荒野となった場所。


「本当になにもないところだね」


 姫奏はしゃがんで、土を一摘みし触り心地を見ている。


「どうしたの?」

「ん、昔を思い出して……」


(前日の大雨で泥濘ぬかるむ所もあるけど、比較的に水はけの良い土壌だとおもう、これなら……)


 被災地の中心部にたどり着く姫奏達、ダークフンドが巨大な爆弾に変身し爆死した場所だろう、外周に比べ明らかに大きなくぼみがある。


「どうして、ここに来たかったの?」

「まぁ、聖職者として、慰霊にね……ホーリーライト……」


 持参した聖水に対してホーリーライトを使用し、器に入った聖水が光で包まれていく……。

 姫奏はその器を天高く掲げると光とともに聖水は風に乗って運ばれて行き土地を清めていく。


(綺麗だなぁ……)


 光の粒が遠くまで浮遊し、幻想的な光景が広がると、姫奏は静かに黙祷を捧げた。



 ミニチュアダークフンドが、変身によって姿を変え、目的の姿になるまでの過程はとても残酷なものだったという。

 若干の色や形の違いでも妥協せず、拘り続けた人間は、いつまでも繰り返し“怒り”を与える虐待を行ったという。

 親や兄弟、恋人など大切なものの損失、あらゆる怒りの形をもってミニチュアダークフンドは変身させ続けられた、その事実を聞いた姫奏は幼い心に深い傷を負い、人間の残酷さに涙が止まらなくなった。


「今更……許してなんて言えないよね……、それでもケンタはわたし達を許してくれたんだね……」


 大粒の涙が乾いた大地を湿らせる、ふと足元に視線を移すと、何か光るものがあった。


「これ、なんだろう」


 何もないと思われた荒野だからこそ、目立つそれは姫奏に見つけてもらおうと自己主張しているようだ。


「それ、ケンタが姫奏ちゃんにあげようと作っていたやつかも」


 あの日、姫奏の13歳の誕生日に向けて、ケンタがプレゼントを自作していたことを思い出す千雪。


「そうなんだ……」


 拾い上げ、手のひらにのせる。

 珊瑚礁で作られたような細かいキラキラと輝く粒子が美しい、コーラルピンクの色をしたハートに、純白の羽飾りがついたヘアピンだった。


「ケンタらしい、かわいいデザインだね……」


 ケンタ自身が粉々に踏み潰したハズのヘアピンだが、変身能力の持つダークフンドの亡骸が材料であることと、創造主のケンタの覚醒による連鎖反応なのか、復元された状態で姫奏の元に現れた。


