学園再生
上下ハルの助言?から、この学園が、居心地が悪いなら自らの手でこの学園を変えるしか無いと考えた姫奏。
問題が山積みで何から始めるべきか悩んだが、ひとまず校内清掃から始めることにした。
マニア城の図書館で落書きが多い国は軽犯罪が多発していて、落書きを消していくことで軽犯罪が減った国の話が書いていたことを思い出した、原理としては小さな犯罪こそが、大きな犯罪を引き起こす、引きがねになるというもの。らしい……。
姫奏は、“けてマニア”かみやふくべえより、光触媒入りのペンキを借りた。
光触媒ペンキ(塗料)とは、光に当たることで汚れを分解し、浮かせる事ができる特徴のある塗料。
かみやふくべえが数あるマニアの一つ塗装マニアの経験により創りだした新世代の塗料――この塗料で落書きを消していけば再び汚れたとしても姫奏自身のホーリーライトで汚れをすぐに分解できるという訳だ。これで、落書き問題はOK。
更に、淀んだ校内の空気も除菌していく、ホーリーライト本来の性能がこういった魔法なので空間除菌は姫奏の得意分野でもあった、しかし広い校内を一人で清掃していくのには骨が折れる、姫奏はその問題をホーリーライトを空間に浮かべる応用技で対応、自らの手を離れた後もしばらく浮遊しているので、とにかくあちこちにばら撒いた。
1ヶ月ほどこれを続け、見た生徒からお掃除UFO出現などいろいろ噂が建てられ、空間除菌の効果で喘息やアレルギーの生徒が元気になり若干校内に活気が見えてきた。
「第一段階の環境改善は……順調……、次は……意識改善」
姫奏はこの学園はおろか、おそらくこの世界で起きている問題、job差別がこのイジメを助長していると考えた。
姫奏が散々言われ続けてきたこと「ヒーラーだから」「支援職だから」これらはjobの固定されたイメージからくる差別、千雪の「壁職だから仕方ない」という言葉を思い出していた。
今まで自分にしか言われてこなかったと思っていた差別や偏見の言葉。
もしかしたら、自分以外にもいるのでは?物理攻撃職なのに魔法で戦いたい人や、魔法使いなのに魔法を飛ばさないで弓矢を飛ばしたり…そういった趣向の人は必ずいるはず。
この世界では中学生から外の世界で狩りをしてレベルを上げることが解禁されるが、それこそがレベル格差の落とし穴。
高レベル帯はどこまでも進んでいけるが、レベルが低ければ相手が見つからず袋小路になる、同じような悩みを持つものを集めることで、パーティーを結成出来るようにすれば、仲間意識も強まり、低レベル帯で戦う術もなく停滞してしまっている層を救済できるのでは?
しかし、どうやって……この問題は部活の勧誘ポスターを見て閃いた。
「そうだ、そういう部活を作って呼べばいい」と
すぐに部活の申請に学校側に駆け寄ったが、いきなり部活は無理だけど、ひとまず愛好会から初めてみたら?と言われた、愛好会なら顧問もいなくてもよく自由に活動して良いとの事だった。
見よう見まねで勧誘ポスターを作ってあちこちに貼っては来たが、呼びかけは苦手だった。
部室はまだないので、開いてる教室を適当に借りて使わせてもらっている。
「実際に形だけは作ってみたけど…どうやって呼びこもう」
自分一人で考え思ったことを行動にすることはできるが、それを別の他人に伝えることが苦手だった。
「困ったな……」
その人が、明確にそういった悩みを持っている…というものが分かれば声をかけれるのだが、道行く生徒が全てそうだとは限らない、姫奏は自閉症傾向の強い性格で他人と関わるときは常に何かの“キッカケ”を自分で作り上げなければ話しかけれない弱点があった。
「こういうとき、ちゅきがいてくれたら…うまく一緒に話しかけていけるんだけどな」
自分の心の殻を唯一無効にする千雪の存在がどれだけ重要だったのか実感する。
◆姫奏が答えの出ない悩みを一人で抱え、1ヶ月が過ぎた、ある日。
「ここが、遊公愛好会かい?」
借りていた仮部室に一人の剣士が入ってきた。
「よろしく、おいら美月光……ビッキーって呼んでくれ」
「あ、はい(男の……人?)」
美月 光はとても綺麗な顔立ちの蒼髪の少年で一見すると女の子に思えるほどだった。
「まだ、誰も来てないんだな、おいらが一番乗り……かな? あんたが部長かい? 名前を教えてくれるかな」
「八祇間 姫奏です」
「じゃあ、やっしーだね、よろしくな、やっしー」
「よろしく……ビッキー?」
また新しいあだ名が付いた、中等部になってから色んな呼ばれ方をするようになったな、と思った。
教室に二人きり、沈黙が続く。
「不安かい?」
「え?」
「大丈夫……すぐに大勢集まるさ」
美月光という少年は凄く落ち着いていて、自分よりもずっと年上に思えた。
まもなくまた一人…また一人と集まってきた。
「こ……れは?」
「やっしーの今までの頑張りを見ていたのは、おいらだけじゃなかったってことさ」
私の頑張り? 自分では何も頑張ってきたつもりはなかった姫奏だが、気が付けば、10人以上メンバーは集まっていた。
それぞれは、仲間を作りたくてもキッカケが作れず悩んでいたり、姫奏と同じ悩みを持つ生徒がこれだけ多かったのだとは自分でも以外だった。
集まったメンバーで自己紹介していく。
ムキムキの体育会系の男の人、明らかに戦士っぽい男。
「オッス!自分石本ッス!中等部2年ッス!よろしくお願いいたしますっス!」
「よろしくお願いいたします」スッス?
