生徒会選挙
◆生徒会選挙前
「……なんて演説しよう……」
借り物の教室だったが、貸し出す前より教室は綺麗になっているのでありがたいという理由で正式に部室として利用出来るようになっていた。
人数も十分集まり正式な部活となれそうな(顧問待ち状態)遊公部の部室にて生徒会演説に向けて悩む姫奏。
勢いで切り出してしまったもの、大勢の人間の前で話すことなど生まれて初めての事となる、しかも演説となると緊張感が段違いだ。
マニア城の図書館では面白いネタ演説みたいなふざけたものはあったが今回はソレは参考にできない。
「み……みなさんこんにちは……このたび……せーとかいやくいん……せーとかいちょう……生徒会長……あ~やっぱり一年生の自分がいきなり生徒会長に立候補とかおかしいと思うんだよなぁ……」
ここできっと他の生徒は「1年生で?w」みたいな空気でしらけて自分の話をまじめに聞いてくれる人など居なくなるのでは……と予想ができる。
アンは、こういう部分を狙ってあえて提供してきたのだろうか……。
演説終わった後、一年生のくせに何言っちゃってんの? みたいな空気の中、アンがでてきて……ケラケラと自分を笑う……悪い想像ばかりしてしまう。
「うぅ……胃が痛い……」
「番長! 応援の旗出来ましたっス!」
「え……旗……? って番長って私?」
変形学生服を着こなし、明らかにツッパリ風な石本「番長はあんたでしょ?」と心のなかで思う姫奏だが、なぜ番長なのか気になったので聞いてみた。
「八祇間さんは、自分達をまとめ、この学園を束ねる番長ッス! あんな軟弱な生徒会の人間には任せられないっス! オッス!!」
まだ何も束ねていないんだけど…まぁ…いいか。
「けど、凄い旗だね……最初から作ったの?」
「そうっス! なんだか変なヌイグルミみたいな生き物も手伝ってくれたっス! 番長は動物にも好かれる心の綺麗な方ッス!」
ぬいぐるみ……ケンタか……よくみたら所々少女趣味っぽい工夫が……これで応援されるの……ちょっと恥しい……。
「調子はどうだい?」
美月光が教室に入ってきて、演説の原稿をみてもらう。
「う~ん…その通りなんだが…やっぱり否定形の文はあまり使わないほうがいいのでは?」
「だめかなぁ……」
「あまり話し言葉にしないで……自分がすることの公約とか活動動機とかがいるかな?」
「うーん……う~ん…う~う~……?」
知恵熱で頭から湯気が出ている……。
「気分転換に狩りでもしてきたら……?」
「そうする……」
「アレは相当悩んでるなぁ……よし、石本! さっそくその旗で応援演説してこよう!」
「オッス! ビッキーリーダー!」
「おいらは、リーダーなのね……」
◆
狩りをしている間も、自分が何を演説すればいいのかをずっと考えながら戦う姫奏。
気がついたらもう次の日の朝だった……なんて珍しくなかった。
「またやってしまった……まぁ……朝まで狩りをするのはいつもの事だけど」
別の事を意識していても、中等部が狩りできる範囲の深夜型強力モンスターでさえ無意識で倒せるレベルまで姫奏は成長していたことに本人は気づいていない。
姫奏のレベルは、大凡中等部では到達できない領域まで足を踏み込んでいた。
――そして、ついに生徒会役員立会演説会の日が訪れた。
◆
「やっしーなら大丈夫さ、緊張しないで」
「オッス! 番長! フレーー! フレーーッス!」
「ま、私が負ける筈無いけど、精々あがいてご覧なさい?」
『只今より、第○○期 生徒会本部役員選挙 立会演説会をはじめます。
今回は、2名の立候補者が皆さんに伝えたいことをスピーチ致します、その一言一句聞き漏らさない為にも、会の終了まで静かさを保ってほしいと思います。
それでは、初めの立候補者、八祇間 姫奏さんお願いします』
「ふふ……知ってる? こういうのは最初に演説したほうが負けるのよぉ?」
「な……(この土壇場でこいつ!)」
「がんばってねぇ~☆彡」
「(絶対にこいつには負けない!)」
演説台に立ち、一礼して演説を開始する。
『みなさん、こんにちは。この度、生徒会本部役員に立候補しました、1年1組の八祇間 姫奏です。
私は、入学してから生徒会の活躍を見てきましたが、正直不満だらけでした。
自分よりレベルの低い者には挨拶もなく、掃除も行き届いておらず……。
皆さんは何も感じていませんでしたか?』
「(やっしー……)」
『私が、生徒会に入れば、校内清掃を徹底したいと思います……』
(そういうえば空気が綺麗になってるよなぁ……)
『……小さなことから、コツコツとこの学園を良くしていきたいと思っています』
(あの子だったんだね、学校綺麗にしてくれていた子は……)
『最後に……いまこの学園だけに言える事ではないのですが、職業差別が問題だと私は思っています。
魔法使いは魔法使いらしく、剣士なら剣士らしく、もちろん伝統もあり大切なことだと思います、しかし、その固定概念がこの学園で差別を引き起こしイジメが発生しているのが現実です』
(…………)
『私は、聖職者です、けど支援は出来ません、だけど、いまレベルが90になりました』
生徒からどよめきが発生する……。
(あいつ……中1……だって言ったよな……90……レベル?)