「姫奏ちゃん、せっかくだし、つけてあげたらどうかな、ケンタもきっと喜ぶよ」

「……そうだね」


 ケンタの想いが込められたヘアピンを髪に飾る。

 風にのって、「魔法少女みたいでかわいいよ」と言っているような声が聞こえた気がする。


「じゃ、帰ろっか」

 振り返り、千雪に声をかけた姫奏だが、その先に居た予期せぬ訪問者の影に、即座に蓄積杖を取り出し戦闘態勢になる。

 漆黒のローブに包まれ、悠々とした態度で佇むアン・シャトレーヌの姿だった。


「あらあら、そんなに睨んで……、可愛い顔が台無しよぉ?」


 クレーターの中心部にいた姫奏達を見下すように、クスクスと耳障りなわらいを響かせるアン。

 禍々しい気がじんわりと充満し、不穏を孕んだ風が吹き流れる。


「あんた……なんでここに……自分から戦わないとか言ってたくせにふざけてるの!?」

「クスクス……中間テスト……っていったところかしら?」

「なにっ!?」


 対立する姫奏の態度を、愉しげに口角を歪めねっとりとした声で嘲笑うアン。


「まぁ……本気で戦うつもりはないわ……、あれからどれ位強くなれたか見に来ただけだから……」

「生憎だけど、わたしはここでは戦いたくない」


 ケンタの同胞が眠る地を、戦場として荒らしたくなかった。

 それでもアンは無神経に挑発し、己の欲望のために姫奏を戦いに駆り出そうとする。


「そぉ? ここは素晴らしい霊脈で、魔法を扱う者にとって最高のステージなのよ?」

「そんなこと……知ったこっちゃないよ……わたしと戦いたいならここじゃなくて……」


 姫奏が言葉を言い終える前に、唐突にアンの漆黒のローブから色白の腕が飛び出した。

 アンが無詠唱でスキルを発動し、闇の魔術が解き放たれてしまった。

 強制的に戦いの火蓋は切って落とされる。


「姫奏ちゃん……危ない!!」


 千雪が御徒雅穂を構え、アンの魔術を防ぐ。

 アンはその瞬間を待ち構えていたように、目を見開き叫んだ。


「出たわね……それがあのダークフンドの攻撃も防ぐチート傘ね……!!」

(こいつ……あの日の戦いを見ていたの?)

 あの場には自分たち以外の気配はなかったと思う姫奏、以前のナイトレインボーの時といい、アンには千里眼に似たスキルがあるのだろうと推測する。

 アンの無詠唱の攻撃は続く。


「私の魔法も防げるのかしらねぇ……!」

「ちゅき!?」


 千雪の周辺に闇の炎が吹き上がる――、一瞬にして炎の壁は周囲の土砂すら包み込み真紅に染め始める、勢い良く猛る炎は旋回し、天まで続く巨大な炎柱が出来上がった。

 それは正に、地獄の劫火……!!


「クスクス……炎じゃ死ななさそうねぇ……」

「炎……じゃ……まさか!?」


 姫奏はアンの狙いに気が付き戦慄する。


「アン! 炎を消して! あなたはわたしと戦いに来たんでしょ!」


 地獄から呼び出した灼熱の劫火は周囲の酸素を吸い上げ燃え盛る、たとえ無敵の傘だとしても、中に存在する人間が必ず行う呼吸。その呼吸を封じ、窒息と燃焼で生じる一酸化炭素による中毒死をアンは狙っている。


「そうねぇ……でもお友達はなかなか我慢強いみたいね……もしかしたら既に傘をもったまま死んじゃってたりして……」


 嘲笑い炎を全く緩めようとしないアンに、遂に姫奏が怒り、蓄積杖を強く輝かせる。


「アンッ!! 絶対許さないから!!」

「やっとやる気を出してくれたわね……まずは、前回の復習よ……」

「速度増加!! 魔力増加!! ホーリーライト!!」


 素早く自己強化スキルを使用し、ホーリーライトを放つ姫奏、アンによる割り込みの攻撃が来ないことを考え、アンはマジックリフレクトで反射をしようと企んでいると予想する。


 ホーリーライトの光の矢はアンに向かって行き、予想通りアンに当たる直前に軌道を変え、術者の姫奏の元へと帰ってくる。

 このタイミングでアンは姫奏にスキルを放っていた。


(ホーリーフレームを使う隙は与えないわよ……)


 だが、ホーリーライトの光は前回のホーリーフレームによる緊急停止とは違う手法で動きを止めたのだ。


「ふふ……やるじゃない……今回はなかなか愉しめそうね」

「わたしはちっとも楽しくなんかないけどね」


 姫奏もまた、アンの魔法を回避していた。

 顔はいやらしく嗤うアンだが、心は冷静に姫奏の驚異的な成長を遂げる魔法技術に称賛していた。


(自身の魔法を究極に理解しているからこそ出来る現象が起きた……、光における電磁波の振動数を操作し、一度のホーリーライトで緩やかな部分と早い部分を意図的に作り上げた、その結果タイムラグが発生し、直進する光と反射する光が衝突した……)


 俯き、肩を震わせるクスクスと嗤う、魔術を追求する者だからこそ、姫奏の成長を見て、快楽に興ずるのだ。

 気色悪い気配に侵食され、空気が淀む、ゆっくりと顔を上げるアン、嗜虐的な表情が見えた。


「さぁ――行くわよ!!」


 唐突にアンの漆黒のローブがまくれ上がり、その手にはある“武器”が見えた。


「銃!?」


 魔術師のアンからは程遠い獲物の出現に姫奏に緊張感が疾走った。


「うっ!?」


 気がついた時には既にダメージを負っていた。


(これは……いったいなにが……!?)