「おいらは美月光、中等部3年の魔法剣士さ……名前はビッキーって呼んで欲しい」
ひと通り挨拶を済ませる。
「せっかく集まってくれたのは嬉しいけど……」
正直このあとどうすればいいのか……。
「週に……何回か集まって皆で狩りにでたりしないかい?」
美月が提案する。
「おーっ」「いいねぇ」「ぼく実はパーティー狩り初めてで……」
進行が苦手な姫奏に変わり、美月が進行役にかって出た。
「ここまでやれば、無理してやらなくても大丈夫さ……やっしーは他にやるべき事があるんだろ?」
「なんで……そのことを?」
「あとで話そう……」
この日は集まったメンバーの紹介で終わり帰宅する生徒達、美月と姫奏だけが教室に残った。
「あなたは……なんでこんなに私に協力してくれるの?」
「けてマニアは……元気にしてるかい?」
「ビッキーは……ふくべえさんを知ってるの?」
「おうさ……昔のよしみでね、おいらも…マニアだからさ」
自分のことを“マニア”と公言出来る者はある一定の領域で成果を遂げた人物であることをマニア城に住むものならばわかる。
この美月光という少年、自分とほとんど同じ年にして“何らかのマニア”を極めているという事だ。
「あ……けどこの事は内緒にしてくれな? けてマニアにおいらのこと聞いて何マニアか分かっても誰にも言わないでくれよな!」
「うん、ふくべえさんにも聞かないし、誰にも言わないよ」
ほっ……と安心する美月…隠したがるほどのマニアなのだろうか?
「で……本題だ」
「――!?」
「やっしーは、この学園、狂ってると思わないか? いや、わるい、思ってるから行動してるんだよな……」
「うん……」
「この学園が狂いだしたのは、今の生徒会長に変わってからなんだ」
「生徒会長?」
「ああ、この学園は、昔はこれでもそこそこまじめに皆魔法を会得して強くなろうと活気があったんよ」
「そうなんだ」
「だが、急に生徒会長が変わって…それ以来男は腑抜けて、女は淫れていった。
おいらも、剣で何人か正気を取り戻させて来たが……焼け石に水でね……、一人では何も出来ずに困っていたんだ。
そんなある日、一人でこの学園を根本から治そうと努力している生徒の存在に気づいてね…
正直、驚いたよ。やっしーがしたあの清掃活動…あれだけで相当数の人間が正気にもどれていたか気付いてたかい?
この1ヶ月、ずっとやっしーの活動をみて、協力したくなってね、だけど、共に戦ってくれる仲間…おいらにはそれを集める場を作ることが出来なかった……」
「けど、私は……集めた仲間をまとめる力なんてなかった……このままじゃすぐに解散しちゃうよ」
「おいらが……守っていくよ、やっしーが作り上げた聖域を」
「聖域?」
「やっしーは、無意識に聖域を作ることに成功したんだ、この場所にはもう邪気は寄りつけない、やっしーは一流の聖職者だよ」
一流の聖職者……初めて言われた……美月の言葉に胸の中の重苦しさが消えていくのを感じる。
「やっしー……この学園を支配して変えてしまった生徒会長……おいらは、こいつらを潰さない限り、この学園を平和に戻すことが出来ないと思う」
「うん……その新しい生徒会長…何者なのか解るの?」
「あぁ……あいつは、間違いない……前学園長デジレ・シャトレーヌだよ、今はアン・シャトレーヌと名乗っているけどな」
「アン・シャトレーヌ!?」
小等部の生徒を身勝手な自分の欲望のために犠牲にした前学園長…今は魔力を使っているのか子供に若返りこの学園の生徒会長になっているらしい。
「アン……」
因縁の相手が…今生徒会長としてこの学園に君臨し、再び何かを企んでいる…。
「あいつが……今、ここに……ビッキー! 私と……、一緒に戦ってくれるの?」
「おうさ……共に戦おう!」
手を取り合う二人。
新しい仲間……しかも同じマニア同士……一人で戦っていこうとしていた姫奏にとって本当に心強い仲間だった。
千雪を追い込み、職業差別を加速させる今の生徒会。
宿敵アン・シャトレーヌを倒す。
姫奏の闘士に火が着いた。