『支援ができなく、パーティー狩りもまともにできない私がこれだけ高レベルになれたのは“ホーリーライト”という攻撃魔法があったからです、ホーリーライトは皆さんが知っているように弱い魔法です。
けど、私は、自分の魔法を信じて、育ててきました。
皆さんも自分の魔法を信じて戦ってください、あなたの魔法は、あなたが見てあげないと死んでしまいます。
他の人と、違う魔法や特技を選んでまで、ここにいるのは、自分のもつ魔法や特技が好きだからではありませんか?
その魔法を育てて、強くして輝かせてあげたいと思ったからではありませんか?
全校生徒が差別なく、笑顔で過ごせる事。それが私の目標です。
どうか、私に清き一票をお願いします』
パチパチパチパチパチパチ……。
『八祇間さん、ありがとうございました』
一礼して演説台から降りていく。
「ふう……」
(自分でもグダグダな感じだったとおもうけど、ひとまず伝えたいことは言えたと思う……)
「はぁ……長い……あんたの演説長すぎだわ」
「別にいいでしょ、長くたって」
「私が手本を見せてあげる」
『では、次は現生徒会長アン・シャトレーヌさんどうぞ』
――現・生徒会長の挨拶に生徒全員静まり返る
『え~っ、皆さん、私にい・れ・てね~♡♡♡』
『うぉぉぉぉぉ――――!!! 入れたいぞぉぉぉぉぉ//////』
「な……なにあれ……」
「入れる……なんて卑猥な響き……///」
興奮する上下。
『ヨロ~♡』
笑顔で手を振りながら降りていくアン。
ポカーン~……。
『2名の立候補者の演説が終了しましたので、生徒の皆さんは投票用紙に生徒会役員としてふさわしいと思うほうを記入し投票してください』
投票箱は不正がないようにその場で開票され、その日に当選発表する。
リアルタイムに表が見える、接戦だった
票の行方を見守る姫奏達。
「……――!」
(無駄にあいつの票が多い……どういうこと?)
(少しでも…皆に私の心が届けば…それでいい……けど……!)
『結果が出ました、第○○会生徒会本部役員選挙 立会演説会でより多くの票を集め、次期生徒会長に選ばれたのは……』
『アン・シャトレーヌさんです』
負けた――……!!
「惜しかったわね、まぁ……私が負けるはず無いって決まりきっていた事だけどね」
「くっ……そんな……」
『それでは、第○○会生徒会本部役員選挙 立会演説会は終了します、皆さんありがとうございました』
司会の終了のアナウンスとともに席を立っていく生徒たち。だが……。
「あら? あなた達も帰るわよ?」
生徒会の役員達が、アン・シャトレーヌの前に立つ。
「生徒会長……私達はもうあなたについていくことは出来ない……」
「……何を言っているの?」
「私、本当はあの子に…八祇間さんに生徒会を任したかった……」
「僕もです……」「あたしも……」
「アン様は……凄く強い魔法使いです……そのことは憧れて、尊敬していますでも……この学園を……本当に愛しているのはあの子だと……私は思いました……」
「…………で?」
「だから……私はあなたが生徒会長の生徒会なら……辞退したい……です」
震えながら訴える副会長の生徒たち、反発は死を予感させる……アンの絶対的な魔力が体を竦ませる!
殺される……と思っていた副会長達だがアンの返事は意外だった。
「……好きにしなさい、止めるも続けるもあなた達の自由よ」
「あ……ありがとうございます」
「ふふ……はじめから……」
「?」
「はじめから、あなた達には何も期待してなかったしね」
「アン……様……」
醜悪な顔でそう言って、アンは一人生徒会室に戻っていった。
一部始終をみていた姫奏に気付く副会長の少女。
「八祇間さん……」
「はい……」
「あなたに謝りたかった……私が間違っていたわ……ごめんなさい」
「いえ……こちらこそ……私もあなた達に色々しすぎたこともあったし……ごめんなさい」
「仲直り出来てよかったな、やっしー」
「うん……」
その姿を、帰っていったと思った生徒達が見守っていた。
「八祇間さ~ん! 俺はあんたの演説感動したぞー、イジメはもう見逃さないからなぁ」
「私もこんど掃除手伝うよー!」「僕も、自分を信じて強くなるよー!勇気をありがとう!」
「み……みんな……」
「おお~番長が……本物の番長として認められたっス!! 自分感動っス!! 男泣きっス~~~!! オロオロオロ~!」
「いや……番長でないから……」
(けど……これだけ大勢の人に……私の心が伝わったってこと?
ちゅき……もう大丈夫だよ、私ちゅきが安心して学園を過ごせる場所を作れたと思う)
「八祇間さん……一つだけ言いたいことがあるの、生徒会長のことで……」
副会長の少女が伝えたいこと?
「あの人は……何かを……呼び寄せようとしている…とても恐ろしい物を……だから気をつけて……本当なら私が近くで監視するべきなのでしょうけど……もう私には……」
震えだす少女、アンの最後の一言が、生徒会役員達の心に刺さっているのだろう……
「うん……ありがとう、大丈夫私がアンを止めるよ……」
生徒会役員にはなれなかったが、姫奏は大事なものをつかむことが出来た。
学園生徒達の心の絆を!
そして、アン・シャトレーヌが呼び寄せようとしている恐ろしい者とは……。