「早い魔法は貴女だけの専売特許だと思っていたのかしら?」


 死を漂わす硝煙の匂いが立ち込める、この銃こそ魔術師アンの真の武器――『サイレントリベリオン』

 弾薬に術者の魔力を詰めて使用するハンドガン式の魔法銃で、スキル無詠唱状態のアンが持つことにより、即効の再充填を可能とした。


「考えている暇はないわよ――!!」

「くっ……ホーリーフレーム!! きゃあっ!?」


 バリアを張った瞬間、バリアの耐久度を一瞬で消滅させ、吹き飛ばされる程の威力。

 姫奏の身体は蹴られたボールのように転がり数メートル先で止まる。


「……ッッ!」


 追撃が来る。

 倒された状態から、無理に膝に力をため、跳躍する。

 案の定と言わんばかりに避けた場所が爆ぜる。

 アンは空中に逃げた姫奏を追うように引き金を引く。


「ホーリーライト! ホーリーフレーム!!」

「ん…………!?」


 迫る魔弾をくるりと身体を反転させ躱す、それでもアンの攻撃は休まる事は無く、恐らくは目には見えない弾幕でこの辺り一面埋め尽くされていると言っても過言ではない。

 アンの武器、サイレントリベリオンは名前の示す通り無音の銃。

 装填から着弾まで全てが亜音速で済まされる。


「ぐぅ……っ、ホーリーライト! ホーリーフレーム!」


 ホーリーライトをホーリーフレームで包むことで、姫奏も周囲に複数のバリアを設置していくことで、アンの弾丸を相殺していく。

 激しい弾幕戦に発展する。


(まずい……おし……きれないかも……)


 驚異的な回避力でアンの攻撃を見極め食らいついていく姫奏だが、圧倒的な魔法の質が勝敗を分けようとしていた。


 姫奏のホーリーライトは悲しくもローレベルで、スキル中最弱の魔法に対して、アンのスキルは攻撃魔法のエキスパートである魔術師によるハイレベル攻撃魔法。

 加えて、低コスト故の高速連射が取り柄であったホーリーライトも、アンがサイレントリベリオンを装備したことで、全てにおいて上位互換のハイスペック状態になってしまった。


(コイツにだけは……負けたくないのに……!!)


 完全に追い詰められ、悔しさで涙が出そうになるが、零すまいと耐える姫奏の双眸そうぼうは、地獄の業火より激しく燃えていた。


「クスクス……今日は愉しかったわ……終焉よ!」

「勝手に……ッッ!! 終わらすなぁぁぁぁぁ!!」


 姫奏の絶叫に共鳴するように、手に握られた蓄積杖が激しく発光し異質な輝きを見せる。


「――――なっ!?」


 アンの魔法に、完全に威力も性能も劣るホーリーライトだが、そのホーリーライトを支えてきた姫奏の蓄積杖にはある特殊効果がある。


「なるほど……、その為の蓄積杖ね……」


 多くの攻撃スキルを持つ魔術師のjobは、モンスターの属性によってその属性に合わせたスキルを有効に扱い戦う。

 その時、使用する武器は属性に合わせて使い分けるのがもっとも賢い事だが、魔術師はいかんせん力を育てることはしないので、一度の冒険で持ち運べる武器の量は限定される。

 よって、全ての魔法が万遍なく強化される万能型の武器が好まれる傾向ができはじめた。


(雑魚スキルの強さじゃない……これは既に……)


 姫奏の持つ蓄積杖はその流行りに逆行する性質を持っている武器で、一つの攻撃スキルを使い続けることでその攻撃スキルの能力を蓄積し強化していくタイプの武器である。


「ホーリーライト!!」

「くっ……!!」


 つまり、ホーリーライトを使えば使うほど強くなる――。

 完全に追い詰められたと思われた姫奏が執念の巻き返しを見せ始めていた。


「なんてね……」

「え……!?」


 焦燥に駆られ追い詰められていた様に見えたアンが、口角を上げ不敵な表情に変わる。

 その途端、全力で回避してきた姫奏の動きを封じるあの拘束スキルが姫奏を襲う。


「そんな……ッ」


 透明なガラスのような魔法の壁によって拘束するプリズンヴェールが発動。

 さらに、姫奏のホーリーライトを封じる新しい妨害スキルが発動する。


「なにこれ……布……!?」


 本来は、視界を遮る為に使われるスキル〈ブラックカーテン〉光魔法であるホーリーライトをシャットダウンする。

 身動きを封じられ、闇のカーテンによって真っ暗な狭い空間に閉じ込められてしまう姫奏。

 ゆっくりと、近づいてくるアンの足音だけが聞こえ、ピタリとその音が止んだ。


「詰みよ……!!」

「――――ッ!!」


 アンが引き金を引けば、ガラスの壁ごと貫かれ死ぬ……。

 緊張に鼓動が早くなり、息が詰まる。

 しかし……待てども攻撃は来ない。

 耳を澄ますと、アンが何かと交戦しているような声が聞こえた。



「な……なんなの……この風は……っ!?」


 闇に閉ざされた姫奏の視界の向こうで、アンは見えない“風”に追い詰められていた。


「ああぁッ!! ウザいわねェッ!!」


 苛立ち、唇を噛み締め見えない不思議な力を突き詰めようと空間を睨みつけるアンだが、翻弄され続けるだけであった。


「あぁあ゛あッ!! もうッ!! 余計な邪魔がはいったわ!! 今日のところは引き上げてあげる!!」


 アンは負け惜しみか、苛々した面持ちで去っていった。

 アンがいなくなったことで、プリズンヴェールの効果時間が終わり、姫奏は開放された。


「あ……ちゅき、ちゅき大丈夫!?」


 姫奏へのスキルが解除された同時に、千雪への炎の魔法も鎮火したようだった。


「姫奏ちゃん!! 大丈夫だよ、姫奏ちゃん、アンを追い払ったの? すごいね」

「ちゅき!」


 何事もない様子で姫奏に近づき、友人の身を案じる千雪だが、その間ずっと傘の中で地獄の劫火を耐えていたことになる。

 アンは、ケンタの攻撃に耐える傘を見て直接的な攻撃では千雪の傘に勝てないと知り、窒息や中毒症状による間接的な攻撃によって、傘の防御を突破しようと考えた筈だった。

 しかし、千雪は傘の中で生き続けたことになる。

 友人の無事を喜ぶ一方、御徒雅穂の得体のしれない力に未知の恐怖を感じる姫奏であった。


「……ちがうよ、アンを追い払ったのはケンタだよ……」

「ケンタ……?」

「わたしが、もう勝てないと思った時……風になったケンタが助けてくれたの」


 姿は見えなくても、ずっと側で守ってくれる、温かい風に包まれ姫奏は空を見上げた。


(ちゅきにも、ケンタにも守ってもらってばかり……もっと強くなりたいな……)


 憎らしいアンではあるが、今回の戦いを振り返ると己の実力に合わせてスキルや武器を釣り上げてくれていた様に思え、もしかしたら本当に実力テストをしに来てくれたのだと思うと、ただ憎い敵だったアンが、良きライバルなのではと複雑な感情が芽生える姫奏であった。

 同時に自分の実力不足も深く痛感し、今まで以上に強さへのあこがれは深まる……。


(わたしはもっとホーリーライトの光の力を使いこなせるようになるよ!!)


 姫奏のホーリーライトの育成が本格的に始まる。

〈サイレントリベリオン〉

弾薬に術者の魔力を詰めて使用するハンドガン式の魔法銃。

アラベスク文様と象形文字が刻まれた美しい装飾は見るものを虜にする。その美しい見た目とは裏腹に嗜虐的な高い貫通力と瞬発力をもつ名銃。

リベリオンシリーズとして、火属性に特化した『スカーレットリベリオン』や魔力を持たない術者用の生命力変換式魔法銃『デモンリベリオン』などもある。


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